鳴り響く電話。メールの着信音。多くの音にあふれた環境で、どう効率的に仕事を進めればいいのでしょうか?
各従業員の仕事スペースが、壁とドアではなく、低いパーテーションで仕切られている「オープンプランオフィス」。
最新の研究で、こうしたオープンプランのオフィスでは従業員の仕事の効率が落ちるという研究結果が示されました。「今回の研究結果は、オープンプランのオフィスは従業員同士のコミュニケーションを促進し、仕事環境全般の満足度を高めるという、これまで一般に信じられてきた考え方と矛盾します」と論文を執筆した研究者はコメントしています。「オープンプランのオフィス推進者がその利点として挙げる、モラルと生産性の向上という効果は、研究データによる裏付けが無いようです」
■「雑音」と「プライバシーの欠如」が効率を下げる
オープンプランオフィスで仕事をする従業員の、主な不満の1つが「音」です。止むことのない話し声や動作の音が、従業員のモチベーションを下げる原因になっているという研究結果が示されています。
応用心理学の学術誌に掲載された研究では、40名の事務職の女性を「低レベルの音」に3時間にさらしました。典型的なオープンオフィスの環境を再現するためです。別のグループは3時間、静かな環境で過ごしてもらいました。その後、両グループの被験者にパズルを解いてもらいました。被験者が初めて取り組む、解の無いパズルです。その結果、静かな環境に置かれていた被験者は、熱心にパズルに取り組み続けたのに対して、音のある環境に置かれていた被験者はパズルに数回挑戦したあと、あきらめてしまいました。
よく挙がるもう1つの不満が「プライバシーの欠如」です。これはある意味、計画的なものです。オフィス設計者や経営者は、壁が取り払われれば従業員同士が気軽に会話をかわすようになり、新しいアイデアが生まれやすくなるだろうと期待していました。しかし、彼らの描いていたユートピア像は、現実と異なりました。
研究によると、従業員同士の会話は確かに増えるものの、会話は短く、表面的なものに終わりがちでした。なぜなら、会話に耳をそばだてる人が周囲にたくさんいたからです。自意識過剰にならないためにも、他の従業員と会話をしたい人は、ちょっと離れた場所に移動したり、カフェに行ったり、空いている会議室で会話をするようになりました。
オープンプランのオフィスにすれば、従業員がお互いに助け合うようになるのではないか。こんな利点も当初は期待されてしました。これは確かに、助けを求めている従業員にとってはすばらしい利点なのですが、自分の仕事を抱えているのに助けを与える側になることの多い従業員にとっては、ありがたい環境とは言えません。
昨年、ドイツとスイスの研究チームが行ったある研究では、ある課題に関して、協力を依頼する側の者はより良い結果を残し、協力をする側の結果は悪かったという結果が示されました。周囲に力を貸すことと、自分の仕事をこなすこと。この両者を交互にこなすことは大きな認知的負荷がかかる、というのがこの研究の至った結論です。
力を貸す側の人は、自分の担当する課題に取り組むために、何度も1から集中することが必要になるからです。1日のある一定の時間は集中できる環境をつくることを、研究者は推奨しています。認知的負荷を最小限にするためにも、課題に集中するには、数時間ほど連続した時間を確保すべきであると言います。
■オープンプランオフィスで快適に仕事をするのにBGMは効果があるか?
今日のオープンプランオフィスで見られる光景とは? 音という問題を解決するために、耳栓やヘッドフォンをつけている従業員を多く目にすることでしょう。この解決法がどこまで効果的であるか疑問ですが、専門家はこの方法はある1つの側面においては効果的であると言います。
オフィスの音がやる気をそぐ理由の1つとして、その音を自分でコントロールすることが不可能であるという点が挙げられます。ですので、自分でコントロールして対処することで、やる気が高まるという効果も考えられます。
BGMを流すことは仕事の邪魔になるのでしょうか? それは、仕事の内容によります。研究によると、ある条件下においては、音楽を聴きながら仕事をすることは、生産性を高めることが示されています。一方で、音楽を聴くと、生産性が落ちる状況もあります。 新しい情報を吸収したり、覚えたりする際には、音楽の無い環境の方が良いということが、2010年に学術誌上で発表された研究で明らかになっています。その研究では、18歳から30歳の被験者がいくつかの種類の音を聴いて、その順番を覚えるように指示されました。その結果、被験者は静かな環境でその課題に取り組んだときよりも、音楽を聴きながら取り組んだときの方が、正しく覚えられないという結果になりました。この研究を実施した研究者は、音楽を聴くことは、仕事を始める前に気分を高める効果がある一方で、認知的負荷の高い課題をこなすときには、音楽は邪魔になるということを指摘しています。
この研究では、音楽が生産性を上げる効果を発揮する状況についても明らかになりました。ある技能に熟達した専門家が、これまで何度も行ってきた課題を行うとき、リラックスかつ集中している状態をつくるために音楽が効果的なのです。
これまでの複数の研究によって、手術室でオペをする外科医は、音楽を聴きながらオペをするとパフォーマンスが良くなることが示されています。以前、アメリカ医学協会の学術誌に掲載された論文でも、好きな音楽を聴きながら手術室での課題を実施した外科医ほど、より高い精度で課題を実行できたという結果が報告されています(結果の精度については、好きではない音楽を聴いたときが2番目、全く音楽を聴かないときがもっとも下がるという結果に)。
お気に入りの音楽を聴きながら仕事をしていた外科医は、神経システムの活動の測定結果によって、リラックスした状態にあることが判明しました。一方で、外科医は手術室の他のメンバーにも、音楽を流すことについて意見を仰いでみた方が良いでしょう。ある調査では、麻酔科医の約4分の1は、音楽を流すと注意力が下がり、他のスタッフとのコミュニケーションの邪魔にになるとコメントしています。また、半数は、麻酔の問題に対応しているときに、音楽が邪魔になると回答しています(そんな状況下では、患者もたまったものではありませんね)。
■音楽のジャンルも重要な要素
研究では、歌を唄うことも注意力が低下する要因になることが分かっています。2012年に学術誌に掲載された研究では、車の中で音楽に合わせて歌を唄っていたドライバーは、危険な状況に対する反応が鈍かったという結果が示されています。
交通事故における「人的要因」を調査するために、あるカナダ人研究者は、被験者に2つの曲の歌詞を覚えるように指示しました。実験用の車で、その歌を唄いながら運転した被験者は、精神的負荷が上がり、視界全体に対する注意力が下がり、目の前の道路にのみ集中するようになるという傾向が見られました。
音楽の種類も重要です。クラシック音楽やインストゥルメンタル音楽は、歌詞付きの音楽よりも知的活動を促進します。音楽を聴くと、機械的な単純作業をより楽しめるようになります。ランナーも、音楽を聴きながら走ると、より速く走れます。しかし、学習や暗記をするときには、静寂が一番です。みなさんは、オープンプランのオフィスでも生産性を保てていますか?
Working well, out in the open | The Brilliant Report
Annie Murphy Paul(原文/訳:佐藤ゆき)