画面レスなコンピューティングを実現するHumane Ai pinとは?

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  • author Lucas Ropek - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
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画面レスなコンピューティングを実現するHumane Ai pinとは?
Image: YouTube/TED

手が画面になる。

ここ10年くらい、テック企業たちはずっと、スマホと一緒に使えるだけじゃなく、何ならスマホにとって代われるようなウェアラブルデバイスの開発を目指してきました。

その過程では、スクリーンを文字通り目の前に常時くくり付けるGoogle Glassみたいなデバイスが生まれたり、もっとディストピアなとこでは、チップを脳に埋め込むというアイデアが前進したりもしています。

でも未来のテクノロジーは、そんな風に常に人間の目の前(または脳の中)で全画面表示みたいなものではなく、むしろその真逆なのかもしれません。

つまりスクリーンそのものをなくし、必要なときだけ逃さずにやりとりして、そうじゃないときはデバイスの外の世界に集中させてくれる何かです。

そんな都合のよいデバイスとしてもうすぐ発表されるのが、Humaneが開発するAi pinです。Humaneは元Apple(アップル)社員が始めたスタートアップで、OpenAIのサム・アルトマンCEOやMicrosoft(マイクロソフト)といったテック界の錚々たるビッグネームから資金提供を受け、この数カ月にわたりAi pinをチラ見せしてきました。

人間とコンピューティングの関わりを変革する」と謳うAi pinは11月9日に正式発表予定ですが、それはどんなものなのか、わかってる範囲でまとめていきます。

Ai pinって何?

Ai pinとは短く言うと、服にクリップで止められる小さなレーザープロジェクターです。そのピンはスマホやコンピューターに接続しなくても、単体で電話の受発信ができ、ネットに接続し、いろんな質問に答えてくれる、バーチャルアシスタント兼コミュニケーションデバイスです。

スクリーンはなく、代わりに手のひらにレーザーを投射することで情報を表示します。ちょっと盛り気味に言えば、スタートレックのホロエミッターみたいなものです。

Ai pinにはQualcommのSnapdragonのチップ搭載で、OpenAIのGPT-4から派生した独自の大規模言語モデルを動かしています。マイクにカメラ、さまざまなセンサーも内蔵して各種データを収集、ユーザーの日々の生活の中での問いかけに答えていきます。

細かいスペックはわかっていませんが、今年10月にはCoperniというブランドのショーに登場し、そのデザインは遠目ぎみに披露されています。スマートウォッチより一回り大きい程度の四角形で、ジャケットのえりやパンツの腰の部分にちょこんと付けられるようです。

元Appleのデザイナーとディレクターで開発

Ai pinを作り出したのはHumaneの共同創業者、Imran Chaundhri氏とBethany Bongiorno氏です。

彼らは元Apple社員であり、夫婦でもあります。Chaundri氏はAppleでデザイナーを務め、製品の主要な機能(たとえばiPhoneの「スワイプしてアンロック」のジェスチャー)を作ってきました。

Bongiorno氏はソフトウェア・エンジニアリングのディレクターとしてマネジメント業務にあたり、製品を世に出す役割を果たしてきました。

彼らは2017年にAppleを退社し、翌年にHumaneを設立、それ以降Ai pinの開発に尽力してきました。

Chaundri氏は今年5月のTED Talkで、Ai pinの魅力をこう語っています。

Ai pinは、人間と同じようなやり方で、世界と対話します。人と同じものを聞き、同じものを見るのです。それでいて、プライバシーファーストで安全で、生活の背景に完全に溶け込みます。私たちはその体験を「スクリーンレス」「シームレス」そして「センシング」と呼んでいます。それによってユーザーは、コンピューターへのアクセスを維持しながら、周りの環境を意識することもできるのです。

The Disappearing Computer: An Exclusive Preview of Humane’s Screenless Tech | Imran Chaudhri | TED

In this exclusive preview of groundbreaking, unreleased technology, former Apple...

https://www.youtube.com/watch?v=gMsQO5u7-NQ

スマホってすごく便利ですが、つい使いすぎて依存気味になってしまい、スクリーンタイムを自分で制限するための設定とかアプリがあるほどです。なのでHumaneの目標のひとつはまさに、ユーザーのスクリーンタイムを完全になくす、または劇的に減らすことです。

Ai pinでできることは、電話だけじゃないとされてます。Chaundri氏らいわく、質問に答えたり、食事やショッピング、旅行などへのパーソナライズしたお勧めをしたり、メールを読み上げたり、通知やアラートで全体的に情報を逃さないようにしてくれるそうです。

最終的には、HumaneにはAi pinをより大きなIoTデバイスやソフトウェアのエコシステムに統合し、デジタルとフィジカルの世界両方をつないでいく計画もあります。

それだけいろんなことができるためか、HumaneはAi pinをラグジュアリーデバイスとして位置づけていて、iPhoneばりの価格設定になるようです。The Informationによれば、お値段は1,000ドル(約15万円)前後を想定してるとのことで、その情報が正しければ文字通りフラッグシップのスマホ並みになります。

心配な点もいろいろ

Ai pinはスクリーンレスなスマホと考えれば魅力も大きいのですが、不安もあります。

まずデータ収集デバイスを常時体にくっつけて歩き回ることが心配ですが、Humaneはいろんなプライバシー保護機能を内蔵させたと言っています。そのひとつが「トラスト・ライト」で、マイクやカメラ、センサーが動作しているときはライトがオンになって知らせるとのこと。

くわえて、Ai pinはバックグラウンドで(AmazonのAlexaみたいに)ひっそり動作していることはなく、ユーザーが物理的に立ち上げない限りオンにならないそうです。

ただ、Ai pinは新しいタイプのデバイスであり、Humaneも新しい会社なので、もっといろんな情報を公開していかないとユーザーとしては安心しにくい面があります。

今のところ、収集したデータがどう処理され、どこに保存されるかとか、データがどこかに売り飛ばされないのかとか、この手の事に関してユーザーが気になるであろうことについての説明はほぼありません。

また、IoT統合や大規模なデータ収集といった計画が言っている通りなら、それはサイバー犯罪の温床にもなりかねず、サービスとしてのセキュリティ対策がどうなってるかも気がかりです。

もうひとつ指摘されてるのは、Humaneにはかなりの競合がいて、彼らの出資者もそのひとつになりうることです。Humaneと似たような主旨の製品が、他にも生まれつつあるんです。

たとえばMacとiPhoneでの利用を自動記録してAIで処理するツール・Rewindからは、ツールとペアリングして使うペンダントが出ています。Rewind Pendantは、機能的には音声記録だけでAi pinよりだいぶ少ないものの、価格は59ドル(約8,800円)とはるかに安価です。

またHumaneのメイン出資者のひとりであるOpenAIのサム・アルトマンCEOは、iPhoneのデザイナーだったジョニー・アイブ氏とともに「AI界のiPhone」を開発中だと言われます。つまりHumaneの支援者が、じつは最大の競争相手かもしれないのです。

まだわからないことだらけ

Ai pinとその仕組みに関しては、まだわからないことがたくさんあります。何らかのホワイトペーパーなり、スペックなどが書かれた技術資料があればありがたいですし、全部オープンソースになればさらによいことだと思われます。

Ai pinが本当にHumaneが言ってるような革新的ツールかどうかはまだわかりません。11月9日の発表時には、もっと具体的に見えてくることを期待しましょう…!

「AI界のiPhone」を作りたいOpenAI

ぼんやりもっと自然にAIとやりとりできるようなデバイスを。AIチャットボットのChatGPTを開発したOpenAIが、Appleの伝説的デザイナーのジョナサン...

https://www.gizmodo.jp/2023/10/277056.html