私がみなさんにお伝えしたいのは、あきらめることの素晴らしさです。あきらめることは、逃げることではありません。目の前にある現実を直視し、限られた自分の時間を有効に使い、人生を前向きに生きるために欠かせないマインドリセット法なのです。(「はじめに」より)
こう主張するのは、『あきらめると、うまくいく - 現役精神科医が頑張りすぎるあなたに伝えたい最高のマインドリセット -』(藤野智哉 著、ワニブックス)の著者。
幼少時にかかった川崎病が原因で心臓に障害を抱えつつも、意欲的に活動を続ける精神科医です。
4歳で発症してから「できること」が限られた日々を送るなか、やがて自然と身につけたのは「あきらめ」の気持ち。
「走れなければ車に乗ればいい」「泳げなければ浮き輪を使えばいい」というように、いい意味での「あきらめ」が気持ちを楽にしてくれたのだといいます。
そんな経験があるからこそ、「生きていくためにはゆるくてもいい」のだと言うのです。多くの人は、そのことを忘れがちだとも。
そこで本書においては、肩の力を抜き、ゆるくポジティブに生きるための考え方を記しているわけです。
第1章「受け入れ、受け流す技術」のなかから、「あきらめる」ことについての基本的な考え方を引き出してみたいと思います。
「あきらめる」とは?
「あきらめる」ということばには、夢を追いかけることをやめたり、途中で投げ出したりなど、マイナスなイメージがついてまわります。
しかし必ずしもそうではなく、たとえば仏教では、「あきらめる」と「明らかにする」は同じ語源だといわれているのだとか。
そして著者は多くの人に、あきらめることを推奨したいのだといいます。
あきらめる。それはあるがままを受け入れるということです。あなたが何か大きな失敗をしたとします。あるいは仕事を抱えすぎて心がパンクしそうになったとします。 あなたは最初に、いったい自分のどこに原因があったのかを明らかにする必要があります。
もしあなたのキャパシティーを超えてしまっていたのだったら、その事実を正面から受け入れて理解することです。 「できないことはできない」と知ることはとても大事なのです。 (14~15ページより)
走るのが遅い人に、「運動会だから速く走れ」と命じてもそれは無理な話。
トレーニングすることによって多少は改善できるとしても、「走る」「ジャンプする」などの基本的な動作・運動能力には先天的な要素が大きく関係するからです。
したがって重要なのは、「できないものはできない」と認めたうえで、違う方策を考えること。
いろいろなことにあてはめること考え方で、たとえば覚えることが苦手なら、その場でメモをすればいいということになるわけです。
「記憶する」ことをあきらめたからこそ、次のステップに進めるということ。(14ページより)
人はみんな違うとあきらめる
「できないことはできない」と知ることは、とても大切。とはいえ人は、がっかりするようなことを避けたがるものでもあります。
期待したものの、自分の思いどおりにならなかったとしたら、イライラしてしまうこともあるかもしれません。
しかし、「思いどおりにならない」というのは、「自分の基準」で考えているからこそ起こる感情です。つまり私たちがイライラするのは、自分の都合どおりにならないとき。
会社に入ったばかりの後輩に仕事のミッションを課した結果、その後輩は3回に1回うまくいったとします。それを「1/3しか成功しない」と捉えてイライラするとしたらナンセンス。
そうではなく、「経験が浅いのに3回に1回もできているのだからすごい」とほめてあげればいいわけです。
子育てにしても同じ。「この子は1/3しかできない子だ」と残念がるのではなく、「1/3もできる子」だと明らかにし、理解することが大切。
人はそれぞれ違います。自分と同じ人間はいません。前向きにあきらめることが大事なのです。 漢字で書くと「諦める」。この「諦」という字自体には悪い意味はひとつもないそうです。
あきらめる、という言葉は余計なものを捨てるといった意味を持っていると私は信じています。(16~17ページより)
大切なのは、目的のために「いらないもの」を捨てること。自分が生きていくために目的とすべきことはなにかと考えれば、おのずと答えが出てくるわけです。
このことに関連し、著者は自身のことを例に挙げています。
論文の締め切りが迫っているのにどうしても執筆が終わらないとします。この原稿を落としたら、学会での信用がなくなるかもしれません。私の場合は医者という本業がありますので、すぐにごはんが食べられなくなる心配はありませんが、人様に迷惑をかけたり、信頼をなくすことは極力避けたいと思います。
そのとき、私に必要なのはあきらめることです。 時間がなくてひとりで論文を書くのが無理だそしたら、誰かに協力を仰いで、共著という形にして労力を減らすのです。(17~18ページより)
そうすれば、信用を失うという最悪の事態は回避できるという考え方。
このように、なにかをあきらめることが必要な局面もあるということです。(16ページより)
過度な期待はしない
世帯を持ちながら働く女性は少なくありませんが、そこでしばしば問題となるのが、仕事と家事との両立の問題です。
このことに関して著者は、もしも仕事が忙しくて家事をする時間がないのなら、仕事を部分的に外注してみたり、(お金はかかるでしょうが)家事を代行業者に頼んだり、ベビーシッターの力を借りるなどガス抜きをすることが大事だと主張しています。
真面目な人ほど、すべて自分でこなさなければいけないという足かせに苦しんでいるもの。しかし大切なのは、キャパオーバーしないことです。
すべてを両立させることはできないのだから、どちらかから撤退する勇気が必要だということ。
想像してください。自分の身内や子供が心のキャパオーバーで「死にたい」と言ったら、あなたはどう思うでしょうか。 きっと「生きていてくれればそれだけでいい」と思うのではないでしょうか。ということは、こんな自分でも誰かにそう思われているということなのです。
(中略) あきらめとは、人に対して過度な期待はしないことも意味します。当たり前の話ですが、すべてがあなたの思うようになるわけではないということを知ってください。(19~20ページより)
苦手な食べ物があったら、無理に食べなくてもいい。栄養なら、ほかで補えばいい。
そんなことも含め、あきらめることで気が楽になるのであれば、それがいちばんいいのだと著者は言います。(18ページより)
身近な例を挙げながら話が進められていくので、著者の考え方を無理なく受け入れることができるはず。
そして読み終えたころには、あきらめることの大切さを理解できているかもしれません。
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Photo: 印南敦史
Source: ワニブックス