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嗜好品

 私はサドベリ・スクールやイエナプランはいいなと思いますが、同時に、意識高い系の子どもと保護者しか成り立たないと思っています。簡単に言えば、あなたの担任しているクラスの最後の一人もそのような教育が成り立つと思いますか?無理ですよね。

 私は内申書がオール1の子ども達を教えました。オール1の理由は様々です。家庭的な問題を抱えている子、学習障害の子、知的障害の子等々。おそらく100人に一人、いや、1000人に一人の子ども達です。その子ども達も必死に生きている。そして、学校から見捨てられるとどうなるかを見続けなければなりませんでした。小心者の私は、それを見続けることが絶えられず、教師をドロップアウトしたのです。

 世にある、理想的な教育の言説に触れるたびに、「そりゃ、あなたが接している子どもと保護者だから出来るでしょ」と思ってしまう。つまり、金持ちの嗜好品のように感じてしまいます。

 だから、私は最後の一人まで見捨てられない教育を目指しています。最後の一人がどうなるかを知っているからです。

 お叱りを覚悟で申します。

 義務教育の先生方は甘い。何故なら、退学のない義務教育の場合、最終的に卒業式で胸を張って行進する子どもを観れば一段落です。しかし底辺校の高校の場合、社会からドロップアウトする子どもを見続けなければなりません。いや、自らが突き落とす立場になります。だから、義務教育の先生方が、脳天気に理想論をはいていると、心の底から怒りがわきます。「お前らが見捨てている子どもがどうなるか知っているのか!」と。

 すみません。

 昨夜、久しぶりに高校教師時代の子どもの夢を見ました。みんな私に懐いているのです。私は泣きながら「ごめんなさい」を連呼しているのです。もうそろそろ、この呪縛から逃れたい。

追伸

 ある中学校教師から、「高校の先生は本当の最底辺を知らない」と言われました。その通りです。私が教えたオール1の子、暴走族の子は、高校を卒業した方がいいと考えられる子です。それより厳しい子どもはいます。しかし、その人が分からないのは、高校には退学があります。数ヶ月前に退学の手続きをした子どもに町でばったり会ったときの話です。在学中と同じに、私に抱きついてニコニコと話しかけるのです。自慢げにヤクザのパシリになったことを話します。私は何も言えません。数ヶ月前に、円満に退学するようなことをしたのですから。もし、高校に退学がなければ、私は今でも高校教師だったかもしれません。

 大学に異動して数年の時です。飲み屋で現職院生さんと呑んだとき、隣の席の現職院生(おそらく中学校籍)の人たちが「高校はいいよな~。退学があるから」という話を聞いたとき、生涯で初めて怒りで頭が真っ白になりました。幸い、同席した現職院生さんが異変に気づき、私を押しとどめたので事なきを得ました。

 高校教師希望のゼミ生には義務教育を勧めます。理由は義務教育には退学がないからです。私と同じ呪縛を持ってほしくない。