イラク、副大統領職を廃止 国民の不満抑制へ行財政改革
【ドバイ=久門武史】イラクのアバディ政権が行財政改革に乗り出した。副大統領職の廃止など政府機構の簡素化を打ち出し、腐敗体質への国民の不満を和らげる狙いだ。連邦議会は11日、改革案を承認した。イラクは原油安や過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで財政難が深刻化。政権は民意をテコに改革を急ぐが、政府内の宗派・民族間の微妙な均衡を崩す可能性もある。
「命をかけてでも改革を続ける」。アバディ首相が9日に示した改革案は、3人ずついる副大統領、副首相ポストの廃止のほか、宗派・民族に基づく政府のポスト配分を改めることが柱だ。政府高官の警備要員の削減、汚職対策の強化も盛り込んだ。議会が全会一致で承認した11日、ジュブリ議長は「ためらいなく改革を続ける最初の動きだ」と超党派で取り組む姿勢を強調してみせた。
イラクは世界5位の埋蔵量を誇る産油国だが、昨年来の原油安で歳入は落ち込んでいる。加えて長引くIS掃討の戦費が膨らみ、兵士への給与不払いも伝えられる。国際通貨基金(IMF)は、イラクの2015年の財政赤字が国内総生産(GDP)比17%に達すると予測。7月末に12億4千万ドル(約1500億円)の緊急融資を決めた。
財政危機のなか、イラク各地では熱波で頻発する停電や非効率な行政に抗議するデモが拡大。同国のイスラム教シーア派の最高権威シスタニ師が7日、アバディ政権に改革を迫っていた。
民衆の怒りの矛先は行政の汚職体質に向かっている。非政府組織(NGO)トランスペアレンシー・インターナショナルの14年の調査によるとイラクは腐敗の少なさで175カ国中170位だ。
アバディ氏が打ち出した改革は、政府の主要ポストをシーア派とスンニ派、クルド人の3勢力で分け合う慣行の見直しを目指す。能力重視の人事を進め、不透明な権益分配の温床となる仕組みを改めようとするものだ。
今後も大統領と首相、議長を3勢力で分け合う構図は続く。もっとも廃止される副大統領以下の要職の割り当ては、勢力間の危うい均衡を保つ手段でもあった。市民の視線が厳しさを増すなか、副大統領職から追われるマリキ前首相らは表向き批判を控えている。ただ多数を占めるシーア派のアバディ氏らに権力が集中し、少数派のスンニ派などが抵抗を強めれば、改革はかけ声倒れに終わりかねない。
アバディ氏にとって、人事一新に権力基盤を固める効果があるのは確かだ。アラビア語紙アッシャルクル・アウサトの編集長を務めたタリク・ホマイド氏は同紙で「アバディ氏は自らの利益のため、民衆の怒りの波に乗ろうとしている」と指摘。対立する宗派・民族が相互信頼を欠くというイラクの旧弊を乗り越えるのは容易ではないとの見方を示した。