「ナベツネ」の通称で知られ、プロ野球界、メディア界で独裁者のようにふるまい、先日98歳で亡くなった渡邉恒雄氏。そんなナベツネ氏と2006年に対談した際の内容を、メルマガ『佐高信の筆刀両断』の著者で辛口評論家として知られる佐高さんが明かしています。
標的にしたタレント文化人 渡辺恒雄
98歳で遂に亡くなった渡辺とは『現代』の2006年1月号で対談した。
「ズーッと俺の悪口を言ってきた奴と、どうして会わなければならないのか」と渡邉は最初渋ったらしい。
しかし、会ったら、「これは初めて話すんだけど」と、結婚の経緯なども話してくれた。
「僕はね、キューバのカストロ、アメリカのロバート・ケネディ、エジプトのナセル、韓国の金鐘泌といった、ひところ権力の頂点にいた人物と同じ歳なんだ。渡辺恒雄だけが出世していない」
こう言ったので、私が、
「そんなことはない(笑)。だいたいその権力者たちは、ほとんど失脚したり殺されたりしているじゃないですか」
と返すと、渡辺は
「うん。いまも権力を保っているのはカストロ、そして渡辺恒雄だけなんだ(笑)」
と言ってのけた。この時、80歳。
耳が聞こえず、貧窮の生涯を送った俳人、村上鬼城に「老鷹のむさぼり食へる生餌かな」という句がある。老いた鷹が生きようとして、生餌をむさぼり食っているのである。まさに老残の極みだろう。
憲法改正試案をだしたり、政治の世界で大連立を画策したりした読売新聞のドン、渡辺恒雄こそ、その醜態をさらす鷹だった。やはり鬼城の「冬蜂の死にどころなく歩きけり」という句の姿になるのも遠いことではなかったのである。
それにしても、批判精神がいのちの新聞になぜ、こんな老害の典型が棲息してきたのか。社長目前の渡辺が言い捨てたセリフがある。
「俺は社長になる。そのためには才能のあるやつなんか邪魔だ。俺にとっちゃ、何でも俺の言うことに忠実に従うやつだけが優秀な社員だ」
大阪の社会部長として勇名を馳せながら、渡辺に追われた黒田清がこう言っていた。
「今の読売は権力にすり寄ってるなんてもんじゃない。権力者が新聞をつくってるんだ。そんなのジャーナリズムじゃないよ。これじゃ日本が戦争に突き進んだ時にちゃんとした批判もできない。読売をそんな新聞にしてしまったことが残念でならない」
ロッキード事件で正体がバレた右翼の黒幕の児玉誉士夫に九頭竜ダム建設にからんで鉱山を経営していた日本産銅の社長、緒方克行が補償を求めて仲介を頼みに行った時のこと。
「中曾根康弘を中心として、読売政治部記者の渡邉恒雄君、同じ経済部の氏家斉一郎君に働いてもらいます」
児玉はこう明言し、翌日、補償は取ってやるから資金を1,000万円持って来い、と言われて、緒方が児玉邸に届けると、そこには渡辺と氏家が座っていたという。
この渡辺が東大生時代はバリバリの共産党員だった。対談した時、渡辺は「小選挙区制は必ず一党独裁をつくる」と言っていたが、自身の独裁はわかっていたのだろうか?
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