2024年度の締めくくりのメルマガということもあり、総括として、今年のイベントで私のイメージに強く残ったことについて書いてみます。
トランプ氏の勝利
何よりも私の印象に残ったのは、トランプ氏の大統領選での勝利です。TeslaのCEOであるElon Muskが応援し始めたこともあり、普段よりもそのプロセスと結果がとても気になりました。
2016年にトランプ氏が大統領選に勝利した時は、私も含めて、多くの人たちが「予想外の結果」にショックを受けましたが、今回は違いました。私から見ると、今回は「勝つべくして勝った」ように思えます。
要因はいくつかありますが、一番大きいのは、バイデン氏が大統領選に出ることに固執したために、民主党側で予備選が行われず、バイデン氏がトランプ氏とのディベートで醜態を晒した結果、副大統領だったハリス氏が自動的に繰り上がる形で大統領候補になってしまったことです。
結果として、ハリス氏は、自分の主張やバイデン政権との違いを明確にすることなくトランプ氏と戦うことになり、バイデン政権時代の、不法移民の増加や莫大な財政赤字などの失策のイメージをひきづったまま大統領選を戦うことになってしまいました。
あらかじめ台本が決まっていないポッドキャストのインタビューをハリス氏が避けたことも敗因の一つで、「あらかじめ用意した回答しか出来ないハリス氏」と「どんな質問にも自分の言葉で答えることが出来るトランプ氏」というイメージが出来てしまいました。
これだけでも勝負はついていたように私には見えましたが、ここに、X(旧Twitter)という強力な武器を持ったElon Muskによるトランプ氏の支援が加わり、トランプ氏の勝利は確実なものとなりました。
私は1989年から米国で暮らしていますが、今回の大統領ほど、ネットの力が結果に直接的な影響を与えた選挙はありませんでした。東京都知事選での石丸さんの活躍を見ると、日本でも同様の変化が起こり始めているように感じます。
ちなみに、トランプ氏は、米国の大学を卒業した人には全員グリーンカードを発行すべきとも言っており、これが実現すれば、世界中の優秀な学生が米国の大学に集まることになると思います。日本人であれば、日本の大学を中退してでも米国の大学を卒業し、グリーンカードを取得したら、リモートワークを許す米国の会社に就職して米国並みの給料をもらいながら、日本で暮らす、というのはとても賢い生き方のように思えます。
行き過ぎたWokeムーブメント
つい最近まで、「政治的正しさ」の斧を振り回していたWokeのムーブメントに批判の声が上がり始めたのも2024年の特徴です。Wokeとは、元々は、人種差別、性差別、LGBT差別など、様々な社会的不平等に立ち向かうムーブメントですが、それが過度に進んだ結果、白人男性に対する逆差別などが起こってしまいました。
特徴的な事例は、リベラルな大学で起こり始めた、イスラエルによるガザへの攻撃に反対する学生たちの運動が引き起こした事例です。それがユダヤ人に対するヘイトスピーチにまで発展しても、それを(マイノリティ=パレスチナ人を擁護するあまり)止めなかった・止めることが出来なかった大学の経営陣に対して厳しい批判の声が上がり、学長の辞任にまで発展したのです。
もう一つの事例は、トランスジェンダーのスポーツ競技での活躍です。体は男として生まれたにも関わらず、女性として育てられたトランスジェンダーに、女性として競技に参加することを許可した結果、一般の女性アスリーツが不利益を被ってしまうという事例が各所で発生したのです。
Googleの発表した画像生成系AIが、人種差別を嫌うあまり「第二次世界大戦中のドイツ兵を描いて」と指示しても、黒人や女性を描いしてしまうことが話題になりましたが、これもWokeの影響です。
トランプ大統領と共和党が勝利した要因の一つが、この「行き過ぎたWoke」に対する反対運動です。これまで大きな顔をして「政治的正しさ」を振りかざしていた、教育レベルの高いリベラル系の人に対する不満が爆発した年でもありました。
ホワイトハウスだけでなく、議会での過半数も握った共和党が、Wokeのムーブメントにストップをかける保守的な法案を通しにかかる可能性も大きいので、来年以降は、ここには注目したいと思います。行きすぎた「結果平等主義」が、本来の姿である「機会平等主義」に大きく戻される可能性が大きいと私は見て――(この記事は約63分で読めます ※25,114文字)
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この記事の著者・中島聡さんのメルマガ
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