佐村河内守氏(51)のゴーストライター騒動が、ドキュメンタリーとして映画化されることが6日、分かった。社会派のドキュメンタリー作家で、オウム真理教が題材の映画「A」で注目された森達也監督(58)が製作する。森監督は、すっかり悪役となった佐村河内氏への見方が大きく変わる可能性も示唆し、問題作として注目されそうだ。

 複数の関係者によると、撮影は昨年11月ごろから、都内や関東近郊などで極秘で進められている。佐村河内氏本人へのインタビューや、関係者への取材も同時に行われており、取材や撮影の範囲や期間がどこまで広がるかなど、詳細は不明だ。森監督独自の取材による映像に加え、ゴーストライターだったと認めた作曲家の新垣隆氏(44)の会見や、佐村河内氏の釈明会見などの映像も使用される可能性もある。現段階で、配給会社は決まっていないが、来年の劇場公開を目指しているという。

 映画を企画した森監督は、98年にオウム真理教を題材にした映画「A」で注目された。信者の修行の様子や、信者にマイクやカメラを向ける報道陣や信者を逮捕する警官の姿を撮影するなど、オウム真理教内部の視点で、社会との関わりを浮かび上がらせようと試みた作品で、賛否両論を巻き起こした。続編「A2」も信者への取材を通して一連の事件の裏側などに迫るなどして話題になった。

 森監督は、今回の作品について周囲に「佐村河内氏と新垣氏との関係や、2人に対する見方が180度ひっくり返るようなものになる」と話しており、日刊スポーツの取材にも「詳しい内容はまだ明かせませんが『関係がひっくり返るかもしれない』というのは、当たらずとも遠からずです」と答えた。その上で「善悪の問題だけでなく、騒動を報じたメディアの在り方やその意味などを問い掛け、社会的な問題もひっくるめた作品にできれば」と言うなど、新たな問題作として世間に提示しようと考えているようだ。

 佐村河内氏は聴覚障害を乗り越えて、影響力の大きい曲をいくつも世に送り出し、「NHKスペシャル」で特集されるなど「現代のベートーベン」と称された。ところが「ゴーストライターがいた」と報じられてから、たちまち疑惑の人物となった。会見などでゴーストライターの存在は認めたが「悪役」の印象を強めていった。「ペテン師」と報じるメディアもあった。逆に新垣氏は騒動を機に、大学講師は辞したが、メディアに引っ張りだこの人気ぶりでタレント活動も行っている。

 森監督の言葉通りの作品となった場合は、新たな問題作として議論を巻き起こしそうだ。【横山慧】

 ◆森達也(もり・たつや)1956年(昭31)5月10日、広島県生まれ。立教大卒。86年に番組制作会社に入社。報道、ドキュメンタリーの番組を中心に多くの作品を手掛けた。98年映画「A」はベルリン映画祭に招待された。01年の続編「A2」は山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞受賞。ドキュメンタリー作家として著書多数。

 ◆佐村河内守氏をめぐる騒動 聴覚障害があるとする佐村河内氏の楽曲を、作曲家新垣隆氏が作曲していたと昨年2月6日発売の「週刊文春」が報道。同日、新垣氏が会見して18年間にわたりゴーストライターだったと釈明。「耳が聞こえてないと感じたことは1度もない」と証言した。同7日に広島市が佐村河内氏に授与した「広島市民賞」を取り消し、所属レコード会社は全CDの出荷を停止。佐村河内氏は同12日に謝罪書面を報道各社に送った後、3月7日に都内のホテルで謝罪会見を開き「自分は感音性難聴」と主張した。