大人になると、ゲームをプレイする時間を確保するのが難しい。大作RPGなんてやってる暇がない……はずなのだが、Nintendo Switchの『オクトパストラベラー』は別だ。
もはや10時間以上遊んでしまっていて、仕事上マズい。
本作には明確に欠点があるのだが、それを遥かに上回るのぶっ壊れた面白さがあり、夢中で遊べてしまうのだ。
まだまだ先をプレイすれば感想が変わるかもしれないが、今回は気になっている皆さんに私の感じた面白さを言葉でお届けしたい。本作は異なる8人の主人公から1人を選んで、残りの主人公たちを仲間にしつつ、世界を旅してそれぞれの物語を進めるRPGとなっているのだが……まず主人公たちの個性が豊かな独自コマンドを与えられていて驚く。
例えば、私が選んだ踊り子の“プリムロゼ”なら、持ち前の魅力でほぼ全てのNPCを誘惑して連れ歩き、戦闘にかり出せる。
▲選ばなかった主人公も全員仲間にできるし、ストーリーも全部見られる。
商人なら金を払って町人の持ち物を買える(子供の宝物である“魚の骨”を交渉で買いたたく悪魔)し、騎士なら決闘を挑んで人をどかせる。個性的すぎて迷うが、ストーリーが魅力的なキャラを選ぶことをおすすめしたい。
なぜなら、主人公全てに異なる旅立ちの理由があり、それぞれ1時間程度のオープニング物語が用意されているからだ。どうせなら、見たい物語から始めた方が良い。
▲個人的には使いやすさならオリベルク、ちょっと大人の物語ならプリムロゼがおすすめ。
で、プレイしてみるとまずHD-2Dの映像表現に目を奪われる。
HD-2Dとは、「2Dグラフィックが主流のままRPGが進化したらどうなったか」を考えて作られた独自の映像表現。これが『ファイナルファンタジー6』をそのまま進化させたかのようなビジュアルで、ほんとなつかし素晴らしい。ゲーム中、すでに100枚以上スクリーンショットを撮ってしまったほど良い。
ドット絵のキャラクターは現代風エフェクトで美しく飾られ、背景はミニチュア風3Dでドット絵に違和感なく溶け込んでいる。
驚いたことに、隠された宝箱や通路を探す昔ながらのドット絵RPGの遊びも、被写界深度(遠くや近くがぼける)効果を使って再現しており、見た目だけでなく遊びも現代風2D表現に昇華している。
▲宝箱が見えるが、その通路はぼやけて隠されている……!
スクウェア・エニックスのRPGじゃない。これこそスクウェアの新作RPG。
そう思って最初の1時間はテンションを上げまくっていたのだが、それ以降はしばらくテンポの悪さとメインストーリーに苦しむことになった。
本作では8人の主人公全員に、旅立ちの物語が1時間分ぐらい用意されている。スキップして概要だけ見ることもできるが、『ロマンシングサガ』のように毎回プレイ内容が変わるゲームではないので、周回を考えずに全部見たいとも思ってしまう。すると、ゲームの序盤を8回繰り返すことになってだるい。
しかも、メインストーリーの面白さにもばらつきがあり、すべてが面白いとは言いがたい。
主人公たちが助け合う理由も納得がいかない。8人の物語は完全に独立していて接点がないのに、メインキャラたちは会話もなく合流してしまう。
人助けの物語を持ったキャラに合流するならまだ納得もできるが、「100%犯罪の窃盗行為に正義の味方が協力する」とか、「危険な仇討ちに天真爛漫な商人少女が合流している」という状況になったりして、進めても盛り上がりに欠ける。
▲「知られているのは、彼の盗みの腕だけだ。」から主人公が協力する謎。
また、バトルもやはり序盤退屈になる。と言っても、本作は『ブレイブリーデフォルト』を思い出させる戦術性の高いターン制バトルシステムを提供しており、システムには問題ない。
本作のバトルのキモは“BREAK”と“BP”にある。敵は必ず弱点を持っており、一定回数弱点属性で攻撃されると1ターン“BREAK”状態になり、行動を停止して防御力も大幅低下する。
また、プレイヤーは毎ターン1点だけ回復するBPをため、これを消費することでキャラクターの攻撃回数や回復力を最大4倍まで上昇させられる。
BPで攻撃回数を増やしてBREAK状態を誘発するか、BREAKを誘発してからBPを消費して強力な攻撃を叩き込むか、それとも回復にBPを使うのか……悩ましいバトルシステムなのだが、序盤の人数が少ない間は単純な行動しかとれないので面白みに欠ける。
▲人数が揃えば面白い。効果音と振動が気持ちいいのも特徴。
このように序盤はイマイチだったわけだが、プレイを始めて4時間ぐらいから『オクトパストラベラー』は一気に面白くなってきた。
人数が増えてバトルの戦術性が上がって楽しいのはもちろんある。しかし、それ以上に本作独自のシステムが噛み合って神がかり的な面白さを発揮し始めたのだ。
『オクトパストラベラー』は、初期からどこにでも行けるオープンワールドを採用しているのだが、この自由度と、各キャラクターが持つ固有のコマンドを使ってゲームバランスや物語も崩壊させる遊びが楽しすぎた。
これに気づいたのは、誰にでも決闘を挑んで倒せる騎士を仲間にして“決闘コマンド”を使い始めたときだ。
山賊が村の子供をさらっているのに、お爺さんとおばさんに決闘を挑み……。
バトルで倒す。なお、どちらも山賊より強かった。なんでお前らがいて、山賊にやられるんだ。
で、倒されたお爺さんたちは気絶し、家の前から移動する。その後に我々は家の中に入って家捜ししてアイテムを奪えるという寸法だ。もはや、誰が山賊なのか分からない。
こうして、新しい街に行くたびに人々に暴行し、物を奪う習慣が加わった。
さらにその後、人のプロフィールを暴く“探るコマンド”を持つ仲間サイラスが加わり、お爺さんの経歴を見ると……え、このお爺さん歴戦の兵と判明。
山賊よりギリギリ強かった理由はこれか!というか、こんなことをちゃんと設定しているのか。
この“探るコマンド”、犬にも使えたので番犬を調べて見ると……。
「非常に利己的な性格をしており、早く今の危険な仕事から足を洗いたいと考えている」
番犬が足を洗いたいとか、面白すぎるだろ……!
という感じで、街の人に暴行を働くだけでなく、次々とプライバシーを暴く作業が加わる。
▲実はこのパートは『侍道2』や『ロード・トゥ・ドラゴン』で武器やキャラクターのテキストを書いていた宮内ディレクターが担当しており、本領を発揮している。
さらに、マップをうろついている間に「オープンワールドだから、序盤から後半に行くべき街に行ける」ことに気づいてしまう。もちろん敵は強いのだが、サイラスには敵の出現率を下げる能力がある。これを使って後半に行くべき街に行くと、最初から強力な装備を買えるのだ。もちろん、装備が高価なのでなかなか買えないが、1度行った街にはワープできるから金が貯まるたびに超強力装備を買いに行けば良い。
▲『ファイナル・ファンタジーII』で序盤からミシディアに行って買い物するような……。
さらにさらに、本作では金がなくても盗賊の“盗むコマンド”で道行く人の隠し持つ物を一定確率で奪える。コマンドに失敗しすぎるとペナルティがあるが、失敗のたびロードし直せば問題ない。
となれば、やるべきことは一つ。後半に行くべき街にたどり着いたらセーブ&ロードを駆使して、低確率で盗める強力な装備を手に入れるのだ。
▲町人の持ち物、ソウルナイフ3%!でも手に入れたら超強かった。
町を去る前にもやることがある。盗みを繰り返す中で低確率でしか誘惑できない強力な町人を探し出しておき、誘惑して仲間にしてから町を出るのだ。
この町ではそう、12%でしか仲間にできないが“やたらめったら斬り”を使える衛兵だ!
コイツをボス戦で呼び出すと、100ダメージしか与えられない主人公を尻目に、いきなり1238ダメージを叩きだして倒してしまう。バランス崩壊 is 楽しい。
もはや親の仇討ちも、世界一の商人になる夢も、すべて放りっぱなし。
新しい町に押し入っては人のプロフィールを強制的に暴き、邪魔者は殴って気絶させて家を漁り、強力な装備があれば親の形見でも盗み、最後に重要人物を誘拐して強制労働させるルーチンワークが完成。
ゲームバランス崩す作業が楽しくて、メインストーリーがいつまでたっても進まない。見た目は「スーパーファミコン時代のスクウェアRPG」が正当進化した感じなのに、遊んでみるとプレイは「フラグ管理ができていないファミコン時代のRPGぐらい自由」という面白さ。なんだ、この小ネタの山は!
▲「さぁ、勝負だ!」と騎士が強盗する。
思えば、昔のRPGの名作はどこか壊れていた。『FF5』は強すぎる調合を利用して低レベルクリアを目指すのが楽しかったし、『FF6』でバニッシュからどんな敵も1撃で倒せたり。
欠点はあれど、『オクトパストラベラー』もまたどこか壊れていて、キャラクターが揃って、プレイヤーが好き勝手に遊びを見つ始めると止まらない楽しさが出てくる。見た目だけでなく、内容も昔のRPGの系譜なのだと思う。開始10時間強で、メインストーリーが全然進まないプレイヤーではあるが、現時点ではそう感じている。
▲サブストーリーにも物語の連続性があり、メインよりやらされてる感が低くて楽しいのもある。
付け加えるなら、『オクトパストラベラー』は完全新作RPGとして久々にヒットしていて、目新しさから「あれ面白い?どう?」という話題の種になっている。
ゲームと言うのはやっぱり新作を遊んで、みんなで語るのが楽しい。購入を悩んでいるなら、今が遊び時だと思うので、Switch を持っていれば買ってこの輪に加わって欲しい。
スクエニではなく、スクウェアの新作RPGが遊べるなんて、きっとこの先あまりないことで、やはり今だけの楽しさだと思うから。
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