今月、有名映画監督たちがマーベル映画を相次いで批判して大きな最近話題となり、おそらくTwitterなどでもそういった議論を見たという人も少なくないはず。
そもそもの事の発端は『タクシー・ドライバー』や『グッドフェローズ』などで知られるマーティン・スコセッシ監督がマーベル映画を指して「あれはシネマじゃなく別のものだ」とした発言。そしてその発言に乗っかる形で、有名映画監督たちがマーベル映画を批判しました。
そしてこれ、個人的にはかなり同意しかねるお話。というわけで、まずは各監督の発言を見ていきましょう。
スコセッシ監督は大好きだけど...なみんなの反応
Screen Rantなどのメディアによると、まずスコセッシ監督がEmpire Magazineでのインタビューの中で、マーベル映画に関して質問に対してこう答えたのだとか。
マーティン・スコセッシ:見ていません。挑戦はしたのだけれど、あれはシネマじゃない。正直に言って、あれがどんなによく出来ていて、役者がベストを尽くしていても、テーマパークだとしか思えない。人間が感情的、心理的な体験を別の人間に伝えようをするシネマではありません。
個人的にはスコセッシは丁寧な映画を作る人という印象なので、ろくに見てない上で感情を描けてない的なことを言っちゃう適当発言にはショックを受けますね。ともかくこれが発端で、いろんな論争が巻き起こり、マーベル映画ファンからは過激な発言も出てくるように。
この状況にマーベル映画関係者も反応。『アベンジャーズ』のジョス・ウェドン監督や、アイアンマン役でおなじみのロバート・ダウニーJr.などが相次いで発言しましたが、中でも面白かったのがニック・フューリーを演じるサミュエル・L・ジャクソンのVarietyでのインタビュー。
サミュエル・L・ジャクソン:あれはバックス・バニーは笑えねぇと言ってるのと同じ。映画は映画。私はたまたま好きだけれど、みんながみんな彼(スコセッシ)の映画が好きってわけでもない。多くのイタリア系アメリカ人が映画で自分たちをあんなふうに描かないで欲しいと思っているしね。みんな自分の意見があるんだよ。それでいいんだ。
また、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのジェームズ・ガン監督はTwitter上でこのように反応していました。
Martin Scorsese is one of my 5 favorite living filmmakers. I was outraged when people picketed The Last Temptation of Christ without having seen the film. I’m saddened that he’s now judging my films in the same way. https://t.co/hzHp8x4Aj8
— James Gunn (@JamesGunn) October 4, 2019
That said, I will always love Scorsese, be grateful for his contribution to cinema, and can’t wait to see The Irishman.
— James Gunn (@JamesGunn) October 4, 2019
ジェームズ・ガン:マーティン・スコセッシは自分の大好きな存命の映画製作者の中で五本の指に入る人物。『最後の誘惑』が見てもいない人たちから批判を受けた時、私は激怒しました。そして今、そんな彼が私の映画を同じように批判していることを悲しんでいます。
と言った上で、ずっとこれからもスコセッシのことは大好きだし、彼の映画業界への貢献に感謝しています。『アイリッシュマン』を観るのが待ちきれません。
やっぱりどんな感想を持っても構わないけど、ろくに見てない上での雑語りを公の場でするのはあんまり良くないことですよね。
スコセッシ監督もマーベル映画の技術は使っている
しかし、スコセッシは再び自身の最新作『アイリッシュマン』の記者会見の中で、マーベル映画へを批判を繰り返しただけでなく、映画館も批判。映画館はマーベルのようなブロックバスター映画で劇場を埋めるのではなく、『アイリッシュマン』のような作品も上映すべきだと語りました。
ちなみに『アイリッシュマン』は、(スーパーヒーローっぽい名前ですが)おなじみのギャング映画。第二次世界大戦から90年代までを生きた暗殺者の人生を76歳のロバート・デ・ニーロが演じ、CGを使って映像的に若返らせるために、多額の製作資金が必要となり、資金集めが難航し最終的にはNetflixが配給することに。
CGでの若返りといえばマーベル映画が近年の作品で多用している手法だったりするのが、かなり皮肉なところ。しかも、『アイリッシュマン』のCGを手掛けたのはディズニーの傘下でもちろんマーベル作品にも関わっているILM(インダストリアルライト&マジック)。
ちなみにその製作費は1億5900万ドルとも言われており、最新のマーベル映画である『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の製作費が1億6000万ドルなのことも考えると、ハチャメチャな予算なので資金集めが難航したのも頷けますね。
そこから考えると、やっぱりスコセッシがマーベル映画を批判したのは、そもそも自分の作りたい映画が上手いこと資金を集められず、劇場にもかからない可能性があった(今作はNetflixがアカデミー賞を取るために劇場での上映も決まっています)という背景があるんじゃないかと勘ぐってしまいますね。
同年代はスコセッシ監督を支持
そして映画監督の『麦の穂をゆらす風』のケン・ローチや『ナイロビの蜂』のフェルナンド・メイレレスからスコセッシの発言を肯定する意見も飛び出し、さらに議論は加熱していく形に。中でも『地獄の黙示録』、『ゴッドファーザー』などで知られるフランシス・フォード・コッポラ監督は、Yahooに掲載されたAFPの取材の中でかなりキツめな批判をしていました。
フランシス・フォード・コッポラ:マーティン・スコセッシがマーベル映画(ピクチャー)を映画(シネマ)じゃないといいましたが、彼は正しいです。なぜなら私たちは映画から啓発や知識、閃きといった何かを得られる、学べることを期待しています。
同じ映画を何度も見ても、何が得られるのか私にはわかりません。
マーティンはあれを映画じゃないと言ったのはまだ優しいと思います。彼はあれを指して卑劣なものだとは言わなかった。私はあれは卑劣だと断言しますね。
個人的に、映画に「学びがある」とか「閃きを得る」とかそういうものは求めていないので、正直、映画というものの捕らえ方がまったく違うんだなという印象。『地獄の黙示録』は何度も見てるけどそれは楽しい/面白いからという理由であって、「何かを得よう」なんて大それたことは考えたことがありませんでしたね。結果として何かを得たということはありますが。
なによりコッポラが同年代(スコセッシは79歳、コッポラは80歳)のマフィア映画仲間のスコセッシを擁護したいという気持ちは十分にわかるものの、「卑劣」という表現は批判を浴びました。
特に、槍玉に挙げられているマーベルの親会社であるディズニーのボブ・アイガー社長は、Wall Street Journalのライブカンファレンスでの中で、映画監督たちの発言に対してこのようにコメントしています。
ボブ・アイガー:私は「卑劣」という言葉は映画にではなく大量殺人犯なんかに使うものだと思っています。だから困惑しています。もちろん映画に文句をつけるのも彼らの権利です。
ただ、彼らの映画に関わる人たちと同じように頑張っている(マーベルの)映画に関わる人たち全員に対してとても失礼な発言だと思います。『ブラックパンサー』のライアン・クーグラー監督の仕事は、マーティン・スコセッシ監督やフランシス・フォード・コッポラ監督が自分たちの作品でやってきたことに比べて劣っているとでも言いたいのでしょうか。
そしてジェームズ・ガン監督も反応し、Instragram上でこのような投稿をしていました。
ジェームズ・ガン:私たちの祖父の世代の多くは、ギャング映画はみんなどれも同じだと考えていたし、「卑劣」だと呼んでいました。曽祖父の世代の中にも西部劇に対して似たような考えを持っていて、ジョン・フォードとサム・ペキンパーとセルジオ・レオーネの映画は完全に同じだと信じていました。そしてスター・ウォーズを熱く語っていた私に大叔父が言った「2001年(宇宙の旅)って呼ばれてた時にみたが、ありゃつまんなかったぞ!」という言葉を思い出します。
スーパーヒーロー映画は現代のギャング/西部劇/宇宙冒険ものなのです。スーパーヒーロー映画にも酷いものもあれば、美しいものもあります。西部劇やギャング映画と同じく(というか映画は皆)、その真価をあらゆる人が理解できるというわけではありません。たとえ天才であっても。でも、それでいいんです。
もう正直言って、この発言が答えな気がします。やはりスーパーヒーロー映画は大きなジャンルであり、多分これからも続いていくけど、今の段階でみんながその良さがわかるってわけじゃないんでしょう。あれだけ人の感情を揺さぶった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を作った人がそれでいいって言ってるんだったら、個人的にはそれでいいと思います。
結局「シネマ」ってなんなのよ?
こうした発言を受けてかスコセッシは先日ETでのインタビューで、先の発言に対してこのような説明をしました。
マーティン・スコセッシ:(マーベル映画は)新たなアートの形であって、劇場で普段かかっているような映画とは違うというだけなんです。そして私が危惧しているのは、そんな新しいアートの形であるテーマパーク型映画にスクリーンが奪われてしまうことです。映画(シネマ)は今変化していて、様々な上映場所や製作方法があり、非常に楽しめるものとなっています。だから遊園地のようなイベントに行きたければ行けばいいし、楽しめるでしょう。ただ、グレタ・ガーウィグやポール・トーマス・アンダーソン、ノア・バームバックといった人たち(の作品)を劇場から追い出さないで欲しいのです。
結局マーベル映画はシネマなのかどうなのかはよくわかりませんし(そもそもシネマとは?)、同意はしないけど、言いたいことはわかる。ただ、ぶっちゃけそれってマーベル映画のせいじゃなくって、映画館の運営方針はもちろん配給会社/スタジオが流行り物に金を集中させるというやり方に突っ込むべきことなのではという気がしてなりません。
スコセッシのような大ベテランがそれをわかっていないわけもないと思うので、だからこそ、「新参者をちょっと揉んでやるか」みたいな圧も感じてしまうところ。とりあえず言えることは、こんな騒ぎになっちゃったけど、まずはスーパーヒーロー映画を見てみてもらいたいと言ったところでしょうか。素人じゃないんだから、スコセッシ級の人が観てない映画を雑に語って欲しくない。
そんなマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』はNetflixで、2019年11月27日公開予定。これがまた悔しいくらいに超面白そうなんですよ…ぶっちゃけ早く観たい!
Source:Twitter、Instagram、YouTube1・2、Netflix、Wall Street Journal、Yahoo、Screen Rant、ET