壁に耳あり、車内に目あり。
Tesla(テスラ)の車載カメラが捉えた非公開映像がTesla社員の間で盛んにシェアされて、笑いのネタになっていたことがReutersの調べで明らかになりました。
元社員20人余りの証言によれば、ドライバーの非公開映像の閲覧がTeslaの社内では格好の暇つぶしになっていたのだといいます。
「反響がありそうなお宝を見つけたら(社内のメッセージシステムに)投稿するんですね。すると休み時間になると、みんな寄ってきて "見たよ。おもしろいね" って口々に言うってな具合でした」
「管理職に昇進した人たちは面白映像をいっぱいシェアして面白いヤツとして社内で一躍有名になった人たちでした」(元Tesla社員)
どのカメラ?
Tesla車には内外に多数カメラが標準装備されています。なかには”オートパイロット”機能(半自動運転モード)使用中も居眠りしないように運転席を見張るカメラもあって、その映像は、Teslaのプライバシーポリシーに同意した段階でTesla社と共有されることになります。
いちおう「徹頭徹尾みなさまのプライバシーをお守りする仕様になっております」とTeslaのWebサイトには明記されているのですが、社内の「データ・ラベラー」だけは別格で閲覧権限があります。映像内の物体をAIが特定できるよう、学習用のラベルを付与する担当なので、車載カメラの映像も見放題。その立場を利用して「単調な仕事の息抜き」(元社員)にベストな面白映像を社員用のメッセージシステムでシェアするのが日課になっていたもようです。
どんな映像が見られているの?
投稿される映像の中身は「犬、面白い車、よろけて転ぶ人」などで、どれも社内では大ウケでした。「素っ裸でTesla車に乗る男」も大変な反響だったし、一度は「車に衝突して自転車ごと吹っ飛ぶ子どもの映像」が社員によって回覧されたこともあります。ドライバー同士のけんかも反響の多いカテゴリですし、車庫の映像もよくシェアされていました。
「他人様のガレージの中も丸見えなら、そこに隠し持ってる私物も見ることができました」
「Teslaカスタマーのガレージに普通と違うものがあれば、そういう類いのものを投稿するわけですよ」(元社員)
特にひどかったのが、豪邸ひしめくサンフランシスコ国際空港周辺サンマテオ郡に所在するオフィスです。ここはほぼ「やり放題」。ご丁寧に動画や写真にフォトショで文字や線の「マークアップ」を入れてミーム画に加工して、オフィス中で回覧しまくっていました。
「車を買った人たちは、まさか自分たちのプライバシーがそんな風に扱われているなんて知らないと思います。」
「洗濯するところも見れたし、本当に人に見られたくないことしてるとこも見れました。子どもも。」
「紛れもないプライバシーの侵害。あんな扱い受けてるの見た後ではTesla車なんて絶対買わないっていつも冗談で言ってました」(元社員)
Tesla車がプライバシー的に問題があるという話はけっこう前からあって、「国家安全保障上の脅威」だとして2021年にいち早く軍用施設内での使用を禁じたのは中国政府。車載のセンサやカメラから国外に機密が漏れて米国の手に落ちることを恐れたんですね。まさか社員にネタにされることまでは想定していなかったと思いますが、こうしてReutersの報道を読むと、恐れたとおりのことは十分起こり得るし、北京の勘は正しかったことになります。
それじゃなくてもTesla車はカメラのON/OFFがわからない薄気味悪さがあるのに…。何年か前にマサチューセッツ州で起こったヘイトクライムの容疑者摘発にTeslaが捜査協力した際、逮捕の決め手になったのは、駐車場でタイヤにナイフを突き刺す男が映った車載防犯カメラ映像でした。まあ、これはテスラに映像が共有される仕様が功を奏した事例ですけどね。
Reutersの調査は元社員が対象ですので、今も同じようなことが社内で行なわれているかまではわからないし、どれぐらい広く蔓延しているかも不明です。しかし元社員の証言が正しければ、少なくとも社内の一部で昨年になるまで行なわれていたことになります。
いずれにしても「Teslaは見ている」と思って常時気を引き締めてまいりましょう。