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データで読み解く外国人労働者 魅力薄れる日本の賃金

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新型コロナウイルスの感染拡大で制限してきた人の往来を各国が徐々に再開し始めた。日本政府が外国人の在留資格に新しく「特定技能」を導入して1年余り。当初は5年間で最大約35万人と、人手不足に悩む日本は「労働開国」にかじを切ったように見えたが、受け入れは思ったように進んでいない。ポスト・コロナの世界をにらみ、日本は働く場所として外国人に選ばれる国にしていけるか。世界のなかの日本の立ち位置を労働者の移動人数や賃金など様々なデータから読み解いていく。

【Topic1】「特定技能」進まぬ受け入れ

資格新設から1年、目標の1割に満たず

2019年4月に新設された在留資格「特定技能」人材の受け入れが進まない。外国人の単純労働者受け入れに日本が事実上かじを切ったとされた同制度。人手不足に悩む宿泊や介護などの産業界からの高い期待とは裏腹の現状だ。

▼特定技能

2019年4月に施行された改正出入国管理法により新設された在留資格。人手不足が深刻な外食や宿泊、介護など14業種で外国人労働者を受け入れる。最長5年間の在留を認める「1号」と、家族の帯同や在留資格の更新ができるとされる「2号」がある。技能実習2号の修了か、日本語試験と業種ごとの技能評価試験の合格で1号の在留資格を得られる。政府は初年度に最大4万7550人、5年間で34万5150人の受け入れを見込んでいた。

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【Topic2】受け入れ現場は混乱

手続き資料、100枚超えも

特定技能の導入が進まない背景には煩雑な手続きといった制度そのものの使いづらさが指摘される。

理由はそれだけではない。日本は外国人に選ばれる国なのだろうか? データから読み解こう。

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【Topic3】母国を離れどの国へ?

日本で働く外国人は増えたが、世界のなかで見ると少し違った風景になる。主要な労働者の送り出し国の側から統計データを見てみよう。

人気の中東、日本選ぶ人は減る

「出稼ぎ大国」と言われるフィリピン。18年に出稼ぎ先として最も人気があったのはサウジアラビアで派遣人数は50万人を超えた。日本の約7倍だ。伸び率はサウジアラビアが15年比8%減、日本は同11%減とどちらも鈍化傾向。足元で人気なのは米州や欧州で、どちらも日本の2倍超のフィリピン人が働き、伸び率も微増傾向にある。

日本は10年比2割減

日本への労働者の送り出し国で最大の中国。マカオが急伸し、シンガポールや中東は横ばいを維持しているが、日本は10年をピークに減少傾向にある。18年は10年比2割減だった。中国国内の賃金が急上昇し、華為技術(ファーウェイ)など世界的企業が存在感を増しており、都市部では中国国外での出稼ぎに大きな魅力がなくなりつつあることが背景にあるようだ。

ホワイトカラーや留学生を中心に中国人に人気のイメージがある米国だが、統計上は日本よりかなり少ない。中国の国外労働者の状況に詳しい経済産業研究所の張紅詠研究員は「データは単純労働者が中心で、米国留学から直接米国の現地企業に就職するような高度人材の移動をすべて網羅できているわけではない。留学生や高度人材にとっては日本より米国人気が高いのは事実。単純労働者は移動や言葉の壁が高い中国の人材は米国に行きにくく、日本と比べて派遣人数が少なくなっている」と背景を説明する。

日本人気ナンバー1、主体は実習生

日本への労働者送り出し国で2番目に大きく、首位中国とほぼ並ぶベトナム。単年の新規派遣先で18年に日本が台湾を抜き首位となり19年はさらに人数を伸ばした。技能実習生が主体で、現地には日本語学校が次々と設立されている。

背景には日本への信頼が根強いほかに、日本への送り出しがビジネスとして現地で整備されている点がある。現地の送り出し機関と日本の受け入れ企業、受け入れ機関が密接に連携し、日本企業から送り出し機関への支払いなども手厚い。悪質なブローカービジネスが横行している実態もある。ベトナムからの労働者はしばらく増え続けそうだ。

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【Topic4】賃金の魅力、薄れる日本

伸び率は先進国で最低水準

日本の賃金の魅力は薄れつつある。新興国に比べれば賃金水準は高いものの、経済協力開発機構(OECD)諸国平均は下回る。2000年を基準とした伸び率でみると先進国中最低水準だった。

高い伸び率を示したのが韓国だ。同国は17年に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、2年間で最低賃金を3割近く引き上げるなど政府主導の取り組みを強力に進めており、給与水準が大きく上昇している。

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【Topic5】労働環境に不安と不満

増える失踪、7年で6倍

日本で今のところ、実質的な単純労働の受け皿になっている技能実習生制度。失踪者は右肩上がりで増えており、18年は9000人を超えた。低賃金や長時間労働など労働環境の未整備な状況が明らかになりつつある。

受け入れ先の不正は氷山の一角

技能実習先から失踪した外国人が、受け入れ先企業から不正行為を受けていたことも国の調査で明らかになっている。法務省が19年に公表した報告書によると、実習生が最低賃金未満の時給で働かされていたり、夜間や休日出勤に対する割増賃金が支払われなかったりしていた。実習先の倒産や記録の破棄などで実態を確認できなかった例もあり、調査で浮かんだ不正は氷山の一角とも言えそうだ。

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【Topic6】労働力の確保、待ったなし

生産年齢人口、減り続ける日本

一方で日本の労働力確保は待ったなしの状況だ。日本、米国、中国、ドイツ、インドの5ヵ国の全人口に占める生産年齢人口(15歳~64歳)の比率を比べたところ、日本は1980年に5カ国中最も高い比率だったのが、2010年にはインドと同率の4番目に落ち込んだ。国連の推計によると日本の生産年齢人口比率はその後も下がり続け、50年には51%に落ち込む見込みだ。

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【Topic7】外国人労働者、日本の依存度

コンビニは都心で採用増

今後30年間で働き手の急激な減少が見込まれる日本だが、すでに食料品製造などの業界で外国人労働者への依存度は高まっている。業界別に外国人労働者の就労状況をみたところ、食料品製造は10人に1人が外国人だった。輸送用機械器具製造が2番目に依存度が高く13人に1人が外国人労働者だった。

私たちに身近なコンビニエンスストアや飲食店でも外国人の従業員を見かけることが増えた。コンビニ最大手セブン―イレブン・ジャパンは約10%、ローソンは約9%、ファミリーマートは約8%が外国人従業員だ。特にローソンは東京23区内に限れば比率は約35%に上る。コンビニは技能実習や特定技能の対象業種ではないため、担い手の多くは留学生アルバイトだ。

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【Topic8】実習・留学生で全体の5割弱

不法な長時間労働の温床?

日本で働く外国人労働者は19年10月時点で約165万8000人。主力は日本に永住する外国人のほかに技能実習生と留学生が担っている。留学生は原則週28時間までしか働けない。留学生のビザ発行数に比べ留学生労働者の人数が多いという実態があり、不法な長時間労働の温床になっている可能性がある。

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【Topic9】特定技能はどんな技能?

食料品製造が全体の3割強

2019年4月に導入された特定技能制度。20年4月末時点の受け入れ人数は合計4496人にとどまる。業種別の内訳は外国人材に頼る食料品製造の受け入れが最も進んでおり、全体の3割強を占めた。一方で航空は受け入れゼロ、宿泊は26人にとどまり分野別の受け入れ格差が広がっている。

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【Topic10】共生する社会へ

3大トラブル、解消なるか

外国人が日本に住む上での主なトラブルは「銀行口座、携帯電話、住居」にまつわるものだ。一部を除き、多くの銀行は一般的に外国人が来日後半年間は口座開設ができない。口座開設ができないと携帯電話の使用料の引き落としができず通信契約ができない。住居も外国人の多くは日本人の保証人がいない、日本国内に口座がない、などの理由で契約を断られることがある。

給与面など働く環境の整備とともに、外国人が暮らしやすい環境をいかに整備するか。隣人の外国人を受け入れ、共生できる社会に。日本の本気と覚悟が試されている。

(京塚環、久門武史)

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