【インタビュー】『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』外伝ではない。紛うことなき、王道の「ゼルダの伝説」
2024年9月26日に発売されたNintendo Switch用ソフト『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』。
本記事ではトップビュー型2D「ゼルダ」ならではの表現で自由なワクワク感を実現し、新たな可能性を切り拓いた本作の遊びの奥深さを探究すべく、開発者のみなさんにお話を聞いてきました。
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2D「ゼルダ」ならではの新しい遊びの表現
任天堂 プロデューサー
青沼 英二さん
プロフィール
「ゼルダの伝説」シリーズプロデューサー。『時のオカリナ』のダンジョン設計からシリーズに関わり、『風のタクト』『トワイライトプリンセス』でのディレクター経験を経てプロデューサーに。以降のすべてのタイトルに参加、シリーズを牽引する。本作では開発会社であるグレッゾに“完全新作の「ゼルダ」”を依頼、ともに現場で制作に携わる。
任天堂 ディレクター
佐野 友美さん
プロフィール
任天堂側のディレクターを担当。本作の制作進行をはじめ、グレッゾ側が提案する遊びと「ゼルダの伝説」がマッチしているかなどの調整も行う。シリーズの開発には、グレッゾ制作の『時のオカリナ 3D』、『ムジュラの仮面 3D』、『夢をみる島』ほか『トワイライトプリンセス HD』にも携わっている。
グレッゾ ディレクター
寺田 智史さん
プロフィール
これまで多くの「ゼルダ」シリーズのリメイクを開発してきたグレッゾのディレクター。デザイナー出身で、シリーズには『時のオカリナ 3D』から関わり、Switch版『夢をみる島』ではアートスタイルの構築や3D背景、ライティングなどに携わる。本作で初めてディレクションを担当する。
※プロフィールを触ると詳細が表示されます。
トップビュー型での自由な遊び
—— 発売から少し経ちますが、ユーザーの反応や遊び方をみて印象に残っていることはありますか?
佐野 驚きはたくさんありました。テーブルの上に馬を乗せて送風機でいっしょに移動したりとか(笑)。みなさんご自分の「こういうことをしたい」という願望を工夫して実現されているのがすごくおもしろいです。
寺田 その中でもベッドとトッピューの組み合わせは「こんなカリモノの使い方するんだ」って、開発中も見たことがなかったものでした。
—— 空を飛ぶというか、かなり高い場所まで行くことができる組み合わせ方法ですよね。
寺田 もしかしたら、チェックチームは開発中に発見していたのかもしれませんが、本作では空を飛ぶことやどこでも自由に行けること自体を許容していましたので、僕らのほうまでその報告がなかっただけなのかもしれません。
青沼 その手法ではないですが、空を飛んだりは可能ですからね。みなさん『ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下『ティアーズ』)でも空を飛んで行かれますから(笑)。そういったやり方を一生懸命探してくれて、本当にすごいなぁと思います。
—— そういう意味では青沼さんは本作と『ティアーズ』を同時期に作られていたわけですよね。
青沼 はい。制作の歩みは『ティアーズ』と並行して進めていました。
—— 遊びや自由度の部分は両作ともに同じような印象を受けるところもありました。制作中に青沼さんの中でアイデアが結びついて、共有したところもあったんでしょうか?
青沼 いや全然そんなことはありませんでした。というのも、2Dのトップビューと3Dとではできることがそもそも違うので、どんな形式で遊ぶのかが大事なのであって、遊びの発想の起点もまったく異なります。例えば、3D上でカリモノの敵を出しても、敵との距離や位置関係がわかりにくいように、それぞれの世界のありようや表現があるわけです。
前回のNintendo Switch版『夢をみる島』(以下『夢をみる島』)で、見下ろし視点の「ゼルダの伝説」の表現を確立できたと感じていたところに、グレッゾさんたちからさらに“トップビューでもこんな遊びができる”というアイデアが出てきました。それがよかったんですね。
同時に自由度についても、これからの「ゼルダ」は“プレイヤーが「これはできるか?」という想像を働かせながら、なにかにチャレンジする”ことを、やっていきたいと思っていました。これまで2Dのトップビュー型「ゼルダ」ではそういった遊びができていなかったんですが、今回提案されたアイデアならば、その思考に合致するものができそうだと思ったからこそ、この形になっているんです。
……あと虎視眈々とアイデアを双方にチェンジできるほど、僕は器用じゃない(笑)。
—— (笑)。『ティアーズ』も本作もアプローチの仕方は違いますが、結果として、青沼さんが実現したかった自由な発想の遊びが破綻なく実現できるゲームになったんですね。
青沼 なにかをパスして先に進んだとしても、それは自分で選択したことなので、僕らはゲームが止まってしまうこと以外は破綻だと思っていないんです。それがおもしろさにつながってくれるトップビューの「ゼルダの伝説」が、ようやくできたと思っています。
カリモノでいろいろと試行錯誤してほしい
—— ユーザーの感想といえば、高いところから飛び降りても無傷で立っているとか、ゼルダ姫の身体能力の高さについても話題になっていますよね。
佐野 このゲームのおもしろいところは、カリモノをどう組み合わせるかの試行錯誤だと思っていますので、プレイヤーが考えたことは素直にできたほうが試行錯誤を存分に楽しめるのではないかと思うんです。
ゼルダ姫が飛び降りてもダメージを受けないことが話題にされてもいますけど(笑)、空を飛ぶ方法を模索している最中に落ちたらゲームオーバーになってしまうと、試すことを躊躇ってしまいますよね。そうした煩わしさをなくして試行錯誤の先の遊びを楽しんでもらうための仕様なんです。
寺田 カリモノは数も多いですし、試してみないとわからないものがたくさんあります。得たカリモノをリスクなく使ってみるというのを率先してやっていただきたかったので、操作ミスでダメージを受けてしまうことは省いて模索しやすい環境を作っていきました。
—— 逆にそうしたおかげで話題になっているわけですよね。でも、ゼルダ姫が岩を投げられる腕力があることには驚きました。
寺田 たしかに「姫が岩を持っているけどいいの?」と議題にあがったことはありました。
一同 (笑)
寺田 開発当初、主人公はゼルダ姫ではなくリンクを想定していましたので、リンクのときには違和感がありませんでした。それで開発が進んでいき、ゼルダ姫に主人公が変わったあとに、姫が岩を持ったらおかしいという理由だけで「それまでのゲーム内容を変更するほどのことなのか?」という話になりました。
青沼 単純に持ち上げて投げるモノで敵が倒せないと、カリモノも得られないですからね。じゃあ、なにを投げたら敵を倒せるんだってなったら、ほかに見当たらないですし。
寺田 「見ていたら慣れるよね」と進めていった感じです。
青沼 インパも「活発なお方」って言ってたでしょう(笑)。
カリモノのわんぱくな個性
—— その自由な遊びと試行錯誤を実現するカリモノにはかなりの種類があります。どのように考えていったのでしょうか?
寺田 基本的にはひとつの地域の冒険を軸に考えています。ダンジョンをクリアするまでをひとつのサイクルとして、その中でどのぐらいの数のカリモノが必要かという目安をまず決めて、そこから地域ごとの個性や特性を考えながら、かぶっているものなどを整理していきました。
—— 地域ごとにたくさん出したアイデアを絞り込んでいくんですね。
寺田 さらにその中に「わんぱくアクター」と呼んでいた“おもしろいことができるアクター(カリモノ)”も用意していきました。
—— 特別枠的な。
寺田 はい。その地域で強敵になる「強敵アクター」とかもですね。そういった特別なモノを入れながらバランスをとり、地域や場所の数ごとに調整をしていった結果があのカリモノ数になった感じです。
—— ツボも3種類ありますが、それも地域ごとの個性ということなんですか?
寺田 じつはツボにも軽いツボと少し重いツボなど、押したときの移動速度や高いところから落としたときの割れにくさといった差があります。本作はボス以外のモノはほとんど借りられるように作っていますので、どうしても効果がかぶるモノが出てきます。でも各地域の個性を大事にしていたので、ツボだけすべて同じモノが並んでいるのは少し冷めてしまうなと思い、そういった特徴で差を出していきました。
ほかのものに関しては、例えばモリブリン剣とブタブリン棍棒には、斬りつけるものと棍棒は攻撃力があるけど叩くぶん弾かれるみたいな個性付けをしています。
—— なるほど。ちなみに「わんぱくアクター」カテゴリーで決めたカリモノにはどんなものがあったんですか?
寺田 例えば「水のかたまり」ですね。ああいったゲームバランスを崩しかねないような、でも使えたらおもしろそうと思えるものになります。
—— 本当にわんぱくに遊べるものを「わんぱくアクター」と呼んでいたんですね。
寺田 ただ、敵の「わんぱくアクター」を決めるのは難しくて。おもしろすぎる行動をとる敵がいると、これもゲームバランスを崩してしまう恐れがありました。でもわんぱくな敵は欲しいですから、そこで生まれたのがカラクリだったりします。
—— 「わんぱくアクター」からカラクリが生まれたんですか。
寺田 あのようなロボットであれば、敵として遭遇するわけでもないですし、自分で材料を集めて作り上げるのでやりこみ要素としてもいいかなと。通常のカリモノとは違った形で、わんぱくな敵を見つける遊びからカラクリを採用しました。
佐野 ゼンマイを巻かないといけないリスクもありますから、いっそのこと振り切った能力にすることができました。
青沼 そうなると、そんなカラクリを誰が作るんだろうって話になりますよね。敵のこともよくわかっていて、ダンジョンを研究していそうな設定を考えたら、もうダンペイしかいないんじゃないのって、彼の登場も決まりました(笑)。
ひとつのゲームにするための“ちゃぶ台返し”
—— カラクリは別として、そういった「わんぱくアクター」と通常アクターでバランスをとりながら、地域ごとの配置をされていったんですね。
佐野 そうですね。まずは「わんぱくアクター」を考えてから、残りのアクターを考えていく流れでした。なぜなら、全部をわんぱくにしてしまうとゲームになりませんので(笑)、まず本作らしい遊びができる「わんぱくアクター」の目標数を決めてから残りのアクターに着手する感じでした。
青沼 それこそこのゲームがまだ今の形ではなく、“「ゼルダ」のダンジョンを作れる遊び”だったときから、メガドンのような「わんぱくアクター」的なモノはいました。
—— 「開発者に訊きました」で語られていた、本作の原型のひとつ「エディットダンジョン」と呼ばれていたものですか?
青沼 はい。まだリンクが主人公だった頃に、「コピー&ペーストの遊び」と『夢をみる島』のように「トップビューとサイドビューを掛け合わせた遊び」を軸に、“リンクが扉など、いろいろなものをコピー&ペーストしてオリジナルのダンジョンを作れる”というものです。
そのときにサイドビューの横スクロール画面で手に入れたメガドンをトップビューのフィールドにペーストしたら、破壊的なおもしろさで(笑)。天井のあるサイドビューと違って、フィールドだとずっと上までメガドンに乗っていけるんじゃないの!? って。横画面でしか見られなかった敵をトップビューのフィールドに持ってくると「こんなことができるんだ」ってわかったとき、“新しい2D「ゼルダ」の遊び”に発展できる可能性を感じました。
—— つまり、“オリジナルのダンジョンを作るゲーム”を作っていたところに、青沼さんがメガドンを触って、今の『知恵のかりもの』の方向に切り替えたって話ですよね?
青沼 それを見て、僕は「この遊びだけでゲームが成立する」と確信したんです。だから、そのときから「わんぱくアクター」は始まっていたんですよ。
—— でも、そのとき寺田さんたちは「エディットダンジョン」を作られていたわけですよね。
寺田 はい。
—— そこに「開発者に訊きました」」でも話されていた青沼さんの“ちゃぶ台返し”が発動したと。その方向転換の話を聞いたとき、寺田さんたちはどう思われたんですか?
青沼 (寺田さんたちのほうを向いて)正直に言って!
一同 (笑)
寺田 もちろん、その“ちゃぶ台返し”はあったんですけど、ありがたかった部分もあるんです。というのも、それまで作っていた「エディットダンジョン」は、フィールドやダンジョンを冒険して得たモノを自分のダンジョンに持ってきて設置していく遊びでした。
ですので、今の『知恵のかりもの』と同じようにフィールドの遊び「コピーするものを集める冒険」があって、それを「ゼルダメーカー(※)」としてダンジョンに配置していくような内容だったんです。
※自分でコースを組み立てて遊ぶ『マリオメーカー』の「ゼルダの伝説」版をイメージした遊びの名称
—— 「エディットダンジョン」は『知恵のかりもの』と「ゼルダメーカー」を足したようなゲームだったんですか?
寺田 はい。初期段階ではありましたが、結局「コピーするものを集める冒険」の部分が『知恵のかりもの』として昇華していくことになります。ただその時点では『知恵のかりもの』と「ゼルダメーカー」の2本分のコストがかかるような内容でした。それを青沼さんが早い段階で予見して「ゼルダメーカー」部分を横に置いてくれました。
—— “ちゃぶ台返し”とは言われていましたが、青沼さんはゲームを整理されたということなんでしょうか。
青沼 (大きな声で)その通り!
一同 (笑)
寺田 もちろん「エディットダンジョン」を作っていたスタッフの中には、残念に思った人もいたとは思うんですけど、プログラマーなど「冒険もカリモノもあるし、ダンジョンも作る。これはえらいことになる」って薄々気づいていた人もいて。青沼さんがそのタイミングで判断してくれたので、内心ホッとしている人たちもいたんです。
青沼 スタッフも遅かれ早かれ、同じような判断をしたんじゃないかと思うんです。
ただ、判断の決め手となった大きな理由は、「ゼルダメーカー」で作ったダンジョンを人に遊んでもらうための行程がむずかしいと思ったからです。過去からいろいろと考えてきてはいますが、オンラインで遊べるようにするのか、おすそわけにするのかといったプロセス。それに積極的に遊んでもらうためのシチュエーションや状況を作るのがむずかしく、そこに遊びのおもしろさを依存させてしまうことへの懸念もありました。
もちろん、それはこれからも考えていく必要はあるのですが、その状況にならないとおもしろい遊びが成立しなくなってしまうのはかなりハードルが高いな、と。
—— カリモノの遊びだけでゲームが成立しているので、そこを伸ばすように舵を切ったと。
青沼 「ちゃぶ台を返す」と聞くと、無慈悲なことを上の人間がやってのけたふうに捉えられるかもしれないですけど、僕はこれでもみんなが幸せになることを考えてやっているんです。宮本(茂)のちゃぶ台返しも有名ですけど、僕もひっくり返されてきた当事者として振り返ると「助かった」ってことが多かったですからね。
カリモノの好みは人それぞれ
—— 話をカリモノの話題に戻しますが、残りの通常アクターはどのように考えられていったんですか?
寺田 地域に合ったものを選びつつ、過去作や、遊びとしてそこに登場してもおかしくないもので選んでいきました。ただキャンゾルだけは特殊で、開発の超初期からいたキャラです。
当時、単純に火を使う敵を検証するうえで、丸いゾルを白くして、キャンゾルって駄洒落みたいな名前をつけて実験したのが始まりでした。唯一、検証の結果がそのまま最後まで居座った感じです(笑)。かわいいし、動きもゾルと同じなのに全然違った手応えがあるし、なにしろ意外に使えるんですよね。
青沼 名前もよかったよね。とても「ゼルダ」らしい。
寺田 みんな気づいたときにはそう呼んでいました。
—— ほかにもカリモノの活用法として、ベッドで回復できるのは衝撃でした。
佐野 もう少し性能を抑えたほうがいいんじゃないかという意見も出たんですけどね(笑)。
寺田 本作はすべての方にクリアしていただきたいという思いがまずありました。そして、回復ができたとしても謎解きをしなければ進めないですから、体力だけがすべてのゲームでもありません。時間があるときはベッドで寝てもらえればいいし、時間がないときはスムージーを飲んでもらえればいい。それでもゲームが成り立つと考えての回復要素になります。
ただ、自分の想定よりもみなさんベッドで休むんだなって思いました(笑)。
青沼 寝てすぐ起きるを繰り返すとか、すごいなぁって。でもこれって、全員がゴールまで行けるようにしたいという過去作からのテーマをいいところで落とし込めた結果なんじゃないかと思います。
これまでの「ゼルダ」は、アクションが苦手で敵をどうしても倒せないとなると、そこで止まって先に進めなくなる方も多かったですから。いろんなものを用意して、なんとかできそうという選択肢があることが重要なポイントだと思います。……僕はボス部屋の前ではとりあえず寝ますけど(笑)。
—— ちなみに開発のみなさんの中で人気の高かったカリモノってなんだったんですか?
佐野 ベッドは汎用性が高いのでやはり人気でしたが、それ以外となると開発者の中でもそれぞれお気に入りはバラけていました。
寺田 あらためてスタッフに訊いてみたら、わりと見た目で好みを言う人もいれば、使い勝手で言う人もいました。本当にさまざまだったので、“このカリモノが人気”みたいなのはありませんでした。
青沼 僕も「開発者に訊きました」で「ゲームを8周遊んだ」って言いましたけど、プレイごとに毎回お気に入りは違います。テストプレイなので、もちろん“あえて”違うカリモノを使うというのもありましたけど、試してみると、そのたびに「こんなことができるんだ」ってなっていくんです。
—— そんな青沼さんのお気に入りは?
青沼 8周目のベストパートナーはフリザドでした。フリザドは相手をすぐ凍らせてくれるので最高だなぁって(笑)。とりあえず敵の動きを止めてから、どうしようって考える。あとはシンクしてずっと連れていけば、触るものをどんどん凍らせてくれますからね。
—— なるほど。おふたりはいかがですか?
寺田 僕はモアがお気に入りです。横に付いてビームを飛ばすヤツなんですけど、モアを引き連れているときの守られている安心感がとても好きですね。
佐野 私はさっき話に出ましたがキャンゾルですね。それこそ開発初期からずっと使い続けています。その場で火をつけるだけじゃなくて、投げつけて火をつけたりするのも好きです。あと単純に見た目が可愛くて、雨が降ったら火が消えてしょんぼりしたりとか、ちょっと離れるとがんばってついてきてくれて健気だったり。なんだかんだであの子を重宝しています。
青沼 でもあいつ、こっちも燃やすんだよね。
一同 (笑)
「カリモノ」という感覚は、ゼルダ姫だからこそ
「カリモノ」という言葉について
—— ところで、その「カリモノ」という言葉はどこからきたんですか? 借り物競走ぐらいしか思いつくものがなかったです。
青沼 借り物競争もネーミングの際のインスピレーションの中にありました。でもじつはなかなか名前は決まらなくて、ずっと「コピー&ペースト」とか言ってたんです。ゲームタイトルもそろそろ決めなきゃいけないとなったときに「このコピー&ペーストを何か違う言葉に置き換えないと、タイトルがつけられないよね」となりまして。
佐野 ちょうどその頃、アメリカでも今回のタイトルをどうするのかという話をしていました。
そのなかでアメリカでの副題は「エコーズ」(「Echoes of Wisdom」)と決まったんですが、この言葉がとてもいいと。でも日本語で「エコーズ」に置き換わる言葉がなくてどうしようとなっていました。結局、ゼルダがやっている行為“モノを借りる”をとって「かりもの」という名称にしようと、青沼が言い始めて。
青沼 そう。僕が言い出しっぺですね。
—— そこに「知恵の」をつけたと。そういえばタイトルの「○○の○○」ってゼルダタイトルあるあるですよね。
青沼 過去からそういうタイトルの付け方をしてきたので、「○○の○○」という形にはしたかったんです。姫を表すには“知恵”は絶対だから、「知恵の」なんだろうって。
—— 先に知恵は決まっていたんですか。
青沼 はい。“知恵”もアメリカで「ウィズダム」というゼルダ姫を表す単語を使うことは決まっていたので、日本もそのまま“知恵”という言葉を入れようと思っていました。じゃあ「知恵の人はなにをするんだ」って。お姫さまが主人公なので、自分の力でなんとかするというよりは、知恵で借りるっていう感覚のほうがそれっぽいと思ったのもあります。
—— みなさんそれを聞いて腑に落ちた感じだったんですね。
佐野 なかなかハマる言葉が出てこなくて、最終的に「かりもの」って言葉が出てきたときに「それだ!」って(笑)。
青沼 あとは、ゲームの中で初めて「それをカリモノっていうんだよ」ってテキストを入れたときにしっくりきたんです。ニセモノという言葉もありますから、ガノンやハイラル王もそうだったように、そういうものを全部ひっくるめて「カリモノ」って言葉はいいなと思いました。
ゼルダ姫を旅立たせるために
—— 物語の話になりますが、ゼルダ姫がお尋ね者になる展開もおもしろかったです。
佐野 プレイヤーが自分で謎を解いて自由に行動しながらゲームを進めることを考えたとき、ゼルダ姫が主人公だといろいろと都合が悪いことがありました。
ゼルダはお姫さまで、彼女には最初からハイラル王をはじめとした仲間がたくさんいます。その仲間の中には、例えば調べ物が得意な者や戦いが得意な者もいるはずですから、そこでゼルダ姫に自由に冒険をさせよう思うと、周りの人たちが動けない状況をつくらないといけませんでした。
青沼 ただ、その周りが動けない状況をあまりに壮大な設定にしてしまうと物語の大筋にも干渉してしまう。あくまでゼルダ姫が「なんとかしなくちゃ」って自分から冒険に出る状況を端的に表す表現を探したんです。そうしたらもう指名手配しかなくて、結果的にお尋ね者という形になりました。
寺田 ゼルダ姫自身が進まないといけない理由をギュッと詰め込んだので、序盤の展開があれだけ早くなっています。
—— そのお尋ね者から、中盤でゼルダ姫が旅の装束に着替えたところはグッとくるものがありました。あの衣装はどのように生まれたのでしょうか?
寺田 世界を救う使命をわかったゼルダが冒険するための衣装というコンセプトが軸にありました。ゼルダ姫らしさを意識したカラーリングに加えて、ポニーテールや足が見えるような、冒険をするために動きやすそうな格好となっています。世界を救うための衣装なので、じっくり話し合いを重ねながらデザインしていきました。
青沼 ゲームの流れとともにデザインが決まっていった感じなんです。
ゼルダ姫がお尋ね者だったときも、彼女がどんなスタイルで冒険するのかを悩んでいて。オープニングが出来上がってから、リンクがガノンと対峙してフードを脱ぎ捨てたところを見て、このフードをゼルダ姫に着させれば、身分を隠す事もできるし、リンクを意識しながら冒険するというのも成立する。そんなふうに、開発をしながらいろいろなビジュアルも整っていきました。
—— デザインありきで考えていったわけではなく。
青沼 最初はトリィと話さないとなにもわからなかったゼルダ姫も、あの旅装束を手に入れたときは、自分がなにをしないといけないかがわかっている。そうなると彼女の覚悟もふくめて絵的にも大きな変化が必要で、そうでなければプレイヤーとキャラクターの繋がりは測れない。そんな流れから開発と並行してデザインが少しずつ形になっていきました。
佐野 ゼルダ姫の表情もそのときにちょっと変わります。ほっかむりのお忍びスタイルのときは少し不安そうな表情をしているんですけど、旅装束になると口元が少しゆるやかになったりします。
—— たしかに。それにしてもゲーム全体を通してものすごくキャラクターの表情が豊かですよね。
佐野 そこはもうグレッゾさんのすごいところですね。シンプルな造形なんですが、たとえ顔が変わらなくても、なにを考えているかがわかる仕草や動き、そういうもの全部で表情を描いていただいていると思います。ぜひいろんなキャラクターの動きにも注目してみてください。
青沼 小さいキャラなので表現的には大きめなことをやらないとわかりにくいんですよね。でも、やりすぎるとドタバタコメディみたいになってしまう。そうならないように落ち着かせる部分は悩んだところではあります。
「リンクっぽさ」は誰にも正解が出せない
主人公ではないリンクを描くこと
—— ではメインとなる物語自体はどのように考えていかれたんですか?
佐野 まずは私も入らせていただいて、グレッゾのシナリオ担当の方とおおまかな流れを作成しました。なんとか出来上がったのですが、物語にどうリンクを絡ませるのかという、ひとつ大きな問題が残りました。
—— リンクの関わり方ですか。
佐野 ゼルダ姫が主人公ですがリンクもいる世界なので、どう関わるように描けば彼が第三者として物語の根幹に関わりつつ、ゼルダ姫の傍にいなくても不自然ではない流れにできているか? については、明確なオチがつかないままになっていました。
そういう問題をわかっていながらも、若干目を逸らして、いったん書き上げたものをゲームにしてみんなで遊んでみたんです。
青沼 その時点ではリンクはしゃべってたんですよ。でも遊んでみたら誰もピンとこない。「リンクがこんなことを言うのか!」って(笑)。
寺田 リンクっぽくないよねって。
—— リンクっぽさって誰がわかるんですか?
青沼 誰にも正解が出せない。僕すらわからないですから。
寺田 でもみんな「違う」とは言えるんですよね。
佐野 叩かれるのを覚悟で、でも真剣にリンクのセリフを書いたんですけど、ゲームに入れてみたら……私自身も「違うな」ってなりました。
一同 (笑)
佐野 そんな問題が噴出しているときに、青沼がそこに軸を通す大きい設定を考えてくれました。
青沼 “しゃべらないではなく、しゃべれない”しか方法はないよねって。そこから“理由があってリンクはしゃべれない物語”を考えて、現在のストーリーを弾き出しました。
—— なるほど。しかし、リンクはちゃんとリンクでした。かっこよすぎて、もう!
青沼 あそことか激アツだったでしょ。
—— ネタバレになるので、これ以上聞けないのがもどかしいです。
一同 (笑)
無の世界とトリィのイメージ
—— リンクがしゃべれない理由には無の世界が関わってきます。そもそもこの無の世界というのは、どのように生まれたんでしょうか?
寺田 もともと開発の初期、まだ裂け目のストーリーができていない頃から、カリモノの遊びをフィールドで行うと自由にいろいろなことが出来すぎてしまうので、プレイヤーの進行を塞ぐようなものが欲しいという話をしていたんです。それがストーリーを考えていくうえでだんだんと“裂け目”に結びついていきました。
青沼 詳しくは言えないですが、物語でいえばトリィとの関係性も含めてです。トリィの目的は裂け目を塞ぐことなので。すでに遊ばれた方はわかると思いますが、あの世界は無の世界が存在しないと成り立たないんです。
—— 物語の根幹でもあるのでお聞きできないですが、トリィありきってことですね。そういえばトリィのデザインはどうやって決まったんでしょう?
佐野 トリィは妖精というかもっと人っぽいデザインでした。ナビゲーションもするし、ゼルダ姫の相棒キャラみたいなところもありましたので。でもカリモノを出すときのコストを表現するといった、ユーザーインターフェースとしてのわかりやすさとか、トリィ自身の役割を考えていったときに、人よりももっと原始的なイメージになっていきました。
青沼 最初はね、結構饒舌にしゃべってたんですよ。でも、いろいろな変遷を経て無機質なものになりました。
佐野 それらもお話などが固まっていく過程で、最終的にシンプルなデザインに落ち着きました。
青沼 トリィは運命的なキャラクターですが、すべてを知っているわけではない。ナビゲーションキャラはゲームプレイを引っ張ってくれる位置付けなので、すべてを知っているほうが都合がいいんです。
ただ本作はゼルダ姫が主役で、彼女が自分で考えて行動するゲームですから、確信犯的に誘導してしまうキャラクターがいるのはおもしろくないなと。そこであえて無機質にして、トリィもゼルダ姫といっしょになにが起きているのかを学んでいくようにしました。だから人ではなく、逆に人を理解していないぐらいのところから徐々に成長していく感覚をいれていきたかったんです。
検討を重ねた結果、トリィがどんな存在であるべきかを考え、あのようなキャラクターになりました。
—— では無の世界とフィールドでは、どのように遊びの違いを出していこうと思ったんですか?
佐野 まず無の世界は画面を見ただけで、元の世界とは違う印象がほしいというのがありました。裂け目の中に飲み込まれた世界という設定があったので、そこを踏まえながら開発チームの中で喧喧諤諤としていたんです。そんななか、グレッゾのデザイナーさんが描かれたいろいろなアイデアスケッチの中に、裂け目に飲み込まれた地形がバラバラにひっくり返ったりして点々となっているものがありました。それを見たとき、裂け目に飲み込まれた説得力と適度な恐怖感があっていいな、と。
そして、もとの世界は地続きで、高低差を踏破していく遊びに対して、無の世界は分断されている地形を飛び渡っていく形にすれば、遊びでも差別化ができるだろう、という流れでまとまっていきました。
ハイラルのフィールドについて
—— その高低差を踏破していく遊びのフィールドについてですが、マップを『神々のトライフォース』(以下『神トラ』)をベースにされたのはどうしてだったんですか?
寺田 もともとは『夢をみる島』の続編ぐらいの位置付けで開発が始まりました。『夢をみる島』のリンクがハイラルに帰ってきたとなると、その舞台はハイラルになるので時代背景とかも考えて『神トラ』の地形がベースになりますよね。
—— 最初は『夢をみる島』のリンクがハイラルに戻ったイメージだったわけですか。
寺田 あくまで初期の段階ですけどね。マップもそういう状況で作っていたので、その名残ではあります。
青沼 ゼルダ姫が主人公なので、真ん中にハイラル城があるのも重要なポイントだったんです。
寺田 ハイラルがベースなのですが、そのままではなく、今回の『知恵のかりもの』の遊びのバランスに合わせて物のスケール感や地形の形状を少し変えたりはしています。そして以前のハイラルが真ん中にあったうえで、新しい種族も出したかったですし、「じつはこうでした」と今まで紹介されていなかった周りの地形などを考えてマップを広げていきました。
—— 『神トラ』に比べるとずいぶんマップは広がりましたよね。
佐野 試作をしていったなかで、カリモノとシンクの遊びをさせようとするとそれなりに広いスペースが必要だということがわかりました。そうすると『神トラ』のマップのままだと少々手狭でした。
もともといろいろな種族を出すためにマップを拡充させるつもりではいたんですけど、結果的に『夢をみる島』の8倍ぐらいの大きさに広がっていき、広くなったぶん、徒歩だけでは厳しいので馬の登場も決まりました。
—— マップを拡充するときに、ここはフィローネという地域にしようなどはどう決めていったんですか?
寺田 冒険する順番のバランスや、物語の流れと並行で考えていきました。でも、こっちに置いていたマップが反対にいったりとか、最終形になるまではかなりの組み替えをしました。
青沼 三女神が絡んでくるお話になったので、そこから地方の位置付けとかを変えなきゃいけないこともあったりして。
—— なるほど。そうなると毎回話題になりますが、本作の「ゼルダ」歴史の時系列(※)も気になりますね。
青沼 そこはもう、みなさんで考えてもらえたらと思います!
一同 (笑)
※「ゼルダ」の歴史の時系列についてはこちら(ゼルダポータル)
最後にプレイヤーへのメッセージ
青沼 まだプレイされていない方に伝えたいのですが、ゼルダ姫が主人公ということで、スピンオフタイトルのように思われている方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、いろいろな変化球もあって今までないこともしていますから、そういった意味では「本筋とは違うんじゃないか」と思われるかもしれません。
ですが、これは歴然たる「ゼルダ」という遊びになっていると思いますし、ストーリーも納得していただけるものになっていると思うので、今まで「ゼルダの伝説」を遊んでくださってシリーズのファンになってくださったみなさん、ぜひ遊んでみてください。
そして、すでに遊んでくださったみなさん、僕は8周プレイしたと言いましたが、遊び直してみると、毎回異なった発見があります。前回やってきたことと違うことを試してみると知らなかったことがわかったり、思わず笑ってしまうようなことがたくさんありますので、ぜひ何回も遊んでみてください!
寺田 ベッドでいつでも回復できるなどの話もありましたが、本作はアクションゲームや謎解きが苦手という方でもちゃんとクリアできることを意識しています。いっぽうで、青沼さんがおっしゃったとおり、「ゼルダ」ファンの方もよろこんでいただける要素とか、遊んでいて楽しめるものも詰め込んだ、シリーズの王道タイトルとして作っています。
まだプレイされていない方も、プレイされている方も2周目、3周目と遊んでいただくとまだまだ発見がありますので、ずっとこの世界を遊んで楽しんでいただけたらなと思います。
佐野 昔の「ゼルダ」は謎解きの答えがひとつで、それを見つける楽しさがありましたが、今作はカリモノやシンクを使っていろいろな解き方ができます。人それぞれ、本当に懐が深く自由に遊べるようになっていますので、「ちょっとむずかしそう」と思われている方ほど、遊んでいただければな、と思います。
音楽もすごいですし、グラフィックもグレッゾさんがそれこそ民家のひとつひとつまで生活感がでるぐらいのこだわりをもって作られています。プレイ中、そういった場所にも寄り道してもらいながら、そこに流れている音楽やキャラクターの動きもいっしょに楽しんでいただけるとうれしいです。
—— 民家には過去作のニヤリとする小物も置いてあったりしますよね。
青沼 そういうのをさりげなく仕込むのも(寺田さんのほうを見て)うまいんだよね。
—— リンクの家の中も、ものすごく生活感がありました。
寺田 …………そうですね。
—— 返答にすごく間がありましたが。
一同 (笑)
寺田 そんなことはないです(笑)。ただ、怒られたら直そうみたいなところもありまして、(青沼さんたちが)じつは思うところがあるのかなと、反応を待ってみました。
青沼 いやいや全然。グレッゾさんはこれまでリメイクをずっと作ってくれていますから、そういった世界への理解とか「ゼルダらしさ」も熟知したうえで、“ここまでだったらいける”を攻めてくるんです(笑)。ですのでみなさん、そういう部分もぜひ探して楽しんでください!
<関連リンク>
▶︎「開発者に訊きました:ゼルダの伝説 知恵のかりもの」
▶︎『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』公式サイト
▼こちらの記事もお楽しみください
<商品概要>
発売日:2024年9月26日
価格:パッケージ版7,678円(税込)/ダウンロード版7,600円(税込)
対応ハード:Nintendo Switch
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