この記事は、2006年にマネー系ブログ「Get Rich Slowly」を立ち上げたJ.D. Roth氏によるゲスト投稿です。Roth氏は『Your Money: The Missing Manual』の著者で、ビジネス系ブログ「Entrepreneur」でも「Your Money」というコラムを手がけています。Roth氏は近年、1年コースのマネー管理術講座を開講し、早期退職などの目標に向けたコスト削減や増収の方法を説いています。今回の記事は、その講座の一部を抜粋したものです。

収入を増やす最良の方法のひとつは、新規雇用時か業績評価の場で、給与額の値上げ交渉をすることです。気後れするかもしれませんが、これは極めて重要なことです。今回は、交渉によって望みどおりの結果を手に入れる方法を紹介しましょう。

相場を理解して、雇用側に自分を売り込む

学術誌『Journal of Organizational Behavior』で発表された最近の研究報告によると、標準的な職種で就職時に給与交渉をしなかった場合、生涯では60万ドル以上の損失につながるそうです。

面接に臨む前には、給与額の最低ラインを考えておくことが大事です。そのためには、「Salary.com」「CareerBliss.com」「PayScale.com」「GlassDoor.com」などのツールを活用して、あらかじめ慎重にリサーチを行い、相場を理解しておきましょう。また、あなたが望むポストではどの程度の給与が適正なのか、友人や同僚に相談する時間も確保し、信頼度の高いフィードバックをもらうと良いでしょう。こうした情報があれば、交渉の際に役立ちます。

ですが、リサーチだけでは不十分です。採用面接(または業績評価)での目標は、あなた自身を売り込むことだと肝に銘じておきましょう。あなた自身に「自分には、希望する金額に見合う力量がある」という信念がなければ、雇用する側にも見透かされてしまいます。

給与の希望額を決める際には、相場ではなく、あなたが雇用先にどれだけの価値を提供できるかに目を向けるべきです。昇給や異動を願い出る際には、これまでの業績を書き出した上で、その金銭的/時間的メリットを数値で示しましょう。例えば、「定例の書類作成を自動化して月に40時間の作業をカットできた。これは1日当たり500ドルのコスト削減に相当する」などと指摘するのです。面談の際に話すべきことを一覧にまとめ、昇給を勝ち取るために活用します。面接官がその情報を手元で確認できるように、この一覧を直接手渡しましょう。

大学を卒業したばかりとか、畑違いの分野に飛び込んだばかりとかいった駆け出しの人には、自分の価値を示すだけの業績はあまりないかもしれません。その場合は、仕事に対する思い入れや勤労意欲を前面に押し出します。そして、給与額を提示されたら、最低でもその1割増を希望してみましょう。

給与の増額を実現するための、具体的な交渉術2つ

読み進めていくうちに、この2つがとても似ていることに気づくと思います。参考にしてみてください。

Noel Smith-Wenkle氏の給与交渉術

Noel Smith-Wenkle氏は、1980年代に活躍したヘッドハンターです。クライアントである求職者が、給与交渉で雇用主から最大限の提示額を引き出せるように(その結果、自身に入ってくる手数料も多くなるわけです)、以下の方法を編み出しました。

Smith-Wenkle氏の方法が説く第1のルールは、決して自分からは最低希望額を言わないことです。まずは企業側に数字を提示させるのです。この方法を実践するには、4つのステップを踏むことになります。

  1. 応募書類に給与希望額の記入欄があったら、空白にしておきます。
  2. 口頭で最低希望額を聞かれた場合は、「御社で(仕事の内容)をすることに強い関心を持っておりますので、最初にいくらご提示いただけるかは二の次です」と答えます。Smith-Wenkle氏は、40%のケースではこう答えるだけで良いと言っています。
  3. 相手が重ねて聞いてきた場合は、「適切な金額であれば検討させていただきます」と答えます。礼儀正しい言い方で、回答は保留するのです。最初の回答だけで済まなかった場合でも、こう言えばしのげる場合が全体の30%だそうです。
  4. それでも済まない場合があと30%あります。さらに問いかけられた場合は、「私が御社にとってどれほどの価値があるかは、あなたの方が判断しやすい立場にいらっしゃると思います」などと、丁重に答えつつも、明言は避けます。企業側があなたに対して、先に数字を示すよう何度問いただしてきたとしても、あなたのファイナルアンサーは同じです。

繰り返しますが、この方法の目的は、企業側に先に金額の提示をさせることにあります。さて、いざ企業側から金額を出されたら、それに対するオプションは2つあります。もし提示額が自分の最低ラインを上回っていたら、受け入れます。もし最低ラインを下回っていたら、それでは低すぎると伝えます。ただし、どの程度足りないのかを言ってはいけません。

Jack Chapman氏の給与交渉術

キャリアコーチのJack Chapman氏による『Negotiating Your Salary: How to Make $1000 a Minute(給料の交渉術:1分で1000米ドル稼ぐ方法)』は、こうした指南書の中でも最高傑作だと思います。Chapman氏はその中で、給与交渉のための5つのルールを掲げています。

  1. 採用されるまでは給与交渉をしない。

    まずは、あなたの未来の雇用主に、あなたが適正な候補者かどうかを判断してもらうのが先です。金銭についての交渉はそのあと行いましょう。昇給の交渉についても同じことが言えます。昇給についての話し合いは、業績評価が終わってからにしましょう。

  2. 相手に先に金額を提示させる。

    Smith-Wenkle氏の方法と同じです。企業側に先に金額を提示させることを目指しましょう。とはいえ、「これまでの給与額を直接聞かれたら、はぐらかすのは難しい」と感じている人は多いようです。Chapman氏はそうした人々に向けて、希望給与額についての質問にどう答えるかを指南したビデオを公開しています。(なお、Penelope Trunk氏による給与交渉についてのアドバイスも参考になります。)

  3. 相手側から提示があったら、その数字を復唱し、それから口をつぐむ。

    Chapman氏はこの戦術を「たじろぎ("the flinch")」と呼んでいます。「ほとんどの場合、この沈黙は昇給に結びつきます」とChapman氏は言います。このテクニックを使えば、あなたは考える時間を稼げるし、採用側にプレッシャーを掛けられます。たいていの場合、企業側は提示額を上げてくるものです。

  4. リサーチに裏打ちされた対案を提示する。

    対案を出すからには、その前提として、あなた自身、市場、そして相手企業についての理解が必要です。だからこそ、面接の前にリサーチを行って、自分が希望するポストの適切な給与額の範囲について、知っておく必要があります。

  5. 提示額を受け入れ、その後さらなる譲歩を引き出す。

    最後のステップです。まずは提示された金額を受け入れ、それから、休暇日数の追加や社用車の貸与といった待遇面を交渉します。これは、車の購入価格をまず決めてから、下取りに出す車の価格を交渉するのと同じことです。より良い待遇の獲得につながる、賢明な方法です。

Jack Chapman氏は、キャリア管理に特化したウェブサイトを運営しており、著書を購入できるほか、給与交渉の役に立つヒントや、実際の言い回しを紹介した短い動画も多数見られます。

給与交渉に役立つ最大のヒント

上記の2つの方法は、給与交渉における優れたアウトラインを示してくれますが、交渉相手が先に金額提示をするのをただ待っていることはありません。ほかにも交渉を進めるためにできることがあるのは、皆さんお気づきですね。私は10年にわたってファイナンス系の記事を書いてきましたが、その間に学んだ優れた交渉術のヒントを突き詰めると、こうなります。

「勇気を持て」

求職者が陥りがちな最大の間違いは、まったく交渉しないことです。「景気が悪いから」とか、「この金額を提示してもらえただけでもラッキー」とか、「そんなこと言い出すのは気が引ける」とか、そういった言い訳はやめましょう(英文記事)。要求を断られるのではないか、と心配するのもやめましょう。交渉する勇気を持つことは、特に女性にとって重要です。男性は女性に比べて、4〜8倍もの頻度で給与交渉を行っているそうです。たいていの企業は給与交渉に前向きなのに、ほとんどの従業員はそれを試そうともしないのです。

では、試す覚悟ができたならば、下記を参考に臨んでみてください。

準備を怠らない

適正な給与水準についてリサーチします。いくら欲しいのか、答えを出しておきます。ただし、交渉での妥協の余地を残しておくため、若干多めの額を希望しておきます。自分ならどう交渉するか、何度も練習しておきます。信用できる誰かに時間を取ってもらって、ロールプレイを重ねます。これを録画しておけば、自分の欠点が見つけられます。練習を重ねればそれだけ、本番の面接でリラックスできるはずです。

沈黙を守る

給与交渉中はたいてい、相手側にしゃべらせておくことが最良の方法です。相手側から金額の提示があったら、(その提示の内容に関わらず)Chapman氏の方法に従って、「たじろぎ」戦術(しばしの沈黙)で対応します。ハーブ・コーエン氏は著書『FBIアカデミーで教える心理交渉術』の中で、「奇妙な話だが、沈黙は、簡単に実行できるのに、おそらく涙や怒りや攻撃と同じくらいの効果がある」と記しています。まさに、「沈黙は金なり」です。

要求を変えない

雇用主は多くの場合、あなたが給与交渉で最初に出す要望に応じないでしょう。ですが、これにくじけてはいけません。穏やかに反論し、あなたが提示した給与額の妥当性を主張します。会社がこの「投資」によって、どれだけの利益を得られるのか説明しましょう。

我慢強く

交渉プロセスが進めば進むほど、企業側はどうにか採用にこぎ着けたいと考えるものです。現在の給与額や希望給与額は一切伝えてはいけません。応募書類に記入欄があったとしても、書いてはダメ。数字を出してしまったら、自ら交渉を打ち切ることになり、あなたを不利にするだけです。あくまで、雇用主側が最初に金額を提示してくるまで待ちましょう。

柔軟に

企業側が給与額について譲歩してくれない場合は、別の形での報酬を交渉してみましょう。休暇を多くもらえないか、オフィスを個室にしてもらえないか、フレックス勤務は可能か(例えば、出勤日数を週5日ではなく4日にする代わりに、1日に10時間働く形にするとか)など、待遇面での優遇を希望してみます。ほかにも、交通費の支給、スキルアップ費用の補助、健康保険の保障内容の上乗せ、業績に応じたボーナスの支給、職場へのペットの同伴といった特別扱いを認めてもらえるかもしれません。

その他、給与交渉に役立つ記事など(英文)

適正な給与額の算出方法について詳しく知りたければ、全米大学・雇用者協会(NACE)が求職者向けに提供している無料の給与計算ツールを活用しましょう。これを使えば、標準的な給与額を算出できます。

中堅企業の人事担当役員を務めた経験を持つAlison Green氏のブログ「Ask a Manager」にも、雇用に関するヒントが満載です。特に、給与交渉時に言うべきことをまとめたこの記事は必見です。最後にもうひとつ。『I Will Teach You To Be Rich(お金持ちになる方法を教えましょう)』の筆者Ramit Sethi氏は、無料の交渉術1日ミニ講座を提供しています。給与交渉の役に立つヒントも見つかりますよ。

この給与交渉ガイド記事は、1年コースの「Get Rich Slowly」講座のごく一部を抜粋したものです。この講座には、金融エキスパート18人へのインタビューや、全120ページのパーソナルファイナンスガイドが含まれ、早期退職、子どもの大学進学、世界一周旅行など、それぞれの目標達成に向けたアドバイスを受けられます。「Get Rich Slowly」講座はこちらで購入できます。

J.D. Roth(原文/訳:風見隆/ガリレオ)

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