3月10日をもって、サービス開始から7周年を迎えた大ヒットRPG『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)。これを記念して、“どうして空は蒼いのか”シリーズおよび、7周年記念シナリオイベント“STAY MOON”で新たな展開を見せた“組織編”を手掛けた『グラブル』シナリオライター陣3名が集結。

 シナリオ執筆時に意識している本作ならではのこだわりや、今後の展望などについて座談会形式でたっぷり語ってもらった。その模様を、ロングインタビューの形式でお届けしよう。

山田氏(やまだ)

担当シナリオ
◆とりまトッポブで。
◆名探偵バロワ~呪われた財宝を追え~
◆氷晶宮でミックスパイを
◆どうして空は蒼いのか
◆俺達のレンジャーサイン!
◆失楽園 -どうして空は蒼いのかPart.II-
◆ハンサム・ゴリラ
◆000 -どうして空は蒼いのかPart.III-
◆THE MAYDAYS 
など
(文中は山田)

右辺左寄氏(うべ さより)

担当シナリオ
◆若き義勇の振るう剣
◆神境にて辿る跡
◆Shadowverse Duelist of Eternity
◆ラブライブ! サンシャイン!! Aqours Sky High!
◆Right Behind You
◆ラブライブ! ソラノトビラ
◆Spaghetti Syndrome
◆The End of THE DOSS
◆ロボミ
◆ロボミ外伝
◆ロボミZ
◆ロボミ 史上最大の戦い ゴッドギガンテス 対 空の調停者ゾーイ
◆STAY MOON(前3部担当)
など
(文中は右辺)

上条氏(かみじょう)

担当シナリオ
◆プラチナ・スカイ
◆蒼天のえにし
◆サウザンド・バウンド
◆猫島狂詩曲
◆星の獣のレゾナンス
◆プラチナ・スカイII
◆スツルム&ドランク 傭兵お仕事帖
◆幾千の夜を越えて、あなたに届くのなら
◆STAY MOON(4部他)
など
(文中は上条)

社内チームでシナリオを制作。『グラブル』ならではの工夫とは?

――今回の7周年記念シナリオイベントもそうですが、『グラブル』のシナリオは毎回、どういった流れで作られているのでしょう?

右辺おおよその構成であったり、登場するキャラクターの選定に関しては福原(※ディレクターの福原哲也氏)のほうで決めてもらっています。ライター陣はそれを受け取り、膨らませながら打ち合わせを重ねて、正式にゴーサインが出たら本文の執筆に移る……といった流れになります。セリフの内容や言い回し、背景の設定、シーンごとにどんな演出を入れるかなどを細かく決めてから、本格的な作業に入る感じです。

――『グラブル』を始め、ゲームのシナリオを書かれるうえで、工夫されていることなどはありますか?

山田ゲームの場合、プロットの段階から別職種のスタッフさんが関わられるのが、ほかのジャンルのシナリオと大きく異なるところですね。プロットを見て、デザイナーさんやプランナーさんも同時進行で動き始めるので、どの時点のものを見てもらってもイメージが伝わりやすいように書く、ということをつねに心がけています。

上条毎回、「最終的にゲームとして世に出たとき、どういった演出がついて、声優さんたちはどういう演技でこのキャラクターを演じるのだろう?」というところまでイメージして書いています。うまくハマったり狙い通りにいかなかったり、逆に想像以上のものになることもあるので、出来上がったものは必ず実機で遊んで仕上がりを確認しています。

――家庭用ゲームと比較して、スマートフォン向けRPGのシナリオならではの苦労というのはあるのでしょうか?

山田どちらにも当てはまることですが、ゲーム業界ではよく、「ゲームを始めて開始3分でおもしろいと思わせなければ、ユーザーはそれ以上遊んでくれない」と言われています。それはシナリオにおいても当てはまることで、とくにスマホゲームの場合、食事とか電車の乗り降りなど、ちょっとしたことをキッカケに中断して、そのまま手をつけないことがあるかと思います。ですので、できるだけ早い段階でキャラクターに感情移入してもらい、「続きが気になる」、「このキャラのことをもっと知りたい」と思ってもらえるよう、最序盤での描きかたには、細心の注意を払っています。

上条スマホゲームのシナリオ作成は、ある意味、連載小説を書いている感覚に近いですね。今回のシナリオで描いた展開やキャラクターたちの動きが、今後の物語でも活かされるかというと、必ずしもそうとは言い切れなくて。いくら設定を作り込んでも、それらがどう変わっていくかは自分ひとりでは決められないので、それを念頭に置いて執筆するようになりました。

――チームで動かれているうえ、物語も継続しているので、新しい設定を思いついてもなかなか盛り込むのは難しそうですね。

上条あまりにも設定を複雑にしすぎると、新規のユーザーさんやひさしぶりに再開したユーザーさんが物語に入り込めなくなるという問題もありますからね。どのタイミングで始めていただいても、物語を理解できるようにするというところも、スマホゲームならではの難しさだと思います。

右辺確かに“設定をどこまで出すべきか?という判断が難しいですね。あくまでも裏設定として、何となく匂わせるくらいに留めておくパターンはけっこうあります。

――その匂いを感じ取って、ほかのライターさんが設定をさらに広げてくれることもあるのでしょうか?

山田ユーザーさんのあいだで話題になったり、福原の感性に響いたりしたら、芽が出ることもあります。そうなったらいいなと思いつつ種をまく感じで、小さな引っ掛かりを少しずつ作っています。

――当初予定していたものから、だいぶ変化した設定もあるのでしょうか?

右辺イベントを展開していく中で、「もっと規模を広げてもいいんだ!」となることはありますね。“年年歳歳煩相似たり”でのゾーイとジョヤの戦いあたりから、「今後は宇宙にも行けるな」という雰囲気になったり(笑)。近年、徐々に描く内容のスケールも大きくなってきているように思います。

――『グラブル』は世界観の幅が広いですよね。そもそも島が浮いている時点でも不思議な世界なのに、幽世や宇宙という概念もあって。周年のたびに世界が広がっている感覚です。

右辺ゲームをやっていていちばん楽しいのは、マップの端がわからないときだと思っていて。世界の限界を意識せずに「自分はどこまででも行ける!」という気持ちで、物語に没頭しているときだと思うので、そうしたワクワク感はこれからも大事にしていきたいですね。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
年年歳歳煩相似たり

7年を経て節目を迎えた“組織編”。そこに込められた想いを直撃

――人気シリーズである“組織編”の続編が満を持して開催されましたが、今回のシナリオのテーマを教えてください。

右辺カシウスとアイザックにかなり焦点を当てたシナリオになっています。

 “Spaghetti Syndrome”のあたりから、空の世界で暮らすようになった月の人たちは、長い年月の中でどのように変化していったのか、という部分に興味があって。そこから着想を得て、“時間とともに文化も変化していく”ことを描きたいと思い、テーマにさせていただきました。

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『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
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上条カシウスとアイザックだけでなく、当初から“組織編”に登場していたキャラクターたちも、5年、6年と続く物語の中で成長しているので。そうした変化も楽しんでいただけると思います。

 封印武器との関係であったり、それらを解放して“どのように最後の敵を倒すのか?”という部分だったり。物語の最後のラストバトルに至るまでの“RPGらしい流れ”の中で、ひとりひとりの心情の変化や成長は、なるべく印象的に描いているつもりです。すべてのキャラクターが成長して、変化したからこそ、その力を引き出すことができた、という結末になっています。各キャラクターたちの“成長”を一貫したテーマにして描いていますので、ぜひ最後まで遊んでいただきたいですね。

右辺いろいろな意味で、積み重ねてきた時間の長さがよく表れたシナリオになっているのではないかと。各キャラクターの関係性や性格にも変化があるし、何より演出がすごいことになっていて。会話シーンはもちろん、バトルの演出も進化しているので、そういった意味でも、『グラブル』が長い年月をかけて進化・成長してきたことがよくわかる、象徴的なイベントに仕上がっています。

上条これまでずっと、ユーステス関連のシナリオを書かせてもらっていて。個人的にもとても愛着があるので、今回の“STAY MOON”で彼が活躍するシナリオを書くことができて本当にうれしかったです。

――最初から、これだけ壮大な物語になる構想はあったのでしょうか?

右辺執筆当初はライター1年目だったので、何も見当が付いていない中で書いていました。『グラブル』が続いていく中で、福原の原案として挙がってくる物語の規模がどんどん大きくなっていった感じです。

 最初に盛り込む内容を決めて、プロットやあらすじを作り始めるのですが、その過程で「この話の本質はもっと別のところにあるのではないか?」と気づくことも多くて。そういうところもシナリオを書いていくうえでの楽しみのひとつですね。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
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『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
STAY MOON

――『グラブル』にはほかにも、さまざまなシリーズもののシナリオがありますが、それらを続けていくうえでの狙いや想いといったものがありましたら、教えてください。

右辺せっかくシリーズとして展開するからには、キャラクターの成長を丁寧に描きたいですし、ユーザーさんにももっと愛着を持っていただきたいので。キャラクターたちの魅力を掘り下げるエピソードになるよう、心がけながら書かせてもらっています。

上条単発のシナリオイベントでも、「この続きがあるなら書きたいな、見たいな」と思うものはあります。だから、引っ張りすぎず、ちょっとした種を残しつつ……。もし芽が出れば続きができるかもしれないと思って書いていますね。また、私の場合、「こういう方たちに遊んでほしい」というターゲットを絞ってから書き始めることが多いですね。100人がプレイして、100人ともおもしろいと感じるシナリオはおそらく存在しないので、「今回はこういったユーザーさんに楽しんでもらいたい」といったことを考えながら書かせていただいています。“組織編”や“幾千の夜を越えて、あなたに届くのなら”などは、“キャラクターに愛着を持ってくれているファンの皆さん”に向けて書きました。

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幾千の夜を越えて、あなたに届くのなら

――“組織編”の人気が年月を経るごとに高まっていくことはうれしい反面、プレッシャーもあったのでは?

上条逆にいろいろやれるといいますか。年末イベントは、プロジェクト全体でとくに力を入れて取り組んでいる企画なので、イラストやアニメーションなどの演出まわりも「こんな感じにしたらもっと盛り上がると思います」と提案したら、採用してもらえることが多いんですよ。なのでプレッシャーよりも楽しさのほうが勝っていて、やりたいと思ったアイデアをいろいろ実現させてもらっています。とくに『プラチナ・スカイ』を書いたときに、「こんなにやってもらえて楽しいな」と感じました。

――たしかに『プラチナ・スカイ』は新規の会話用イラストなども多かったですね。

上条それに見合うだけのものを作らなければ……という気持ちはありますが、それ以上に楽しさのほうが勝っています。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
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『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
プラチナ・スカイ

――月に行ったり、封印武器を壊したり、カシウスがたいへんな目にあったりと、シリアスな展開の多いイベントでしたが、そのあたりは福原さんのアイデアなのでしょうか?

右辺基本的にはそうなりますね。“Spaghetti Syndrome”の時点で、「つぎの周年記念イベントでは月の話がメインになる」と聞かされていました。それを受けて“Spaghetti Syndrome”では“多くのユーザーさんにとって想定外であろう結末”を用意して、つぎのライターさんにバトンを託したつもりでいたのですが、結果的に今回も、自分がシナリオを担当することになりましたね(笑)。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”

3年にわたる人気長編シリーズ“どうして空は蒼いのか”誕生秘話

――“どうして空は蒼いのか”3部作も大勢のユーザーから支持される人気長編シリーズですが、当初からこれほどの規模になることは想定されていたのでしょうか?

山田最初期の時点では、ここまで長期化するとは考えていなかったですね。Part.Iのときのコンセプトは、世界中を巻き込むようなストーリーで、そこにその当時、活躍していたキャラクターたちを大勢出して。“天司”という独自の設定も新たに盛り込もう……くらいでした。そこから福原と相談しつつ、「サンダルフォンとルシフェルの確執、因縁を軸にしよう」、「そこにルリアも絡ませたらおもしろいのではないか?」といったことを急ピッチで決めていった感じですね。

――新たに天司や堕天司といったキャラクターが登場して人気を博しましたが、各キャラクターを考案するうえで意識していたことや、苦労したことはありますか?

山田人間とは異なる存在なので、既存のキャラクターたちとは一線を画す、独特の価値観を持たせたいという考えはありました。天司というのは『グラブル』の世界においても、独自の世界観を持っているコミュニティーなので、その思想や行動規範を明確に打ち出すことで、人間との違いを表現できるのではないかと思ったんです。とはいえ、あまりにも突飛な行動や、共感できない言動が増え過ぎてしまうと、ユーザーさんが感情移入できなくなってしまうので「どこまで個性や性格を尖らせるか?」という部分のバランスを取るのは、なかなかたいへんでした。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”

――3年にわたる大作となりましたが、とくに印象に残っている部分はありますか?

山田やはり3部作の中心になっている、ルシフェルとサンダルフォンの関係性には思い入れがありますね。恋愛とか友情、家族愛など、いろいろな形の愛情を含んだ関係性を描きたい……という気持ちが前々からあって。それが、まだまだ未熟ではありますが、本シリーズの中で多少なりとも表現できたと思っているので、その象徴でもあるふたりの存在は、僕の中では大きいです。

――ベリアルの存在も欠かせませんよね。あの設定はどのように生まれたのでしょう?

山田もともとの発注にはなく、ベルゼバブが『GBVS』で倒すべきボスとなっていたので、それとは別にボスとなるキャラクターが必要だったんです。そんな中で急に閃いたキャラクターでした。じつは“失楽園 -どうして空は蒼いのか Part.II-”を書いていたとき、スランプに陥っていて。何もアイデアが浮かばず、ただただ締切に追われるという悪循環の真っただ中で、いきなり閃いたキャラクターだったのですが、不思議なくらいストーリーもパッと浮かんできて。スケジュール的にギリギリのタイミングでの提案でしたが、福原にもピンとくるものがあったみたいで、採用していただくことになりました。

右辺ベリアル誕生秘話を初めて知りましたが、突然現れて状況を大きく動かしたという、ある意味、すごくベリアルらしい生まれかただったんですね(笑)。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”

魅力的なシナリオを届けるために、作家陣が大切にしていることとは?

――周年イベントだからこそ、いつも以上に工夫したり、苦労された点はありますか?

山田通常のシナリオイベントだと、「今回はこの要素を尖らせよう」といった形で、キャラクターなり、設定なり、どこかひとつの要素に力を入れることが多いんです。けれども周年イベントとなると、プレイされるユーザーさんが増えると同時に視点が増えると思っていて。尖らせるポイントも可能な限り多めに用意しています。好きなキャラクターが目当ての方にも、ストーリーを楽しみにされている方にも、より多くの方に満足していただきたいと思っています。

上条今回の周年イベントに関しては文章量が多く、時間も限られていたので、右辺とふたりで担当させていただいたのですが、“共同作業ならではのたいへんさ”がありましたね。

 前半を右辺が、後半を私が担当する形で、細かく打ち合わせをしながら進めていきましたが、同時進行だとやはりちょっとずつズレが生じるんですよ。プロットからの変更点などを擦り合わせていくのがなかなかたいへんでした。右辺を「書けたところからはやく共有してください!」と急かしたり……(笑)。

 ただ、ユーザーさんからすると、そうした裏事情はまったく関係ないですからね。ひとりで書こうが、複数名で書こうが楽しんでもらえる作品に仕上げなければ意味がないので、そこはがんばりました。

右辺私はいつも通り「ちゃんとおもしろくできるか? どうしたらおもしろくできるか?」ということをずっと考えていました。“周年イベントならでは”というところでは、福原からも「特殊なバトルなど新要素を盛り込みたい」と言われていたので、そうした演出や、バトルに至るまでの盛り上がりをどう見せるか、といった部分も併せて考えて、シナリオに盛り込んでいった感じです。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”

――今回に限らず、周年イベントはシリアスな展開のものも多いですが、そういったストーリーを考えるうえで意識されていることはありますか?

上条シリアスにしようと狙っているわけではないのですが、周年イベントはスケールが大きく重い設定のものが多いですからね。状況に合わせてキャラクターを動かしていった結果、自然とそうなっていくんだと思います。無理やり明るくしようとして空気を読まないシーンを入れると、かえってテンポも悪くなってしまうので。

――そのほか、毎回これだけは必ず守っているといったポイントなどはありますか?

右辺奇をてらわず、できるだけ王道の展開に近い形で描くようにしています。また、ストーリーを先に進めるにあたって“不自然な会話”を極力入れないよう注意しています。

 たとえば、敵に対して怒りを感じたときでも、仲間が全員口を揃えて「俺は怒ったぞ!」、「私も怒った!」というのは不自然ですから。怒りを口に出すキャラクターもいれば、状況を把握して冷静に対処するキャラクターもいる。言葉の使いかたや受け答えの姿勢からも、各人物像が見えてくるようなシナリオを心がけています。

上条全部を語らない勇気を持つことですね。何から何まで説明してしまうとテンポが悪くなり興醒めの原因になるので、そこは割り切って、最低限必要な情報以外は削ぎ落すようにしています。そのうえで、どうしても残したい裏設定的な要素があるときは、ほんの少し匂わせる程度に情報を入れたりしています。

山田心がまえの話になってしまうのですが、毎回“ユーザーさんの記憶に残るものを作る”ことを目標にしています。どういうシナリオなら記憶に残るのかというと、それは“刺激的なもの”、“ほかの作品では味わえないもの”という答えになると思っています。

意識するのは原作ファンの目線。コラボイベントならではの苦労を直撃

――『グラブル』のシナリオは、味方側だけでなく、敵対する側の人間模様も魅力的に描かれています。仲間とのキャラクター性を書き分けるために意識している点はありますか?

右辺“生々しさ”といいますか、ひとりの人間として動機を持って行動した結果、主人公たちとは敵対することになった……という部分をちゃんと描きたくて。「悪事に手を染めた人間にも、そうせざるを得なかった同情すべき理由がある」と主張するつもりはありませんが、そこをしっかり描いたほうがユーザーさんにとっても、その敵を“倒すべき存在”として納得していただいたうえで最終決戦に至れるのかなと。

――たしかにそのほうが、ただ漠然と登場するよりも、「こいつを倒さなければ!」という気持ちになりますね。

山田僕も右辺と近い考えかたで、「悪役だから悪いことをするのは当たり前」というのは、違うと思っていて。そのキャラクターなりの思想や価値観があり、それらが主人公たちと相容れなかった結果、ぶつかることになった……という展開を意識することが多いですね。

――ちなみに『グラブル』といえば、さまざまなアニメやゲームとのコラボイベントも、毎回、好評を博していますが、通常のシナリオ作成とは取り組みかたも異なるのでしょうか?

右辺原作ファンの方がコラボをきっかけに、『グラブル』をプレイしてくれることもありますからね。その際、「『グラブル』スタッフもこの作品が大好きです!」という意思を示せるように、原作を徹底的に研究しています。毎回、原作のテイストやテーマを盛り込みつつ、原作に対するリスペクトを持ってシナリオの執筆に当たっています。

上条原作の魅力をうまく表現できなければ、失望させてしまう可能性もあるので……。担当する際は気を遣います。基本的に、自分自身もその作品が好きだからコラボを担当させてもらうことが多いのですが、独りよがりにならないようには気をつけていますね。コラボがきっかけで、原作ファンの方たちに『グラブル』を好きになっていただけるとうれしいなと思って取り組んでいます。

――コラボイベントの場合、シナリオの構成なども、通常のイベントとは異なるのでしょうか?

上条通常のシナリオを書くときは、キャラクターに何らかの成長や変化をもたらすことを意識しています。個々の成長だけでなく、それまでいがみ合っていたふたりが、互いを認め合い背中を預けられるようになる、などの関係性の変化だったり。

 そうした変化を軸に構成を考えることが多いのですが、コラボイベントの場合は、原作からキャラクターたちをお借りする形になるので、基本的には不変のままお返しすることになります。なので必然的に、通常のシナリオとはテーマ設定のしかたが変わってきますね。

ライター陣イチオシのSIDE STORYをピックアップ

――“どうして空は蒼いのか”シリーズを始め、豊富なSIDE STORYも『グラブル』ならではの魅力のひとつですが、皆さんのお気に入りのエピソードがありましたら教えてください。

右辺“ロボミ”、“氷晶宮でミックスパイを”、“プラチナ・スカイ “の3本ですね。キャラクターの掘り下げかたや演出の方法について、「こういった方向性もアリなんだ!」という新たな指針を見出せたシナリオイベントなので。現在の『グラブル』につながる転換点にもなったイベントだと思っていますので、未プレイの方にはぜひ遊んでいただきたいです。

山田たしかに“ロボミ”はすごい転換点でしたね。空の世界にロボってアリなんだ……って(笑)。

右辺あとは“俺達のレンジャーサイン!”も過去ユーザーのみなさんに反響があったシナリオとして象徴的な作品だと思っています。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
ロボミ
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氷晶宮でミックスパイを
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
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俺達のレンジャーサイン!

上条“俺達のレンジャーサイン!”は星晶獣と人みたいな大きいテーマになっていて、今後『グラブル』のメインクエストを進めていくうえでも、知っていると深みが増すかもしれません。世界観への理解も深まると思うので、ぜひプレイしていただきたいですね。

 あと私は、“魔ガ散ルトキ、彼ハ”をオススメしたいですね。最近また、ゼヘクが登場して活躍していますが、彼のことをもっと知りたい方には、こちらのSIDE STORYもプレイしていただきたいです。ゼヘク以外にも、最近登場していないキャラクターにもオススメはいっぱいいるよということで、ひとつ挙げさせていただきます。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
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魔ガ散ルトキ、彼ハ

山田右辺と同じく、僕のイチオシは“プラチナ・スカイ”です。とくに、作中に出てくるナイトサイファーがめちゃくちゃカッコいいんですよ。あまりにも好きすぎて、“どうして空は蒼いのか“にも登場させちゃったくらいです。

 それと、SIDE STORYではないのですが、“ハンサム・ゴリラ”も忘れられないイベントですね。イベントタイトルの発表だけであんなに話題になったのは初めてでしたし、たぶん、2度とないと思うので(笑)。

一同 (笑)。

『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
ハンサム・ゴリラ
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『グラブル』7周年記念座談会! シナリオライター陣が語り明かす“空の物語”
プラチナ・スカイ

――男性ユーザーの中には、ナイトサイファーが好きな方が多いみたいですね。キャラクターどうしの掛け合いで、「このふたりのやり取りを見てみたい」といった組み合わせはありますか?

右辺接点はないものの、似た者どうし……というところで、ザザとバザラガの掛け合いを見てみたいですね。あと、フェザーとシロウの暑苦しいコンビのやり取りも、どんな展開になるのか非常に気になります。

――ほかにも「一度描いたけれど、いま改めて組み合わせたら、当時とは異なる掛け合いが見られるんじゃないか?」と思われるキャラクターはいますか?

上条個人的に十天衆のシスが好きなので、いま現在の彼はどうなっているのか気になりますね。最終上限解放などを経て、だいぶ性格も変わったと思うので。これまでは、ほかの十天衆や団長、ネハンとのやり取りがメインでしたが、ほかにもいろいろなキャラクターとの掛け合いを見てみたいです。

 そういう意味では、アオイドスとシスの組み合わせとか、かなり興味がありますね。そうした、時間の経過にともなう“当時から変化した関係性”にクローズアップしたシナリオも、ぜひ見てみたいです。

 あとは、十賢者ですね。ほかのキャラクターとの絡みが現在はほぼないので、シナリオイベントなどに登場したらどうなるのか興味があります。

8年目に突入した『グラブル』。それぞれが語る“空の物語”の展望

――『グラブル』は7周年を迎え、キャラクターの人数が増え、それぞれの設定もどんどん深掘りされていると思います。そうなってくると、キャラクターの設定の整合性などを取るのもたいへんだと思うのですが、各キャラクターの情報などはライター陣の皆さんのあいだで、どのようにして共有されているのでしょうか?

右辺キャラクターごとにプロフィールシートがあって、公表されているものから非公開のものまで、そのキャラクターに関する情報はすべてシートにまとめるようにしています。担当するシナリオに出てくるキャラクターの詳細な設定に関しては、シートで確認するようにしていますが、最初にそのキャラクターを生み出したライターにより詳しい情報を聞くことも多いですね。

――福原さんも「シナリオイベントは『グラブル』の華である」とおっしゃられていましたが、今後、シナリオチームとして、ユーザーの皆さんに届けていきたい物語はありますか?

上条基本的にシナリオの原案は、福原のほうから降りてくるんですけど、最近はこちらから元ネタを提案させてもらい、それが採用される機会も増えてきて。2020年に開催された“スツルム&ドランク 傭兵お仕事帖”は、私のほうから提案したイベントでしたね。私自身が、スツルムとドランクの活躍をもっと見たかったので、「書かせてください!」と相談したらオーケーをいただけたんです。そんな感じで、いまもいくつか提案しているネタがあるので、それが形になって皆さんに遊んでいただける日が来たらいいなと思っています。

山田7周年を迎えたことで、僕たちもチームとして成熟してきた感がありますね。上条の話にもありましたが、こちらから提案したネタを採用してもらえるケースも増えてきたので、ユーザーの皆さんに向けて、よりバラエティーに富んだ物語を提供していければと、僕たち自身もワクワクしています。我々からもいろいろとアイデアを出させてもらうことで、新しいアプローチもできるのではないかと思っているので、今後の展開にも注目していただきたいです。

――いままでのお話をうかがっていて、ふと気になったのですが、皆さんからご覧になられて、福原さんとはどのような人物なんでしょうか?

右辺とにかく、アイデアの量が尋常ではないですね。どうやったら、あんなにたくさんの引き出しを持てるんだろう……と感じます。

山田まさに、アイデアマンと呼ぶにふさわしい方ですね。クリエイターとしては、少なくともシナリオに関しては“異種格闘技戦が好き”というイメージです。『グラブル』にロボを出すアイデアなんて、ふつうの発想では絶対に思いつかないですし、僕が書かせてもらった“氷晶宮でミックスパイを”のシナリオも、最初のオーダーは「あのかわいい少女リリィが、種族戦争に巻き込まれる!」でしたからね。

――なんとも強烈なオーダーですね。

山田彼女がメインのストーリーなら、ファンの方もほんわかした、かわいらしいものをイメージすると思うんですけど、そこであえて戦争という、ギャップのあるキーワードを持ち出してきて。そういう勇気といいますか、リスクはあってもおもしろくなりそうなアイデアをつぎつぎに出せるところがすごいところだと思います。

上条物腰は柔らかくて、落ち着いた雰囲気なのに、とんでもないアイデアをどんどん出してくる。そのギャップがおもしろいですね。「こういう展開、結末にしたほうが絶対におもしろくなります」みたいな形で、きちんと理由を挙げて説明すれば、こちらの意思も汲んでくれるので、楽しくやらせてもらっています。

――8年目に突入し、ますます盛り上がりを見せる『グラブル』ですが、本作を応援してくれている騎空士の皆さん、そして本誌の読者の皆さんに向けて、最後にそれぞれひと言ずつメッセージをお願いします。

山田シンプルな言葉になりますが、皆さんを飽きさせないよう、楽しんでいただける物語を描き続けていきますので、これからもぜひ、『グラブル』の世界に遊びに来てください。

上条『グラブル』ファンの方であっても、すべてのイベントが刺さるわけではない……といいますか。「これはあまりおもしろくないな」というイベントもあるとは思いますが、シナリオチームも総出で、皆さんに楽しんでもらえるアイデアを捻出していますので、遊んでいただければきっと、感性に響くものが見つかるはずです。私も本作を遊ぶときは、効率のいい周回プレイになりがちなんですけど、お時間のあるときにはぜひ、シナリオも楽しんでいただけると幸いです。

右辺感謝の気持ちを手紙にしたためてきましたので、読み上げますね。「騎空士の皆さま、いつも『グラブル』をプレイしていただき、本当にありがとうございます。今後とも、騎空団の仲間たちとともに果てなき空の旅をお楽しみいただけますと幸いです。私たちはこれからも、騎空士の皆さまに仲間たちの存在をより身近に感じていただけるよう、空の世界でのできごとを書き起こして参ります。こうして皆さまに、私個人としてメッセージを発信できる機会がいただけたことを、たいへん光栄に思っております。今回は我々3人がお声がけいただきましたが、いつかシナリオチームのほかのメンバーの声もお届けできたらいいなと思っています」。