島村嬉唄のカントリー・ガールズ脱退を巡る6つの謎 「うたちゃんフィーバー」とは何だったのか?

終わった話題を新しいサイトで続ける無粋をお許しいただきたい。カントリー・ガールズ島村嬉唄の件についてだ。しかしこのハロプロ史上の事件を総括しておかないと我々は前へ進めないし、件の「うたちゃんフィーバー」を分析することは、取りも直さず「ハロプロとは何か」を考えるヒントにもなり得るのではないか。

謎1.島村嬉唄はなぜ脱退したのか?

この、突然の脱退劇の真相は何だったのか。これについては、6月12日から今に至るまで、色んな場でありとあらゆる言説が飛び交っているが、真相は誰にもわからない。島村本人や関係者からの直接のコメントを聞くことが出来ない以上、これまでの事例と、事務所の公式発表を元に推測するしかない。

突然のご報告となってしまいますが、カントリー・ガールズのメンバーの島村嬉唄との間の契約が途中解約となったことをお知らせ致します。

島村嬉唄は、カントリー娘。がカントリー・ガールズと改名し、新たにスタートした昨年11月に加入し、今年3月にはカントリー・ガールズとしてのCDデビューも果たしました。
その後、ご家族との間で今後についてのお話し合いを重ねてきた過程で、カントリー・ガールズというアイドルグループとして活動を行っていく上での考え方に関し、ご家族と弊社との間に埋めることができない隔たりがあることが明らかになってまいりました。この間、ご家族からは「辞めたい」というお話があった一方で、弊社としましても責任あるマネジメントの範囲を超えていると判断せざるを得ず、今般の途中解約に至ったものです。
カントリー・ガールズ 島村嬉唄に関するお知らせ|ハロー!プロジェクトオフィシャルファンクラブWebサイト

この説明の中には、本人の意向は一切なく、「所属会社」と「家族」との間で「埋めることが出来ない隔たり」、「責任あるマネジメントの範囲を超えている(考え方、要求)」があり、家族から「辞めたい」と申し出があったことになっている。ひとまずはこれを事実として捉えるところから出発したい。

思えば、カントリー娘。再始動計画は、そもそもそれほど注目を集めているプロジェクトではなかった。唐突に発表された「カントリー娘。の新メンバー募集」も、結局は「該当者なし」で終了していた。

ちょうどこの頃、アップフロント・プロモーション社は道重さゆみ(モーニング娘。’14)、Berryz工房らベテラン勢の卒業、活動停止、さらにつんく♂の病気療養によるプロデュース活動の低下を受けて、新メンバーや新グループを投入する積極戦略に打って出ており、新カントリー娘。も、実質的にはこの新グループのコマの一つとして用意されていた。また、Berryz工房活動停止後も「アイドル」としての活動を続けたい意向の嗣永桃子の受け皿として、現在のハロプロでは逆に空白となっていた「アイドルらしい直球アイドル」という方向でプロデュースされることとなった。

里田まいと嗣永桃子のネームバリュー、変化球なしの正統派アイドル、最初の(実質的)新ユニット、と考えると事務所的にかなりの力を入れたプロジェクトであろうことは伺えるが、新機軸のため必ず当たるという保証もない。それを踏まえて、活動もしばらくはインディーズで、中学生メンバーは学業と両立しつつ、それなりのペースで試験的に進める想定だったはずだ。

ところが、これが大当たりしてしまった。気鋭の女流作詞家・児玉雨子による乙女な詩世界、耳に残るオールディーズ調のアイドルポップメロディと、「ごめんなさいね」というキャッチーなフック、ピンクを基調としたとにかく可愛い衣装。そのいずれもがハイレベルで噛み合った。

その台風の目となったのが島村嬉唄だった。突如として巻き起こった「うたちゃんブーム」は、おそらく事務所のプロデュース方針にも大きく影響を与え、『愛おしくってごめんね』はインディーズではなくそのままメジャーデビューシングルとなった。同時に、ステージやイベントの予定も大幅に増えたはずで、この変化が島村本人の負担になった可能性もあるし、「契約時と話が違う」と揉める一因になったのかもしれない。

アイドルもバンドも、皆が売れたくてやっているものだが、急に売れすぎてしまうとそれはそれで問題が起こったりもするものなのだ。

謎2.目の感じが変わったような?

この件は非常にデリケートな話題だが、少なくとも言えることは、デビュー曲『愛おしくってごめんね』のMVやアー写の時の目と、後期の公式生写真の目とは、確かに雰囲気が変わっている、という客観的事実のみである。この件も「責任あるマネジメントの範囲を超えている(考え方、要求)」に関連している可能性を指摘する声もあるが、想像の域を出ない。ネットでも様々な噂が乱れ飛んだが、もしも握手会等で直接本人に色々言った者がいたとしたら、それも精神的によい影響ではなかったろう。

我々大人が「そうあってほしい」姿と、少女が「こうなりたい」姿とは、残念ながらしばしば相容れないものなのだ。この件についてはこれ以上語るまい。

謎3.あの「動画メッセージ」は本物だったのか?

6月16日、「島村嬉唄がファンに向けてこっそり上げたメッセージ」という触れ込みの動画がYouTubeに投稿された。動画は、水性ペンで描いたような島村の似顔絵の静止画に、カラオケで『GARNET』(奥華子)を少女が1人で歌う歌が被せられていたものだった。筆者もこれを聞いてみたが、これが「島村からのメッセージ」であるという見方には懐疑的である。島村が奥華子を好きだったらしいという噂はあるが、歌が2番だけで前奏も後奏もカットされていることや、最後に独り言のような笑い声のような音声が入っているのは不自然だ。また、曲がりなりにも半年間ハロプロのレッスンを受け、CDデビューまで果たした娘にしては、音程が不安定すぎる。これは「たまたまよく似た声の他人の音声を上げた愉快犯」か、もしも本人だとしても「デビュー前の島村のカラオケ音声を保持していた知人」のどちらかと考えるのが自然だろう。

謎4.島村嬉唄は芸能界に戻ってくるのか?

もう一度あの透き通るようなピュアネスを、耳をくすぐる甘い歌声をもう一度! そう願うのは筆者だけではないだろう。しかし、事務所と保護者とのマネジメントトラブルを理由に、契約を途中解除してまで脱退したタレントとあえて契約しようと手を挙げる事務所が見つかる可能性は低い。また、大手事務所と円満でない形で退社したタレントの、その後の芸能活動が絶望的にうまくいかないことは、ハロプロの先例だけを見ても明らかだ。

島村本人のアンケート回答によると、元々モーニング娘。12期メンバーオーディションに応募したのは母親だったらしく、島村家は娘に芸能活動をさせること自体は積極的なようだ。それでも前述のような事情を鑑みるに、正式デビューは難しい。元Juice=Juiceの大塚愛菜のように、アイドル・歌手志望の女の子として、小規模なライブハウスのイベントに出る、といった非メジャーな活動ならあるいは、といったところではないか。

謎5.「うたちゃんフィーバー」とは何だったのか?

カントリー・ガールズがお披露目されるやいなや、ファンもハロプロメンバーも一斉に「うたちゃん、うたちゃん」と騒ぐ、一種のフィーバー現象が起こった。しかしこのフィーバー、渦中にある人でないとなかなかその意味に気付けず(「うたちゃんって、まあ可愛いけどなんでそんなに騒がれてるの?」)、渦中にあっても熱に浮かされた頭ではその真価に気付けず、このフィーバーを総括する有効な言説を導き出すのは困難である。しかしあえていくつかその特徴を元にフィーバーを振り返ってみると、逆説的に「ハロプロとは何なのか?」が見えてくるかもしれない。

・ハロプロ=スキルと下積み物語というパターンの破壊者

島村嬉唄は破壊者である。ハロプロといえば、長い下積み期間や不遇の時代、メンバーの離脱などの試練を経て、スキルを磨き、ハイレベルなパフォーマンスで観客を魅了するアイドル、という自他ともに認めるイメージがある。カントリー・ガールズは「可愛いだけでなんとかなる」かどうかを検証すべく、とにかく「可愛いアイドル路線」に特化した直球ユニットだった。いずれも、近年のハロプロにはなかった要素であり、逆に言うとそこがハロプロ内ではニッチになっていたため、多くのファンの目に新鮮に写ったものだろう。ここまでは事務所の狙い通りだったかもしれない。

島村嬉唄は、未経験のオーディション合格者、歌もステージングも受け答えも素人丸出しだった。デビュー曲『愛おしくってごめんね』では、あろうことかセリフのあとにはにかんでしまう始末。しかしこの「はにかみ」が、猛烈にウケた。この「はにかみ」がカントリー・ガールズのメジャーデビューを早めたと言っても過言ではないだろう。同曲のスポットCMは、画面の半分以上を島村嬉唄がセリフを言ってはにかむ部分のみ、という極端な構成に差し替えられた。

・可愛さの総合力

可愛さのバランスも実に絶妙だった。西欧の血を引くことによる栗色の髪、自然な奥二重の目、野暮ったいサロペット。そしてその体型やスタイルは、「小顔=美人」という昨今の風潮に風穴を開ける画期的な可愛さだった。どこか飛び抜けて可愛いというより、顔や立ち振舞、衣装やプロデュースにおけるすべてが奇跡的に噛み合った「可愛さの結晶」だったのだ。

カントリー・ガールズには、10年選手の嗣永桃子をはじめ、ダンスに自信のあるメンバーがいたが、そうした先輩や同輩をさしおいて、「可愛い」だけの素人が、その素人感の可愛さだけでトップ人気に踊り出てしまうダイナミズム、分析も解釈も必要なく、ただその可愛さに「フーーッ!」と歓声を送るだけ、という危険なアディクションに多くのファンがやられた。

しかし歴史を遡ると、ハロー!プロジェクト(モーニング娘。)は元々はハイパフォーマンス集団ではなかった。デビュー曲『モーニングコーヒー』は、2ステップで左右に揺れて歌うだけの単純な曲だった。そういえばカントリー・ガールズも、初期モーニング娘。同様、本命のオーディションの落選組が集められた寄せ集めユニットだった。そういう意味では、伝統の破壊であると同時に、原点への回帰だったと見ることもできる。

謎6.これからのカントリー・ガールズはどうなるのか?

島村の脱退によって、何も考えず何も語らず「可愛い」だけで消費できる期間は終わりを迎えた。TK氏の言うとおり「カントリーも“語る”対象になってしまった」。しかし、スタートダッシュは遅かれ早かれ終わる。セリフを言うたびにはにかんでいた少女も、いずれはにかまず淡々とこなせるようになる。スタートは何より大事だが、スタート時が最高の評価だった場合、後が辛くなることもある。思えば、あそこまで1人のメンバーに一極集中化させるのも近年のハロプロらしからぬ方向性で、早晩トラブルの種になっていたかもしれない。これでいいんだ…これで…。そう自分に言い聞かせながら、残された5人の活動に目を向けよう。

カントリー・ガールズのメンバーは、発表の次の日、全員がブログを更新している。その中で、最年少メンバー小関舞のブログを引用したい。

でも、そんな中でこの突然の発表で正直寂しすぎて今はまだうたがいるのが当たり前って思ってしまいます。

明日もまた会えるし、たくさん喋れるし、たくさん遊べる!って。

でも、それがもう当たり前ではなくなってしまいました。

その現実がまいは今受け止められないんです…。

まだ信じられないから…。

もう寂しいよ、悲しいよ、会いたいよ、たくさん喋りたいよ、たくさん遊びたいよ、たくさん楽しみたいよ。

うたへの思いはたくさんあります。

でも、すごい寂しいけどこうして下を向いてる時間はない、

これから先楽しいことばかりでなく、大変な事や、
つらい事があると、ももち先輩もいっていたし、
もうやだなって落ち込む事もあると思うんです。

でも、カントリー・ガールズの中で一番元気な小関はどんな事も乗り越えて、
ポジティブに考えていきたいって今回の事で思えるようになりました!

これからはうたがいない5人で活動していきます!メンバーが1人欠けてもカントリー・ガールズは今までと変わらず、元気にフレッシュにいきたいです!

皆さんはうたがいなくなって心配だと思うのですが、5人でもカントリー・ガールズはいいな!って思ってもらえるように精一杯頑張ります!
小関舞|カントリー・ガールズオフィシャルブログ Powered by Ameba

放送作家の相沢直氏は、Twitterで「うたちゃんに対してのメンバーのブログが、大好きだった友だちが転校しちゃうときに送る手紙のようだ。」と語った。

そうだ、うたちゃんは、1年生の1学期にだけいた、都会から転校して来た女の子だったのだ。両親の仕事の都合で引っ越しばかりしていて、やっとできた友達とも離れ離れになってしまったのだ。でもきっとこの広い空の下、どこかで愛おしくって忘れられない友達を思いながら「ごめんね」と呟いているのだ。

考えてみれば、我々が「うたちゃんフィーバー」で盛り上がったのも、うたちゃんのあまりに儚げな佇まいが、いつかどこかへ行ってしまうことを予感させるものだったからかもしれない。

しかし、それでも弱冠13歳でこんなブログを書いて前へ進もうとしている小関舞の決意を見て、応援しようと思わないものはいないだろう。

2学期以降、グループの結束がどんな方向の魅力に育っていくか、見守り続けたい。きっと大丈夫。嗣永桃子の天性、山木梨沙の知性、稲場愛香のアイドル性、森戸知沙希の経験、そして小関舞の明るさにカントリー・ガールズの未来を見た。

(文=宮元 望太郎)

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