価格破壊という「誤解」を解きたい アマゾンジャパン
――2012年6月末に「Kindle 近日発売」と告知して以来、実際の発売までに時間がかかった理由は。
発売までの時間が伸びたという認識はありません。4月にジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)は報道機関に対し「年内に発表する」と発言しました。アマゾン ジャパンでも2012年内に開始しようと動いていました。ただ、6月末に近日発売と告知したからといって、1カ月以内に始めようと考えていたわけではありません。
アマゾンは米国で2007年にKindleのサービスを立ち上げ、英国では2010年、2011年は欧州各国で次々にサービスを開始しました。日本でもできるだけ早く開始できるよう準備を整えてきたわけです。さまざまな憶測はありましたが、何か予定が狂ったというわけではありません。
日本にはアマゾンへの誤解が2つある
――出版社との交渉に時間がかかったと言われている。
日本の出版社だから交渉に時間がかかったという事実はありません。アマゾン社内では、出版社との交渉は、日本でも海外でも同じだねと話しています。我々は日本で既に12年もの間、紙の書籍の販売を手がけてきました。それなりにユーザーの支持を得ていると自負しています。紙の書籍に加えて、電子書籍も取り扱いを開始しますということであり、今さら「黒船がやってきた」という捉え方は違うのではないでしょうか。
日本では誤解が2つあると考えています。一つは「米国ではアマゾンが電子書籍を安売りして価格破壊を起こしている」というものです。例えば、米国では9.99ドルで電子書籍を販売していることが話題となりました。ただ、これは全ての書籍がそうなのではなく、一部の売れ筋タイトルだけなのです。また、9.99ドルがものすごく値下げをしているように感じるかもしれませんが、実は一般の書店でも平積みになっている人気のベストセラーは希望小売価格の半分程度となる12~13ドルで売っているのです。それらと比べると、大幅な価格差があるわけではないのです。
もう一つの誤解は「アマゾンが安売りをすることで出版社の収入が減る」ということです。アマゾンが販売価格を決める「卸売モデル」の場合、実際の販売価格にかかわらず、本来の定価に一定の率を掛けて、売れた数だけ出版社に支払うという形を取っています。だから、アマゾンが安く販売したからといって出版社の取り分が減るということはありません。
出版社が価格を決めるなら「身分」を明かす
――卸売モデルのほかに、出版社が価格を決める「代理店モデル」がある。日本ではどちらが多いのか。
出版社や書籍によってまちまちです。代理店モデルの場合は「出版社により設定された価格です」と表記するようにしています。これは売り主は身分を明かさないといけないという特定商取引法に従ったものです。
コミックについては、週替りで5冊を取り上げ、第1巻を99円で販売するといった取り組みをしています。代理店モデルで販売している書籍であっても出版社に「こんな企画に乗りませんか」といった話をすることも多くあります。
――日本国内での売れ行きは当初の想定と比べてどうだったのか。
詳しい数値は明らかにできません。ただ、まだ専用端末のKindleを発売していない状態にもかかわらず、予想以上に高い売れ行きとなっています。2011年に開始したドイツでも専用端末の発売前に配信サービスを開始しました。それに比べると日本の方が良い立ち上がりをしています。スマートフォンの浸透率が高いことが影響していると考えられます。
また、コミックの割合も予想以上に多いです。開始当初の電子書籍は全体で5万冊、そのうちコミックは1万5000冊をそろえました。その比率を大きく超える数をコミックが占めています。コミックの第1巻を99円で購入した方は、かなりの確率で第2巻目以降を購入してもらっています。
紙の書籍との価格比較が一目でできる
――電子書店サービスは既に国内に多数ある。「Kindleストア」が優れている点は。
アマゾンでは、電子書籍を取り扱うことでユーザーの選択肢を増やしたいと考えています。きれいな装丁の本が欲しい場合は紙の単行本、価格を優先するなら文庫本や中古本、その場ですぐに読みたいのであれば電子書籍といった具合です。電子書籍は特別な商材ではなく、本というコンテンツの新たな一形態に過ぎません。そのため、Amazonのサイト上では紙の本と電子書籍の価格を同時に確認できる作りになっています。
電子書籍が1クリックで購入できるのも好評です。ついハマって何冊も購入してしまうという声も聞こえてきています。電子書籍は可能な限り届くまでのステップを短くすることが重要と考えています。紙の本では、どうしても配送までの時間が半日~1日程度はかかるので、支払い方法をじっくり選んでもらうという形にしています。
――「Kindle Paperwhite」など端末は使い勝手にどのような工夫をしているか。
Kindle Paperwhiteは本を読むために特化した端末です。読書のしやすさにこだわり、最終的には「デバイスを消す」ことを目指しています。紙の本で読書に没頭しているときに、装丁や帯の作りなんて気にしないですよね。同じように、端末で読んでいても、端末であることを忘れて欲しいということです。
まず、購入して製品が届いてから読むまでのステップを可能な限り減らしています。箱から出したら、既にアマゾンのIDが登録してある状態になっており、すぐに利用できます。さすがに無線LANの設定はしなければなりませんが、3G(第3世代携帯電話)通信の対応モデルであれば、すぐに通信ができます。
より自然に読めるように、ページをめくる際の画面の切り替えは、従来の電子ペーパーよりも早くなっています。フロントライトを搭載しており、画面のコントラストが高まったことも読みやすくなった要因の一つです。
電子書籍は今読んでいる位置が分からないという指摘を受けることもあります。これに対応するため、読んでいる速度を自動計算して、読み終わるまでに何分かかるか表示する機能も付けました。ピンチイン、ピンチアウトの操作で画面の拡大縮小もできます。
明るい場所であるほどフロントライトを明るく設定することをお勧めします。コントラストが高まり、読みやすくなるからです。暗い場所では少しライトを暗くしたほうが読みやすいでしょう。フロントライトはLEDを使っているので電力消費が低く、バッテリーの駆動時間にほとんど影響ありません。無線LANなどの通信機能の方が何百倍も消費電力が高いのです。
12月にはKindle Fireと同HDも発売します。こちらは読書だけでなく、ゲーム、音楽、映画などさまざまなコンテンツを楽しむことを端末となっています。
――コンテンツ数など今後の目標は。
コンテンツは絶対数を多くすることは重視していません。数だけを増やそうとするなら簡単ですが、それが本当にユーザーが求めているものでなければ意味がありません。ユーザーが読みたい本を用意しなければならないのです。
そこでオリコンのランキングやAmazonで売れている書籍を分析し、読者が求めている本を電子化できるよう、出版社に働きかけをしていきます。Amazonのサイト上では、電子書籍化してほしい書籍に対してリクエストを求めるボタンも用意しています。それらのデータを集めて提示すれば、出版社はコストをかけても電子化すべきと判断しやすくなるはずです。
[PC Online 2012年11月16日付の記事を基に再構成]