1900年代初期にドイツ系米国人の貿易商ジェイコブ・グッゲンハイム氏(1874~1940年)が住んだとされてきた神戸市垂水区塩屋町3の洋館「旧グッゲンハイム邸」が、同氏の自宅ではなかったことが、日本建築学会近畿支部の調べで分かった。土地台帳や米国に住む孫が所有する写真から、実際の邸宅は近所にある別の洋館と特定。外国人の別荘地として歴史がある塩屋地域の象徴的存在だが、長年誤った情報が語り継がれてきたとみられる。(初鹿野俊)
同支部によると、ドイツ生まれのグ氏は兄弟3人で貿易会社を経営。1895年、三宮に支店を設立し神戸に住んだ。ニューヨークのグッゲンハイム美術館を運営する財団の設立者は遠戚に当たる。
同支部は6月、旧グ邸の北約20メートルにある洋館「旧竹内邸」が解体される可能性があると知り、調査を開始。歴史をたどる中で、1906年にグ氏が土地を取得していたことが分かった。米国にいるグ氏の孫が保管する写真にも旧竹内邸の建物が写っていた。
一方、「旧グッゲンハイム邸」については、グ氏が土地を所有した記録はなく、イスタンブール出身のユダヤ人、ジェイコブ・ライオンス氏(1865~1916年)が施主として08年ごろに建設したと推測した。
だが、69年発行の建築雑誌にはすでに誤った情報が掲載されており、同支部は少なくとも半世紀近く誤った認識が共有されてきたとみている。
「旧グ邸」はコンサートや結婚式、文化教室が開かれるなど地域に親しまれている。13年前に取得し、管理運営する森本アリさん(46)は5年前にグ氏の孫から写真を見せられたといい「初めはびっくりしたが、面白い。確証が得られたので、ネタにしてシンポジウムを開きたい」と話した。名称は変えないという。
同支部は6日、旧竹内邸を現在所有する企業に、歴史的価値を踏まえて保存活用するよう求める要望書を提出。同社は取材に「対応は決まっておらず、コメントできない」とした。