「水曜日のダウンタウン」モンスターアイドルのクロちゃんに見た「権力」の怖さをご報告
「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」第19回。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。この連載は日々テレビを見ていて気になった細かいこと、今のアレってアレなんじゃないのと思ったことを、週報代わりにご報告できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

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「全ての権力を握りたい」と考えている方はどれくらいいるだろうか。

権力を握れば、なにかも自分の思うままに決められる。
気に入った者は近くに置き、逆らう者は排除できる。都合の悪い情報を破棄し、見え見えの嘘をついても、権力者の地位は揺るがない。

ある日突然、そんなワガママ100%が許されたらどうなるか。そんな実験に見えてしかたない。怖い。『水曜日のダウンタウン』(TBS系列)で放送中の「モンスターアイドル」。クロちゃんがアイドルをプロデュースする連載企画である。
「水曜日のダウンタウン」モンスターアイドルのクロちゃんに見た「権力」の怖さをご報告
DVD「水曜日のダウンタウン10 クロちゃん未来と嘘と恋SP」

初日から全権をコントロール


改めて「モンスターアイドル」についておさらいしておこう。初回放送は11月7日。いつものようにアイマスクとヘッドホン姿で登場し、突然「プロデューサーとしてアイドルグループをプロデュースする」ことを告げられたクロちゃん。目の前にはアイドル志望の16人の女性たち。BiSHなどを手がける音楽プロダクションWACKも全面的にサポートするという。

最初こそ戸惑っていたクロちゃんだったが、「あーそういう立ち位置ね」と状況を把握してからが早かった。
裏で恋愛はOKかを確認し、候補者たちを前に「僕1人を好きにさせることができなければ、誰からも愛されませんよ」と釘を刺す。アイドルも作るし、彼女も作る。なんの迷いもない。

初日は歌唱審査とアピールタイムを経て、16人を一気に8人に絞り込む。アピールタイムは立食形式で行われたが、なぜか片隅にソファー席があり、クロちゃんは候補者をひとつずつ呼んでツーショットに持ち込んだ。ここでお気に入りの子(複数)に「○○ちゃんが一番好き」「僕が守るね」と手を握り顔を近づける。

アピールタイムが終わり、クロちゃんの一番のお気に入りはナオ。だが、合格発表ではなぜか一度不合格にし、最後に追加合格の形で名前を呼んだ。一度落ちたショックから、名前を呼ばれたナオは涙を流してしまう。どうしてわざわざそんなことをしたのか。

クロちゃん「あれ普通に受からせてたら、僕のことそんな考えないじゃないですか。けどあそこで『なんで受からないんだろう』って、もっともっと僕のこと考えるから、もっともっと好きになってるじゃないですか」

喜んで泣く顔を見たかったら、自分のことを考えてほしかったから、あえて落とした。
「プロデューサー」を告げられたその日に、そこまで権力をコントロールできるものなのか。「モンスター」という冠が黒く輝く。

誰も反論しない「裸の王様」


11月14日放送分からは「沖縄合宿編」に突入し、クロちゃんと候補者8人は沖縄で4日間の共同生活をはじめた。1日につき1人が脱落し、最終的に4人がデビューするのだ。宿泊先に到着した1日目は、いきなり水着審査からスタート。欲望にブレがない。

ダンスレッスンや自由時間を経て、その夜は1人が脱落。審査終了後、クロちゃんは候補者のひとりであるアイカを呼び出し、「スパイになってほしい」と頼む。自分が裏で何を言われているかを探るのだ。アイカには「悪いようにはしない」と、きちんとエサも吊しておく。

沖縄合宿2日目(11月21日放送)。この日はじめて、クロちゃんの作詞メモが公開された。デビュー曲の作詞作曲もクロちゃんが担当するのである。
ホワイトボードには書き殴らったフレーズをクロちゃんが読み上げる。

・私をラビリンスの住人にしたてあげたのは誰
・鏡に映る私にルージュで伝言したんだ
・おりひめとひこぼしの関係をロマンチックに感じなくなったのはいつから?
・名も無き神が与えた試練にバケツの水をひっくり返して叫んでた

カメラは今にも噴き出しそうな候補者たちの様子を見逃さない。それでも、コメントを求めるクロちゃんに「スゴく良い歌詞だなって思いました」「もっと自己解釈して自分なりに歌えたら」と返す候補者たち。ダメ出しして機嫌を損ねてはいけない、という見えない圧がそこにあった。気づかないのは「よかった〜」と喜ぶクロちゃんひとり。

ダンスレッスン後、WACK代表・渡辺淳之介との打合せで、そろそろグループ名を決めなければ、という話になった。グループ名を決めるのはもちろんクロちゃんである。

クロちゃん「『ラビリンス』って言葉とか、カタカナ好きなんで。『時とラビリンス』は」
渡辺「時とラビリンス……」
クロちゃん「他にも『ミルキーボム』」
渡辺「ミルキーボム……そぅ……」
クロちゃん「いや、パッと思いついたんですけど」
渡辺「あっパッと。でもそういうのもスゴい大事ですよホントに」
クロちゃん「分かりました。考えておきます!」

全権を持つのはプロデューサー・クロちゃんだ。クロちゃん最優先、クロちゃんファーストで事が進む。
反論はないし、みんな認めてくれている……と思っているのは、クロちゃんひとりだ。誰もクロちゃんの能力は見ていない。「権力」だけを見ている。

「俺は嘘つきが一番嫌いだから」


昨年の「モンスターハウス」は、クロちゃん含む男女が共同生活を送る恋愛リアリティ番組だった。途中、脱落者を決める権限をクロちゃんが握ったことはあったが、基本的にフラットな立場での付き合いだった。しかし今回の「モンスターアイドル」は立場的に非対称であり、候補者たちは基本的にクロちゃんの言いなりになるしかない。その結果、クロちゃんは「裸の王様」にどんどん近づいている。

権力に溺れるものはやがて破滅する。歴史がそう証明しているが、クロちゃんはまだ権力を手放さない。アイカからのスパイ報告が返ってきたのだ。

2日目、アイカはクロちゃんがお気に入りのカエデとナオに近づき、「正直クロちゃんってどう?」と本音を引き出す。カエデは「テレビより全然印象良い」「なくはない」。
ナオは「気持ち悪いなって……プロデューサーじゃなかったら、今もそう思ってる」「若干口が臭い」。この日、クロちゃんの前で「私も好きです」と涙を見せていたナオだが、全てはアイドルになるための芝居だった。

報告にショックを受けたクロちゃんだったが、2日目の脱落者発表ではナオを残した。合格ラインギリギリの6位で通過させ、そのあと自分の部屋に呼び出す。ナオを前にしたクロちゃんは、笑顔だった。

「どうだった?今日の発表」「(6位になった理由は)自分が一番分かってんじゃない?」「全部俺分かってるからね。全部。全部だよ」

スパイの存在は告げずにナオを揺さぶる。動揺し、また涙を流すナオ。その涙を見たがっていたクロちゃん。笑顔で警告したのも全て計算だろう。そして最後にクロちゃんはこうつぶやくのだった。


「俺は嘘つきが一番嫌いだからね?」

怖い。権力がものを言う構図と、それらを全て飲み込むクロちゃんが怖い。

『水曜日のダウンタウン』MONSTER IDOL
見逃し配信:Paravi
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)
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