2010年9月24日
なつかしさは、何によって引き起こされるのか、年齢によってどのように変化するのか、なつかしさを引き起こすノスタルジア広告(レトロ・マーケティング)の効果はどのようにして起こるのかについて、楠見孝 教育学研究科教授らがまとめた調査結果が、日本心理学会の英文学術誌Japanese Psychological Research(Wiley-Blackwell社発行)に掲載されました。
この論文では、(1)なつかしさを引き起こすことがらは、過去の繰り返しの経験(反復接触)と長い空白時間(例: 昔のヒット曲、学校の場面)が重要であること、(2)なつかしさが引き起こされたり、昔をなつかしむ傾向は、男女とも加齢による上昇が見られ、男性の方がやや高いと分析しています。
- 論文名
Kusumi, T., Matsuda, K., & Sugimori, E. (2010). The effects of aging on nostalgia in consumers’advertisement processing. Japanese Psychological Research, 52(3), 150-162.
研究成果の概要
調査1では、大学生451人を対象にアンケートを行い、なつかしさを感じる光景、歌、出来事、CMについて思い出すことを自由に書いてもらいました。その文章をテキストマイニングという方法でキイワードが同時の現れる頻度を分析した結果、なつかしさは、過去に頻繁に経験したこと(小中学校の通学路・行事・友だち、アニメなど)とその経験からの長い空白期間(母校訪問、旧友との再会など)によって引き起こされることを明らかにしました(図1)。
- 図1 なつかしさを感じる出来事の自由記述におけるキイワードのクラスター分析の結果
同時に出現したキイワードが同じ枝、近い枝にまとまるように樹形図で示す
調査2では、737人の15才から65才の市民を対象に、なつかしさを引き起こすCMについてアンケートを行いました。その結果、(a)年を取るにしたがって、昔をなつかしむ傾向が強まり、その傾向は男性が女性よりもやや強いこと(図2)、(b)昔何度も聴いた曲を使ったCMや長い間聴いていなかった曲を使ったCMは、なつかしさを8-9割の人に引き起こし、その傾向は、30-50代にかけて上昇すること(図3)が明らかになりました。
- 図2 昔をなつかしむ(ノスタルジア)傾向の年令差、男女差
5段階で「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した人の比率を示す
- 図3 CMによるなつかしさの年令差と男女差
5段階で「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した人の比率を示す
さらに、構造方程式モデリングという方法で分析した結果、(1)年齢は昔をなつかしむ(ノスタルジア)傾向に影響を及ぼすこと(とくに男性)、そして、(2)昔をなつかしむ傾向が強い人ほど、テレビCMの音楽や場面(ノスタルジア広告要素)をなつかしいと感じること、(3)それが自分の過去の経験を思い出したり、CMや商品が記憶に残ることを促進し、(4)CMや商品への良いイメージを高めて、(5)その商品を買いたいという気持ち(購買意図)に結びつくことが明らかになりました(図4)。
以上の結果から、図5のようなノスタルジア広告の効果モデルを提案しています。このモデルは過去の頻繁な接触と空白期間があったものがCMで使われると、なつかしさを引き起こし、そのCMの商品は、記憶に残りやすいことを示しています。
- 図4 ノスタルジア広告が購買意図に影響を及ぼすプロセス(構造方程式モデリング)
上段の数字は男性群、下段の数字は女性群における影響の強さを示す
- 図5 ノスタルジア広告の効果のモデル
過去の頻繁な接触と空白期間があった流行歌などがCMで使われるとなつかしさを引き起こすこと、それが記憶に残り、店頭での商品購買に影響を及ぼすことを示す
本研究への支援
本研究は、下記機関より研究助成を受け実施しました。
・吉田秀雄記念事業財団
関連リンク
- 論文は、以下に掲載されております。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1468-5884.2010.00431.x/abstract
http://hdl.handle.net/2433/126830(京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))
- 読売新聞(10月7日 37面)に掲載されました。