宇宙に核兵器撃ったらどうなるかな?ってやってみたら…。
現在「宇宙開発が進んでる国」といったとき、イギリスはあまりイメージに浮かびません。でも彼らは、軌道に人工衛星をのせた3つめの国だったんです。でもその数ヵ月後、その衛星はアメリカの核実験が原因で壊れてしまったんです。
その衛星はアリエル1号、アメリカとイギリスが共同開発したものです。コアのシステムはイギリス側が設計・製造し、軌道へ打ち上げたのはNASAのソー・デルタロケットでした。
イギリス側がアリエル1号のアイデアをNASAに持ちかけたのは、NASAが他国の研究装置の打ち上げに協力すると提案したからでした。元々アメリカ・イギリスの関係が近いこともあって、詳細の詰めもすんなり迅速に行われ、翌年までにはイギリスの研究者らが必要な機器の開発承認を得て、アメリカ側のエンジニアもその装置を収める衛星の製造に着手しました。そして1962年4月26日、史上初の2国協力によるプロジェクトが無事軌道へと打ち上げられ、イギリスはその最初の衛星の運用を開始しました。
NASAによれば、アリエル1号に乗せられた機器は「電離層と、その太陽との関係についての最新の知識に貢献」するためのものでした。もっといえば、地球の大気圏の一部であり、太陽からの放射線で荷電した粒子でできている電離層の仕組みの解明が求められていました。
ミッション遂行のため、アリエル1号にはいろいろな機器が搭載されていました。収集したデータを保存するためのテープレコーダー、太陽の放射線を計測する装置、電離層内の粒子が宇宙、特に太陽からの外的刺激に対しどう反応・変化するかを計測する機器あれこれ、などです。
でも1962年7月9日、アリエル1号が軌道に乗って電離層のデータを地球に返し始めたほんの数週間後、事態は急変します。アリエル1号の放射線レベルセンサーがものすごく高い値を示していたのです。当初イギリス側の研究者らは、機器の誤作動や故障によるものだろうと考えていました。
が、実はアリエル1号が地球の周りを回っていたとき、米軍が「フィッシュボール作戦」の一環として1.4メガトン級の核兵器「スターフィッシュ・プライム」を高層大気で爆発させることを決定していたんです。その爆発があったのはアリエル1号から見て地球の反対側でしたが、地球周辺全体の放射線量が大幅に増加しました。その結果アリエル1号のシステムの一部が壊れ、特にソーラーパネルが損傷を受けたことで、最終的には衛星全体が機能停止してしまいました。さらにアリエル1号だけでなく、低軌上道にいた他の衛星の3分の1も作動停止してしまいました。このとき破壊された衛星の中に、大西洋を横断して信号を送る初の商用通信放送衛星、テルスター衛星もあったことがよく知られています。
実はテルスター衛星は爆発当時はまだ軌道上に乗っておらず、軌道に入ったのは爆発の翌日でした。でも爆発で作り出された放射線は消えるのに何年もかかり、それはテルスター衛星の設計者の想定していない事態でした。爆発によってまず指令システムのいくつかのトランジスタが故障し、その後数ヵ月で全体が動かなくなってしまいました。
こんな大迷惑なスターフィッシュ・プライムはどういう目的で計画されたんでしょうか? この件に関する極秘資料や記録を詳しく調査した歴史学者のJames Fleming氏によると、米軍は核爆発が地球の周りに元からある放射線帯に影響を与えうるかどうかを実験したかったんだそうです。物理学者のジェームズ・ヴァン・アレン氏がそこに協力していました。彼は地球の周りの放射線帯である「ヴァン・アレン帯」について発表したまさにその日、核爆弾打ち上げに向けて軍への協力を開始したらしいです。フレミング氏はこのようにコメントしています。
誰かが何かを発見し、即座にそれをぶち壊そうと決断したのを見るのは、私にとってこれが初めてである。
もちろん、「科学のために」そう判断したんでしょうけどね…。ちなみにその後1963年、部分的核実験禁止条約で大気圏や宇宙空間での核実験が禁止されたので、今はもうこういう実験はされてないはず…です。
以下は、関連するオマケです。
- アメリカが軌道に核兵器を送ろうと計画していた頃、イギリスもロケットに手榴弾をたくさんくっつけて上空で次々発射・爆発させ、大気の密度とか温度を推定する実験をしていました。とりあえず破壊的な方向に行くのは、なんというか科学者の性分なんでしょうか。
- スターフィッシュ・プライムの爆発は当初は同じ年の6月20日に行われる予定でしたが、搭載したロケットが高度3万フィート(約9100m)ほどで故障してしまいました。そのため核弾頭の自己破壊機能が作動して爆発し、放射性物質が太平洋のジョンストン島とかサンド島、その周辺の海に降り注ぎました。
- イギリス初の宇宙飛行士ヘレン・シャーマン氏が宇宙に行ったのは、これよりずっと後の1991年でした。それまでに21ヵ国がイギリスの先を越して宇宙飛行士を輩出していて、その中にはアフガニスタン(アブドゥルアフド・ムハンマド氏)、モンゴル(ジェクテルデミット・グラグチャ氏)、ベトナム(ファム・トゥアン氏)など、先進国でない国もあります。
- スターフィッシュ・プライムの影響が及んだのは、低軌道だけではありませんでした。発生した電磁パルスは予想よりはるかに大きく、爆発した上空から900マイル(約1400km)ほど離れたハワイでも、街灯が数百台故障し、電話システムがダウンしました。
※この記事は、TodayIFoundOut.comの記事が許可によって米Gizmodoに転載されたものの翻訳です。
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Karl Smallwood - TodayIFoundOut.com - Gizmodo US[原文]
(miho)