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「J」の螺旋的発展へ投資マインド育む

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「Jリーグって大会方式がコロコロ変わるよね」と思われているかもしれない。2年間、実施した2ステージ制とチャンピオンシップ(CS)をやめ、来季からは通年のリーグ戦である1ステージ制で優勝を決める。

あるべき姿を考え抜き、1ステージ制に戻す決断をしたわけだが、単なる「逆戻り」にはしたくないと思っている。

哲学者のヘーゲルが「弁証法」で「事物の螺旋(らせん)的発展の法則」を唱えている。ものごとの発展は螺旋階段を上るような形で進むというもので、平面でとらえると、もともといたところに戻っているように見えるが、実は一段上昇している。ものごとはそういうふうに発展していくということだ。

私はこの「螺旋的発展」を意識して、一連の改革について考えてきた。平面でとらえると、確かに1ステージ制に「戻る」ことになるが、そのプロセスでは階段を上っておきたい。そのためには、2年間、「2ステージ制+CS」を実施したことで得たものを、来季以降に生かさなくてはならない。

2ステージ制によってリーグ戦のヤマ場が増え、両ステージの開幕直後と終盤に注目度が高まったのは確かだ。そこで私は実行委員会や理事会の議論の中で「ハーフボーナス制」というものを提案した。

優勝は通年のリーグ戦で決めるが、箱根駅伝の往路優勝のように、前半戦(17節)終了時点のトップに賞金(ハーフボーナス)を出す。「どこが中間点を1位通過するんだろう」という関心が高まると考えたが、採用は理事会で見送られた。

CSは決勝の開催日が定まっているので、一定期間を大会の告知、チケット販売、広報活動に費やせる。また、固定されたスケジュールの一点に光を当て、大会をPRするノウハウをつかんだので、来季からはYBCルヴァン・カップ(旧ヤマザキナビスコカップ)決勝などで生かしたい。

各クラブ、海外の強豪クラブと親善試合

夏にはJ1に中断期間を設け、各クラブが国内外で海外の強豪クラブと親善試合をする機会をつくりたい。

昨夏の第2ステージ開幕前に、川崎がドルトムント(ドイツ)と親善試合を行い、0-6で完敗したのが印象に残っている。あのとき川崎の選手たちがあらゆる面でのスピードの差、コンタクトの強さの差を体感したことが、今季の川崎の充実につながっていると思う。

クラブ単位で国際試合を重ね、各年代の日本代表選手だけでなく、なるべく多くの選手が世界とのギャップを肌で知り、その差を埋めていくことが日本サッカーの発展につながる。サマーブレイクを活用した国際試合もこの2年の経験から学んだことだ。

高卒でプロ入りした19~21歳の選手の出場機会が限られていることが、大きな問題になっている。今夏のリオデジャネイロ五輪で日本の23歳以下の代表が1次リーグで敗退した。

4年後には東京五輪が開催される。そのための強化をJリーグとしていかに進めるかを議論した結果、YBCルヴァン・カップを活用する方針を固めた。

17年は20歳以下、18年は21歳以下、19年は22歳以下、20年は23歳以下の選手の出場枠を確保して、プレー経験を積ませる案が出ている。

YBCルヴァン・カップに限らず、東京五輪世代の選手には何か特別なマークを付けてプレーさせたらどうだろうと思う。誰が五輪世代なのかがわかれば、注目され、期待され、選手の成長につながるのではないか。

同時に検討しているのが、23歳以下のリーグの創設だ。若手育成のため、現在は3クラブの23歳以下のチームがJ3に参戦しているが、これが最終形とは思っていない。欧州のような育成世代のリーグをつくるのが理想だろう。こうした育成の施策も螺旋階段を上がるように積み上げてきている。

均等配分金もとに全クラブが普及促進

Jリーグはスポーツコンテンツの配信大手、英パフォーム・グループと10年で総額2100億円を超える放映権契約を結んだ。それを原資に来季から各クラブへの配分金を大幅に増額する。

J1クラブへの均等配分金は1億8000万円から3億5000万円に増額。J1の4位までを対象に「強化配分金(仮称)」を新しく設け、優勝クラブには15億円を最長3年で配分する。優勝賞金も3億円に増額するので、1度優勝すれば3年トータルで少なくとも28億5000万円を超える配分金・賞金が手に入る。Jリーグの理念には「日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進」とある。水準の向上を担うのが強化を目的とした配分金であり、均等配分金をもとに全クラブがサッカーの普及を促進していくことになる。

昨季のJ1クラブの営業収益のトップは浦和の60億円で、FC東京の46億円、横浜Mの45億円、名古屋の44億円が続き、平均は33億円だった。今回の改革で近い将来、営業収益100億が見えてくるクラブも出ると予測している。

J1クラブへの配分金をこれだけ厚くするのは、それを元に質の高い選手を獲得し、より魅力的なチームをつくってもらうためだ。

そこで、外国人選手の登録枠についても議論を重ねてきた。各国リーグの外国人選手の割合を調べると、イングランドは66%、ベルギーは59%で、欧州の平均は46%だった。

それに対してアジアは16%と低く、日本は15%。アジアの中ではカタールが37%、オーストラリアが31%と高い。

リーグの魅力を高めるには、レベルの高い外国人選手を集めることが重要なカギになる。そこで、「3+1(アジア枠)+1(提携国枠)」だった外国人選手の登録枠を来季から無制限の「5」に広げる。

出場・ベンチ入りはアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の規定に従って「3+1」を維持するが、登録に関しては、たとえばブラジル人を5人そろえても構わない。

積極的に質の高い外国人選手を取って、ピッチ上を華やかにしてもらいたい。その流れをつくるには、投資マインドを備えたクラブ経営者を増やす必要がある。

企業は投資より大きなリターンを得ることで成長していく。投資なくして拡大再生産はない。大きな投資をしないと、大きなリターンはない。配分金の範囲で補強をするにとどまらず、強化資金を積み増して、大物選手を取りにいくクラブが出てきてほしい。

魅力的な選手を取れば、入場料収入だけでなく、マーチャンダイジング収入、スポンサー収入も増える可能性が高まる。投資マインドを持った経営者が出てくれば、ファン、サポーターが背中を押すはずだ。

もちろん、投資はリスクを伴う。プロサッカークラブは生身の人間に投資するので、リターンの蓋然性が低い。日本のサッカーにフィットしない外国人選手もいるし、故障する可能性もある。外国人の登録枠を5に広げるのは、1人がつまずいたら終わりということを避けるためでもある。

経営の難易度は高いが、投資マインドがないとクラブもリーグも成長しない。今回の改革を受けて、勝負に出るクラブがいくつか出てくると期待している。現在はブラジル、韓国人選手が多いが、たとえば将来性を見込んでアフリカからも取るようになったら面白い。

チャレンジにはリスクがつきまとう。大型補強をしたものの歯車が狂って、チームが沈むこともある。

「降格時救済金」はセーフティーネット

そこで「降格時救済金」という制度をつくった。J1からJ2に降格したクラブには、1年間に限り、J1の固定配分金(3億5000万円)の8割、J2からJ3に降格したクラブにはJ2の固定配分金(1億5000万円)の8割を配分する。

これはセーフティーネットであり、リスクを恐れず投資してもらうための制度だ。チャレンジをせず、降格したクラブも恩恵を受けることになるが、そのケースは制度の趣旨から外れている。

10年で2100億円を超える放映権料を手にしたことが話題になっているが、のんびり構えているわけにはいかない。

改革1年目である来季、「Jリーグは変わった」という強烈な印象を残すことが重要だと思う。慢心したら、リーグの体質が悪くなるだけだ。3年以内に、次の10年の契約の道筋をつける勢いでリーグのブランド力アップに取り組まなくてはいけない。

10年で2100億円という額は欧州の主要リーグに比べたら、ケタが違う。この金額に満足することなく、リーグの価値を上げ、放映権料をアップしてもらえるように努めなくてはならない。その気概をリーグ、クラブに関わるすべての人間が共有する必要がある。

(Jリーグチェアマン)

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