美しい自然と都市機能を兼ね備える福岡。九州随一の美食の街としても有名だが、訪れるべき名作建築も多数存在する。本記事では、藤本壮介による「太宰府天満宮 仮殿」やモダニズム建築など、福岡のアイコニックな20の建築をピックアップ。次の旅行はカメラを持って建築めぐりを楽しんでみては?
ホテル イル・パラッツォ/福岡市・中央区
国内初のデザインホテルとして1989年に開業した「ホテル イル・パラッツォ」は、設計をアルド・ロッシ、ディレクションとインテリアデザインを内田繁が手掛けた伝説のホテルだ。エットーレ・ソットサス、ガエターノ・ペッシェ、倉俣史朗、三橋いく代、田中一光など、世界的なクリエイターが参画したことで当時、注目を集めた。2023年に34年の時を経て復活。オリジナルのテーマと理念を継承しながら現代的な価値を新たに加えて蘇った。
<写真>当時のデザインを踏襲した外観。ロッシは教会や日本の仏教、寺院などから着想を得てデザインした。
かつてディスコがあった地下は130席のラウンジに生まれ変わった。ここでは朝食からディナーまでブッフェスタイルを中心とした食事を提供している。正面の黄金の棚は当時のアルド・ロッシがデザインしたバーから移築したもので、中心に置かれた水面は内田繁のインスタレーション作品《ダンシング・ウォーター》。
客室は、2階にテラス付きの部屋を新設した全77室を用意。室内はシンプルで洗練された空間で、当時のデザインと配色から再構築した新しい家具が際立つよう計算されている。館内にはこのほか、内田繁とアルド・ロッシによる作品が点在しており、洗練された空間づくりを堪能することができる。
ホテル イル・パラッツォ
福岡県福岡市中央区春吉3-13-1
公式サイト
福岡城跡/福岡市・中央区
関ヶ原の戦いで功績をあげ、福岡藩初代藩主となった黒田長政は、豊かな城下町を展開するため旧那珂郡警固村(現舞鶴公園)に1601年から7年の歳月をかけて「福岡城」を築城した。堅固な石垣が特徴の平山城で、東西1km、南北700m、内郭面積約41万平方メートルという広さは全国でも有数の規模を誇る。現存する建造物は少ないが、石垣や縄張りがほぼ当時のまま残されていることから国の史跡に指定された。
現在は「舞鶴公園」として整備されており、園内に城跡と併せて「鴻臚館跡展示館」や「三の丸広場」、「福岡城むかし探訪館」を備えることで、福岡の歴史や文化を伝えている。
また、春には「福岡城 さくらまつり」が開催される。昼には花見やBBQが楽しめるだけでなく、夜は特別な演出を施した桜のライトアップが点灯し、毎年多くの人を魅了している。
福岡城跡
福岡県福岡市中央区城内1
公式サイト
福岡市美術館/福岡市・中央区
大濠公園の中に位置する「福岡市美術館」は、前川國男の設計により1979年に開館。重要文化財を含む茶道具や仏教美術をはじめ、九州出身の近代洋画家、ミロ、ダリ、ウォーホルをはじめとする20世紀の作家の作品から現代美術作品まで約16000点の多彩なコレクションを有する。
建物は磁器質タイルが施された赤茶色の外壁が特徴。広場とロビーを中心に展示室等を配置するという独自の空間構成がなされている。
どのエリアに行くにもロビーを通らなくてはならないという動線には「展示室に入って作品を見る前にこの広い空間を通ることで、自らが日常から切り離され、これから芸術体験をするための準備をするため」という前川の意図が込められている。
2016年からは約2年半にわたる長期リニューアル工事を実施。前川が残したデザインを尊重しながら各設備・エリアを拡充し、大濠公園につながるアプローチを設けることでより街に開かれた美術館となった。
福岡市美術館
福岡県福岡市中央区大濠公園1-6
公式サイト
ボタニカルライフスクエア/福岡市・中央区
2023年3月、福岡市植物園の芝生広場にオープンした「ボタニカルライフスクエア」は、花で共創のまちづくりを進める福岡市の取り組み「一人一花運動」の拠点となる施設だ。豊かな植物に囲まれたロケーションを生かした空間のなかでイベントやセミナーなどを開催できるホールやサロンがあり、花や緑のあるライフスタイルの発見、発想、発信を生み出すことに活用されている。
〈写真〉屋上を緑化することにより周辺のランドスケープとの一体感を表現している。
建物はガラスを多用した開放的な空間。外からはホールでの活動を見ることができ、内部からは自然が感じられるようになっている。天井には県産材、国産材を採用し、リズミカルな木組みが目を引く。施設内では100人を収容できるホールのほか、花や緑の魅力を体感しながら休憩や読書などを楽しめるサロン(写真)、広場とつながる屋外のテラスホワイエを備える。
ボタニカルライフスクエア
福岡県福岡市中央区小笹5-1-1
公式サイト
福岡タワー/福岡市・早良区
1989年に福岡市政100周年のシンボルとして建設された「福岡タワー」。高さ234mで海浜タワーとしては日本一を誇る。外観は三角柱の形状で、壁面8000枚のハーフミラーが近未来的な雰囲気を漂わせている。季節の行事をモチーフにしたイルミネーションも人気で、観光スポットとして親しまれている。開業30周年を迎えた2019年には全面改装が行われた。
地上123mにある最上階の展望室では、福岡の街や博多湾の景色を360度一望でき、「夜景100選」にも選ばれている。リニューアルに際して、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といった先端技術を導入し、より非日常的な体験を楽しめるようになった。展望3階では、夜になると床が星空のようになる「スカイ イルミネーション」を実施。絶景と融合した幻想的な空間はフォトスポットに最適だ。
福岡タワー
福岡県福岡市早良区百道浜2-3-26
公式サイト
世界の建築家通り/福岡市・早良区
1989年に開催された「アジア太平洋博覧会」(通称「よかトピア」)を契機に発展した早良区の百道浜エリア。「世界の建築家通り」と呼ばれる一角には、ポストモダニズムを代表する7人の建築家によるユニークな建築が建ち並んでいる。
よかトピア通りとの交差点に建つのが、クリスタルタワーが目を引く黒川紀章による「福岡インターナショナルスクール別館」とアメリカの建築家マイケル・グレイブスが手掛けた朱色のマンション「ネクサス百道Mビル」。その隣にスタンリー・タイガーマンが設計した「ネクサス百道Sビル」がある。
このほか、立方体の枠組みを重ね合わせたファサードが特徴の葉祥栄による「シーサイドももちサウスシーショアビル」、角地の形状を活用した木島安史による「ベガ」、出江寛による「シーサイドももちアルティコートA館」、美川淳而・鮎川透による「シーサイドももちアルティコートB館」で構成されている。
それぞれに独創的なデザインが見られるが、不思議と街並みとしての一体感が美しい形で完成しており、デザイン・建築好きが訪れるスポットとなっている。
世界の建築家通り
福岡県福岡市早良区百道浜3
福岡市博物館/福岡市・早良区
福岡県はユーラシア大陸と朝鮮半島に近接し、古来より大陸との交流を盛んに行い、新しい文化に最初に触れ、発展してきた。1990年に開館した「福岡市博物館」は、福岡県の歴史や民俗を研究する博物館だ。開館前には、1989年のアジア太平洋博覧会のテーマ館として使用された。
コレクションは金印「漢委奴国王」、天下三名槍の一つ「日本号」など、福岡や黒田家に関連する歴史的資料を中心としており、現代の収蔵品では、現存する日本最古の国産自動車であるアロー号を動態保存している。
〈写真〉広さ2000平方メートルの池に向かって建つ「福岡市博物館」。水面にはハーフミラーで覆われた本施設が映し出されている。
館内には、「FUKUOKA アジアに生きた都市と人びと」をテーマに、福岡の特色ある歴史と人びとの暮らしを11のコーナーを通して紹介する常設展示がある。「体験学習室(みたいけんラボ)」では、アジア各地のおもちゃや楽器、衣服、生活の道具などを備えており、子どもも大人も楽しみながら歴史や文化に触れることができる。
福岡市博物館
福岡県福岡市早良区百道浜3-1-1
公式サイト
福岡アイランドシティ中央公園体験学習施設「ぐりんぐりん」/福岡市・東区
博多湾に浮かぶ人工島「福岡アイランドシティ」にある「アイランドシティ中央公園」のセンター施設「ぐりんぐりん」は、花とみどりをテーマとする体験学習施設だ。伊東豊雄が手掛けたこの建築は有機的なフォルムと屋根に開けられた大きな孔が特徴で、緩やかな曲線が公園の自然と調和している。
内部は3つのスペースで分けられている。北ブロックは緑に囲まれたフリースペースで、中央ブロック(写真)は亜熱帯マレーシアの植生を再現した亜熱帯・熱帯を観察でき、南ブロックは水生生物の観察ができる展示コーナーに加えてワークショップルームを備える。
有料の中央ブロックと南ブロックには屋上の遊歩道へとつながるスロープが。屋上は公園の修景池やアイランドシティの街並みを見渡すことができる気持ちの良いスペースとなっている。
公園内にはフォーリーと呼ばれる個性的なオブジェが点在するほか、カラフルな遊具や広場、ウッドデッキなどがあり、子どもが思い切り遊べるスペースが充実している。
福岡アイランドシティ中央公園体験学習施設「ぐりんぐりん」
福岡県福岡市東区香椎照葉4-1
公式サイト
アクロス福岡/福岡市・中央区
九州最大の繁華街である天神エリアに位置する「アクロス福岡」は、賑やかな街の中に突如として現れる山のような建築だ。本施設は、基本構想を日本設計と竹中工務店、アルゼンチンの建築家・エミリオ・バースが、設計を日本設計と竹中工務店が手掛け1995年に開業した公民複合施設で、隣接する天神中央公園から自然がつながるユニークな外観が特徴だ。全面緑化された外壁は階段状になっており、当初は76種類・約37,000本もの植物が植えられた。現在は約200種に増え、その生態系が広がっているという。
〈写真〉外壁のステップガーデンは見た目にも美しいだけでなく、地元の生物多様性を促し、都市熱を緩和する機能を持つ。
地下2階から地上12階までを貫く巨大なアトリウムによって明るく開放的な空間が広がる内部。クラシック専用の「福岡シンフォニーホール」をはじめ、国際会議場やイベントホールなどの多目的ホール、ショップやレストランといった店舗、オフィスなど多様な施設が備わる。
アクロス福岡
福岡県福岡市中央区天神1-1-1
公式サイト