TPP機に日本で農業金融拡大 豪大手銀幹部に聞く
農業金融分野で世界大手のナショナル・オーストラリア銀行(NAB)は、日本で農業金融業務を展開する。日本の企業によるオーストラリアやニュージーランドでの農業・食料ビジネスへの投資を促し、そこから発生する融資や為替リスク回避などの金融サービスを提供する。NABで農業金融分野を統括するデビッド・ソーン・国際コンシューマー部門長が日本経済新聞記者と会見し、明らかにした。日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を決めたことを受け、農業面などで関連ビジネス取り込みの動きが活発になりそうだ。
(聞き手は 編集委員 太田康夫)
――世界的に農業や食糧問題への関心が高まっている。
「アグリビジネスの潜在可能性は極めて大きい。アジアを中心にした新興国の発展で、今後、数十年にわたり中間層の拡大が見込める。食料の需要量が伸びるとともに、よりカロリーの高い食品を求める傾向も強まる見通しだ」
「オーストラリアは小麦など農産品、牛肉など畜産品の輸出国だが、食料に関しては検疫体制が整っており、『安全さ』『清潔さ』などの面で強い競争力を維持している。需要が急増するアジア向けの食料輸出地として有望だ」
――銀行として農業分野に力を入れているが。
「オーストラリアは一大農業国で、それを金融面で支えている。農家向け金融プランや農業の専門知識を持つアグリビジネス・バンカーを国内に600人擁しており、農業向け貸し出しでは3割を超えるシェアを獲得している」
「国際的にも農業金融に力を入れている。傘下にバンク・オブ・ニュージーランドやグレート・ウエスタン・バンク(米)を抱え、アグリビジネスの世界での顧客数は14万にも上る。アジアの需要増を見越して、この分野の拠点をシドニーから香港に移した」
――日本での展開も視野に入れているのか。
「大手商社などがオーストラリアで農業や食料関係の投資をしており、そうしたところと関係を深めていく。今後、中堅企業などにもオーストラリア、ニュージーランドでの農業・食料投資を勧め、そこから付随する金融業務を提供していきたい。企業の規模が小さくてもオーストラリアに投資するなら、我々は関連資金を融資する。融資、債券・株式発行、ヘッジ手段の提供のほかに、関連する貿易金融サービスも提供する」
「オーストラリアは国の信用力が最上級のトリプルAで、NABの格付けもダブルAマイナスと高い。法律体系もしっかりしている。オーストラリアで広い顧客ベースを抱える我々と組めば、日本企業は適切な投資先などビジネスパートナーを探せるだろう」
「当面のターゲットはオーストラリア向け投融資関連ビジネスだが、我々は(農業在庫を担保にした融資など)農業金融に関する経験と知識を持っている。日本では農業金融への関心が高まっていると聞いており、将来的には関心のある金融機関などパートナーとして連携することもあり得る」
――日本企業にとってオーストラリアの農業向け投資の意味は。
「オーストラリアの農業の課題は生産性の向上だ。日本の農業は生産性を上げる高い技術を持っていると理解している。それをオーストラリアで発揮できれば、大きなビジネス機会になる」
「投資対象も高級食材から、低価格ものまで幅広い。オーストラリアでは刺し身用のマグロがとられているし、高級ワインも作られている。日本ではオーストラリア・ワインが随分普及してきたが、日本向けには安心・安全・高品質な作物・加工品を作れる」
「日本の企業にとっては市場が広がる効果も期待できる。オーストラリアに投資して生産した農作物や食料を単に日本向けに輸出するだけでなく、地理的に近いアセアンに輸出しやすいのではないか」
――安倍晋三首相はTPP交渉への参加を決めた。
「オーストラリアは基本的には日本の交渉参加表明を歓迎している。自由化が進めば日豪双方にとって、利点は大きい。日本は巨額の資金を抱えているが、TPPに入れば投資機会を見つけやすくなる。日本の農業技術をオーストラリアで伸ばしやすくなる」