「インディー・ジョーンズ」のようなアクション映画のエッセンスを詰め込んだ『アンチャーテッド』シリーズ。「プレイする映画」のコピーの通り、吹き替えにも洋画で活躍する声優陣を起用して、日本ローカライズが高い評価を得ています。
もはやシリーズのアイコンと言っても過言ではない「ヤベヤベヤベ!」の台詞は、原文では「Crapcrapcrap!」と言っています。普通にそのまま訳すと「クソクソクソ!」と単なる毒づきになるところを、「ヤバい」に置き換えることで、アクション映画のスリルがより伝わる表現になりました。ネイト役である東地宏樹氏の表現力も相まって、吹き替えならではの面白いところです。今回はローカライズの工夫が見える『アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝』のUボートのシーンを見てみましょう。
Dialogue:U-boat
Sully:I’ll be dammed. Must’ve come up the river during flood season and gotten stuck.
Nate:Let‘s check it out, huh?
Sully:Nah... Wait, wait, wait. Something about this feels kinda hinky.
Nate:Hinky? You act like you’ve never seen a German U-boat in the middle of the jungle before.
Sully:No, I’m being serious, Nate.
Nate:Tell you what... Why don’t you stay here, I’ll check it out myself.
I’ll call you if I run into any Nazis.
I’ll be dammed:驚き(ややネガティブ)、呆れの表現
Hinky:怪しい
Run into:遭遇する
日本語訳
サリー:なんてこったい...洪水の時期に河を上ってきて動けなくなったんだろうな
ネイト:確かめてみよう
サリー:いや...待て待て待て こいつはどうもキナ臭いぜ
ネイト:キナ臭い?まるでジャングルの真ん中でドイツのUボートを見たことないような言い草だな
サリー:いや、俺は本気だネイト
ネイト:ならこうしよう あんたはここにいればいい 俺が見てくる
ナチスに出くわしたら連絡するさ
日本語版
サリー:こりゃぶったまげた...っていうかどうやったらこんなところまで来る?洪水か?
ネイト:近寄ってみよう
サリー:いやあ...待て待て待て どうもうさんくさい感じがする
ネイト:うさんくさい?ジャングルの真ん中にドイツのUボートはつきものだろ?
サリー:いやあマジメにいってる
ネイト:オーケーここにいろ 俺が見てくるよ
バウムクーヘンおっこってたら知らせる、どう?
ここで独自の変化があったポイントは2つです。まずひとつは、ボートがある理由を推測するカット。Uボート発見という出来事に対して、「なぜここにあるのか」という疑問と驚きを維持した方が探索する意欲が増します。日本語吹き替えは「B級映画調」のオーバーリアクションなので、こういった細かいところで説明して納得するよりも、テンション高めで突入した方がらしいですよね。
もうひとつは最後のネイトの台詞で、「ナチス」の直接的な表現がある行を軽いジョークに変換。原文では言ってないけど「オーケー」としたり、コテコテほどではないものの「こってり」ぐらいの言い回しが癖になります。
Nate:It looks like Drake and our German pals were after the same treasure.
And I’ve got the map that’s gonna lead us right to it.
Sully:Nate, this better not be another wild-goose chase.
We’ve got to get something out of this trip or-
日本語版
ネイト:フランシス卿もドイツ人も同じお宝を追ってたようだ
その宝のありかを示した地図を見つけた
サリー:ネイト 今度も無駄足になっちゃわないだろうな?
今度こそお宝をゲットしなきゃ俺は...
Wild-goose chase:徒労に終わる、手に入らないものを追う
ここでは日英ほぼ同じ意味ですが、サリー役・千葉繁氏のキャラクターを生かした口調になっていますね。普通の訳では「この旅で何か手に入れないと…」となるところを「get」の語を使って「お宝ゲット」の意訳を当てているのが一攫千金を諦めない感じで面白いです。
Sully:So, we square?
Roman:For now. But just in case you need a reminder...
Sully:Hey, come on, leave him out of it.
Nate:Yeah, don’t you guys usually just cut off a finger or something?
Roman:That’s far too vulgar.
No, I think this will hurt him a bit more.
Square:買収する、精算する
日本語訳
サリー:これでチャラにならんか?
ローマン:今回はな。だが念のため「ケジメ」が必要だな…
サリー:おい待て、こいつを巻き込むな
ネイト:ああ あんたらも普段指とか切り落としたりしないだろ?
ローマン:それは下品が過ぎるというものだ
いや それなら奴も少しは身に染みるだろう
日本語版
サリー:これで満足だろ?
ローマン:そうだな だが私をなめるとどうなるか
サリー:おい、やめろ、ネイトは関係ない
ネイト:欲しいものはやった 弱いものいじめか? 上等だぜ
ローマン:それもそうだ だがけじめはつけてもらう
ローマンとのやりとりでは拉致拷問に関する発言があるため、会話の内容を大分ぼかしています。原語にある独特の血や暴力の匂いは、吹き替えの軽快なノリと相性が悪かったり、レーティングに配慮して薄める必要が出てきます。そういうところが単なる日本語訳ではない「日本語版」を制作するローカライズの仕事なのです。
ゲームのローカライズでも、映画の翻訳に於いても原文に忠実であるべきかは常に議論が尽きず、雰囲気作りや表現の可否、尺の制約などで改変が付きものです。最も印象に残った部分がその改変に当たることもあり、エンターテインメントとしてどちらが正解かは分かりません。違和感のないローカライズには必ずアレンジがあるので、その変更にどんな意図があるのか、想像しながら原文と見比べてみてください。
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