初犯で刑期10年以上…刑の重い長期受刑者を収容している岡山市の岡山刑務所。受刑者数は、2006年の約770人をピークに減少に転じているが、今 深刻な問題が静かに進んでいる。
刑務官:
前へ進め!
2021年、岡山刑務所の受刑者は400人余り。半数以上が無期懲役だ。殺人、死体遺棄、強盗殺人などが大半を占める。
受刑者を収容し、刑を執行する刑務所。一方で、罪を犯した人間を更生させ、社会復帰させることを目的とする施設でもある。その目的や存在意義が今、揺らいでいる。
その原因のひとつが認知症だ。
ーー何でこの岡山刑務所に入ることになったんですか?
認知症の受刑者:
それはわからない
この受刑者は、自分がなぜ刑務所にいるのか答えられない。
日本の刑務所では、ここ数年 受刑者の高齢化が大きな問題になっている。岡山刑務所も例外ではなく、4人に1人以上が高齢者だ。
高齢化対策として新たに導入「養護工場」
岡山刑務所では高齢化に対応するため、2020年11月に新たな作業場「養護工場」を整備した。
椅子に座る作業が難しい受刑者のために座椅子が用意され、今後の高齢化を見越して、席は余分に用意されている。
「養護工場」での1日の労働時間は、一般の受刑者と比べて1時間短い6時間20分。
介助などが必要な高齢受刑者を集め、フルーツの保護ネット作りなど、簡単な刑務作業が行われている。
刑務官:
急に今まで自分のやっていたことがわからなくなったりとかする者も中にはおりますので、そういったところを日ごろ、いつも通りやれるように注意しながら見ています
途中で作業がわからなくなってしまう受刑者。認知症の診断は出ていないが、物忘れの多い認知症予備軍の受刑者だという。
高齢化で変わる食事…介助するのも受刑者
高齢化で食事も一変。
受刑者の食べる力や体調、病気などに合わせて作り変えられる。「きざみ食」や「ミキサー食」が用意され、汁物の具材も細かく刻まれる。白いごはんが食べにくい受刑者には、お粥が用意される。
無期懲役など、長期の受刑者を抱える岡山刑務所では、受刑者が年齢を重ねて高齢になり、2000年には3人しかいなかった75歳以上の受刑者が、20年で43人に増加。それにともない、介助が必要な受刑者も増えている。
介助係の受刑者 殺人罪・無期懲役:
自分が73歳ですが、若いほうですからね。若いというか元気なほうですからね。高齢化は明らかに進んでいます
介助するのもまた受刑者だ。
衛生係の受刑者:
開けますよ。便出そうですか?出ない?一旦上げますね。お尻だけ拭きましょう。お願いします
受刑者1,300人に認知症の可能性
刑務所の医療における最大の問題は、受刑者の認知症だ。
全国の刑務所で行った認知症を調べる簡易検査で、約14%にその疑いがあることが判明。実に1300人が認知症の可能性があるという。
実際 岡山刑務所には、予備軍を含め約20人の認知症受刑者がいて、その数は年々増えつつある。
病棟にいるこの受刑者は、認知症と診断された。殺人などの罪で無期懲役。年齢は80代前半。
刑務官:
7室番号!
認知症と診断された80代前半の受刑者(殺人などの罪で無期懲役):
番号はおぼえてないんです。わからんのです。
数年前に認知症と診断され、自分がいま何歳なのか、なぜここにいるのか、言えない。
ーー年齢はおいくつですか?
認知症と診断された80代前半の受刑者(殺人などの罪で無期懲役):
年齢?…70なんぼか覚えてないんです
ーーなぜ、この岡山刑務所に入ることになったんですか?
認知症と診断された80代前半の受刑者(殺人などの罪で無期懲役):
いや、ここへ来ているから。この岡山刑務所に来ているから。ここへ入れと言われて
ーー何で入れって言われたんですか?
認知症と診断された80代前半の受刑者(殺人などの罪で無期懲役):
それはわからんです
認知症など健康上問題がある受刑者は、自分の部屋で作業を行う。作業内容は紙を三角に折るというもの。1日1~2時間の簡単な作業。ところが認知症のため、教えても次の日には忘れてしまう。
刑務官:
違う違う。違うよ。今、ここ折ったでしょ。こっち折ったでしょ。これをこの中央の線に合わせる
本来、作業は更生や社会復帰のために行われるもの。認知症の受刑者にとって、紙を三角に折ることは、どれほど社会復帰に役立つのだろうか。
事件当時のことを全く覚えていない認知症の受刑者。どう罪を償えば良いのか…。
贖罪や更生のあり方が問われている。
※後編に続く
(岡山放送アナウンサー 岸下恵介)