シリアのアサド政権があっけなく崩壊した。崩壊のスピードはあまりに早く、これを予測できた専門家はいなかった。実はこの問題を深堀りすると、第三次世界大戦の引き金になってもおかしくないような事態が見えてくる。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
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あっけなく崩壊したシリアのアサド政権
12月8日、内戦が続きながらもシリアの大部分を掌握していたアサド政権が崩壊した。ジャウラニという人物が指導者の「シリア解放機構(HTS)」を中心とした反政府勢力が首都ダマスカスを制圧し、アサド大統領は後ろ盾となってきたロシアに亡命し、政権はあっけなく崩壊した。
これを受けて、反政府勢力を主導した「シリア解放機構(HTS)」のジャウラニ指導者がダマスカスのモスクに姿を見せ、大勢の人々を前に演説した。この中でジャウラニ指導者は「この勝利はイスラム国家全体の歴史の新たな1ページでこの地域にとっての転換点だ。シリアは北から南、東から西まで11日間で解放された。私たちは偉大な勝利によって13年間に及ぶ苦しみが癒やされるのをこの目で目撃した」と述べた。
また、国営テレビを通じて公共施設は政権移譲されるまで前首相の管理下におかれると宣言し、秩序ある政権移譲が行われるよう国民に融和も求めている。
アサド大統領は亡命したものの、シリア政府は国内に存続している。ジャラリ首相は早期に政権移譲を行う考えを示した。これまでのところ大きな混乱は伝えられておらず、国外に避難していたシリア人が帰国する動きも広がっている。
だが、反政府勢力を主導した組織、「シリア解放機構(HTS)」がアメリカでテロ組織に指定されていることから、平和的な政権の移譲が実現するかが焦点になっている。
ジャウラニは「IS」系組織出身
ちなみに、アサド政権を崩壊させた「シリア解放機構(HTS)」は非宗教的な世俗主義の組織ではない。指導者のアブー・ムハンマド・アル=ジャウラニはシリア人ではない。サウジアラビアのリアド出身のイスラム原理主義者だ。
アル・ジャウラニは、シリアの「アルカイダ」の関連組織、「アルヌスラ戦線(ANF)」のリーダーである。2017年1月、「ANF」は、他のいくつかのイスラム原理主義武装集団と合併して、「ハイアト・タハリール・アル・シャーム(シリア解放機構)(HTS)」を結成した。アル・ジャウラニは「HTS」のリーダーではないが、現在も、「アルカイダ」系組織として「HTS」の中核をなす「アルヌスラ戦線(ANF)」のリーダーを務めている。
2013年4月、アル・ジャウラニは、「アルカイダ」とそのリーダー、アイマン・アル・ザワヒリに忠誠を誓っている。アル・ジャウラニのリーダーシップの下、「アルヌスラ戦線(ANF)」はシリア全域で複数のテロ攻撃を実行してきており、しばしば民間人を標的としている。2015年4月、「ANF」はシリアの検問所からクルド民間人約300人を拉致したのち、解放したと報告されている。2015年6月、「ANF」は、シリア、イドリブ県カルブ・ロゼ、ドゥルーズ村における住民20人の大虐殺に対し、犯行声明を出している。
このように「HTS」の指導者、アル・ジャウラニは「アルカイダ」系のイスラム原理主義勢力、「アルヌスラ戦線(ANF)」のリーダーだ。また、アル・ジャウラニはもっとも残虐な「IS(イスラム国)」の指導者、バグダディの副官だったとの情報もある。米国務省は、アル・ジャウラニの情報提供に対し、最高1000万ドルの報酬を提供している。
このようにアル・シャウラニは札付きのテロリストであったが、アメリカの「CNN」などの主要メディアは、シャウラニは反省し、いまはイスラム原理主義を手を切り、世俗的な指導者として、シリアを統一する計画だと報じている。
だが、スイス参謀本部のジャック・ボー元大佐によると、「シリア解放機構(HTS)」及びこの組織と協力関係にあるイスラム原理主義の武装組織には、シリア人はほとんどいないことが分かっているという。メンバーの多くは、サウジアラビア、イエメン、アフガニスタン、アゼルバイジャン、タジキスタン、アルバニア、ウズベキスタン、ロシアのチェチェン共和国などの出身だ。「アルカイダ」や「アルヌスラ戦線(ANF)」と同じように、「シリア解放機構(HTS)」は、イスラム原理主義の国際的テロ組織だった。
さらにジャック・ボー元大佐によると、「シリア解放機構(HTS)」はアメリカが資金を提供しており、ウクライナ軍特殊部隊が訓練していたという。
このようなイスラム原理主義の多国籍勢力で結成されている「HTS」ならば、普通であればガザで「ハマス」を支援してイスラエルと戦うのが自然である。しかしそうはなっていない。シリアのアサド政権の打倒に動いたのだ。ちなみに、「アルヌスラ戦線」や「IS」、そして「アルカイダ」もイスラエルを攻撃対象にしたことはない。ということは、「HTS」も含め、イスラム原理主義勢力は、イスラエルやアメリカの道具であるとみなすことができる。これは後半の記事に書く。
いずれにせよ、こうした原理主義組織の中心である「シリア解放機構(HTS)」がシリアの政権を取ったとしても、「HTS」の参加にある複数の原理主義組織は内紛で分裂するので、一層ひどい内戦になるとの観測もある。シリアの流動化である。しかしこれは、後半の記事に書くが、アメリカとイスラエルが本来目指していた状況である可能性も高い。