敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ。今回は、コミック『Transmetropolitan』ほかで有名な作家、ウォーレン・エリス(Warren Ellis)氏にインタビューしました。

エリス氏の代表作『Transmetropolitan』は、でたらめジャーナリストが主人公のサイバーパンクコミック。『Gun Machine』などの小説も有名です。ほかにも、テレビ番組、映画プロジェクト、雑誌のコラムなど、彼の作品は、技術や未来と私たちの関係についての見解を述べたものがほとんどです。

そんなエリス氏は、イマジネーションを作品に取り入れることに困難を感じていないのでしょうか? また、どのように言葉を書き綴っているのでしょうか? 愛用のツールや執筆の習慣など、エリス氏の仕事術を聞きました。

氏名:ウォーレン・エリス(Warren Ellis)

場所:英国南東部のサウスエンド・オン・シー

現在の職業:作家。テーマは様々。グラフィック小説シリーズ『INJECTION』と『TREES』は、5月中旬に刊行が開始されています。「Esquire.com」に、技術に関する月1コラムを連載しています。

現在のコンピューター:Lenovo T440、Dell XPS 13 2015エディション、初代Chromebook Pixel

現在のモバイル端末:iPhone 6が届いたばかりで、徹底的に使い倒したiPhone5の役目は終わりました。6は現在、実験的にAnker製のバッテリーケースに入れています。最初からバカでかいスマホをもっと大きくするほどの価値があるかどうかわかるまで使ってみます。

仕事スタイル:コンスタントに

── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?

  • スマホは常に手の届くところに置いてます。常にです。依存して生きています。
  • Field Notes製ノート、Pilot製の黒のフリクション(さらに、モレスキン製の小型ノート「Volant」も。こっちのほうが、今使っているHandspring製のVisorが入っていたレザーケースを流用したEDCパックにぴったりなんです)
  • 「Chrome」と「Gmail」。スマホでは「Mailbox」
  • Anker製スマホ用外部バッテリー
  • ポッドキャスティング用に「Audacity
  • 「Dropbox」、「JungleDisk」、WD製外部ドライブ4台
  • 「メモ帳」です! まるで老人のように、何でもメモ帳に書いています。ラフな下書き、ニュースレター、「orbitaloperations.com」など。

── 仕事場はどんな感じですか?

1日の最初の1,2時間は、スロープのついた屋根がある裏庭のテーブルで過ごします。スマホだけの日もあれば、Dell、Pixel、ノートなど、その日の種類によって持ち込むものは変わります(現在「Textblade」の到着待ちです。これは、特に外にいるときに、物事をシンプルにしてくれるツールです)。1日の残りは、自宅の裏にある小さな部屋で過ごします。20年前、その部屋をオフィスと呼ぶことに決めました。同じく20年前にジャンクストアで購入した重厚感のある木製デスクを使っています。写真は載せません。なぜなら、2ヶ月前にたくさんのジャンクを手に入れてからまだ整理し切れておらず、あまりにも散らかっていて、ため込み癖のある人に見られてしまうからです。

21インチのASUS製スクリーンを、ラップトップの後ろのライザー上に置いています。個人的には、大きなスクリーンがあと5台ほどと、WiFiブースターがほしいです。というのも、ルーターが1階にあって、古い家だと壁が厚いうえに金属や骨組みが含まれているようで、2階ではシグナルが弱いんです。大画面にはたいてい、Twitterのデスクトップアプリ「MetroTwift」か、「Grasswire」「Netflix」あるいはストリーミングのテレビニュースを表示しています。Rev Dan Cattが「Guardian Ambient Hedline News」を再開するなら、私はその大画面に上ってみせます。大画面には、「Google Trends」のビジュアライザーを表示することもあります。また、本やテレビの脚本を書き直すときにもそのスクリーンが役立ちます。大画面にメモやコメントの付いたバージョンを表示させながら、ラップトップで書き直しをしています。

── お気に入りの時間節約術は何ですか?

これまでにやったベストなことと言えば、1日に1回だけチェックする「パブリック」メールアドレスと、プライベートの仕事/個人用メールアドレスを設定したことです。おかげで、200件以上あった起床時の新着メールが、一晩で50件以下に減りました。今でもその状態が続いています。

Mailstrom」と「Mailbox」を組み合わせることで、受信箱を管理下に収めることに初めて成功しました。

── 愛用中のToDoリストマネージャーは何ですか?

デスクにはいつも、ペンをクリップしたノートを1冊置いています。私はそれを「Daybook」と呼んでいて、それが私にとってのToDoリストです。でも今は、オフィスのコーナーを片づけて、ホワイトボードを置こうかなと検討中。今年は、小説執筆という長旅ではなく、短期的な集中力を積み重ねることを目指しています。そのためにも、タイムマネジメントと記憶力のマネジメントをしっかりやらなければ。

スマホをToDoリストとして使うコツは、まだわかっていません。

── 携帯電話とPC以外で「これは必須」のガジェットはありますか?

「Kindle Paperwhite」ですかね。数年前から電子書籍にはまっています。家が紙の本であふれていたので。それにKindleは、「長い読み物」にも便利です。ブラウザーのツールバーにある「Send To Kindle」ボタンがとても重宝しています。

それから、Sony製NWZX-1060B 32GB MP3プレイヤーとSony製XBA-4iPイヤホンのない生活はつまらないでしょうね。このセットは、私の旅行キットの欠かせない存在になっています。

── 執筆にはどんなツールを使っていますか?

仕事によって変えています。

本、記事、その他の長い散文は、マイクロソフトの「Word」を使います。とはいえ、最初は「Google Docs」で書き始めることもあります。散文の書き始めにはChromebook Pixelが最適なので。それでも、出版社のワークフローに合わせるために、最終的にはWordにする必要があります。

同じような理由で、テレビの仕事は「Final Draft」で書いています。多くのテレビ局やスタジオが、それを使っているからです。

コミックの原稿は、「Open Office」で書くことが多いです。そのために、4つのマクロを作っています。もう何年も前から、RTFで原稿を書くのが習慣になっています。というのも、皆が違うシステムを使っていて、すべてに確実に対応できるのがRTFなので。

2台のWindowsマシンは、そのためのハードウェアです。T440は常にデスクの上にあり、Dellは旅先に持っていきます。Dellは薄くて軽いので、ショルダーバック「Maxpedition Jumbo Versipack」の背面ポケットにも入るからです。2台はDropbox経由で同期しています。

それから、前述のように、ノートとペンは常に持ち歩いています。これも上に書きましたが、ラフな下書きなどは、まず「メモ帳」に書くこともあります。

── 無意識のうちに常に何かに取り組んでいるタイプですか? それとも、あるプロジェクトを終えて次に移るときに、時間をかけて心をさまよわせることがありますか?

いつでも複数の仕事が同時進行しているので、常に何かに取り組んでいます。これは悪いことではありません。この日は1つのことに集中しなければならないと決めないことで、別のことに取り組むことが可能です。だから私は、常に生産を続けています。複数の分野で働くことで、フレッシュさを保ち、さまざまな筋肉を動かすことができるのです。今朝はこれから、コミックの原稿、テレビの試験番組のアウトライン、記事1本が控えています。コミックから着手したとして、5分もすれば、5時間後には力尽きることがわかります。夕食のために休憩をしたのち、アウトラインに着手するでしょう。その後、1日の最後の2時間ほどを、記事のためのテーマの選定に充てるかもしません。20分間の休憩を2回取って、1行の返信では済まないメールを書こうと思います。

脳をさまよわせる必要があるときは、単純に〆切を破ります(笑) おっと、これはオフレコでお願いしますね。

── 日常のことで「これは他の人よりうまい」ということは何ですか?

寝ることです。どんな環境でも寝られるし、ネコよりも長く寝られます。寝ることに関してはオリンピックに出られるレベルですね。脳に腫瘍があるのかもしれません。

── 仕事中、どんな音楽を聴いていますか?

特色のあるアンビエント系が多いですね。いま私の心をつかんでいるのがBandcamp。「SPEKTRMODULE」というポッドキャスト向けに、新しい曲も選びます。SPEKTRMODULEは、数週間に1回のペースで、spkmdl.libsyn.comに公開しています。Soma FMの「Drone Zone」も、驚くほど便利です。「Ambient Sleeping Pill」も。ラジオアプリ「TuneIn」で聴いています。

それから、「Mantis Radio」「The Black Dog」「Radio Etiopia」「Sadayatana」などの音楽系のポッドキャストも聴きます。いつでも、アンビエント/ドローン/エレクトロニックのポッドキャストを探しています。

1日の始まりには、ニュース系のポッドキャストを聴くことが多いです。「Economist Radio」「Today」「In Our Time」「Start The Week」「Analysis」「Covert Contact」など。ポッドキャストには「Downcast」を使っていて、スマホとiPad2で同期してくれます。

現在は、Altec Lansing製のinMotionスピーカーですべてを聴いています。小型だけどパワフルなスピーカーですが、もう生産終了になっています。

静かな環境では仕事ができませんし、するつもりもありません。

── 現在、何を読んでいますか?

いつでも何冊か並行で読んでいます。今は、Robert Macfarlane著『Landmarks』、Christopher Vitale著『Networkologies』、Elliot Murphy著『Unmaking Merlin』を読んでいるところ。

本棚にある雑誌は、『The Wire』『Paris Review』『Lapham's』です。『London Review of Books』『Times Literary Supplement』『Foreign Policy』は、Kindleに直行です。

「Feedbin」「Reeder」には現在、100個程度のウェブサイトしか入ってません。RSSが廃れてしまい、洞窟の壁画や伝書バトによるメッセージが消え行くのを嘆いているような気持ちです。

── あなたは外向的ですか、内向的ですか?

以前、オンラインでテストをしたことがあります。結果は外向的というものでした。でも、私が仕事をできるのは、小さな部屋に1日16時間こもって一人で座っているときだけ。テストなんてあてになりません。

── どのように充電していますか?

旅です。なぜか、旅に出るといつも、元気になれます。私にとっては、飛行機、列車、ホテルの部屋がウォールデンなのです。内省し、リラックスし、たくさんの本を読むことができます。

── 睡眠習慣はどのような感じですか?

理想的には、午前3時までには寝て、正午までに起きようとしています。iPhoneに入れている最悪の目覚まし「klaxon」が助けてくれます。数ある目覚ましアプリの中で、これだけは眠り続けることができません。

── あなたが受けたものと同じ質問をしてみたい相手はいますか?

1人はFred Armisen氏です。いちど同じ飛行機に乗り合わせたことがあって、イヤーモニターをつけながら、2時間のフライト中に大量の仕事をこなしたのが驚きでした。次に、「Geoloqi」「Esri」にいたAmber Case氏。今は、『Calm Technology』という本を書いています。あとは、デンマーク人シェフのRene Redzepi氏です。

── これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください

子どものころ、Paul Gravett氏にこう言われたことがあります。世界で最も難しいことは、誰にでもわかるように明確にストーリーを語ることだと。私は常に、それに挑戦し続けています。

── その他、読者に伝えたいことがあればどうぞ。

週1で発行しているニュースレターは、orbitaloperations.comで購読できます。内容は、このインタビューへの回答ほど退屈なものではありません。寒くない朝は、morning.computerに記事を公開しています。Twitterには、@warrenellisで出没しています。

Andy Orin(原文/訳:堀込泰三)