有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。
自身はTHE 師走という感じの状況です。有機合成化学協会誌を見ながら仕事をしています。
今月号のキーワードは、「パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:有機合成化学と光化学
今月号の巻頭言は、広島大学大学院先進理工系科学研究科 石谷 治 特任教授による寄稿記事です。まさに来年度は光化学討論会に参加させてもらいたいと思っていました。みなさんもぜひ記事をお読みください。
追悼:櫻井英樹先生を偲んで
今月号は、本年7月17日にご逝去された櫻井英樹先生の追悼記事があります。静岡大学の坂本健吉先生による寄稿記事です。櫻井先生の化学は非常に幅広く、関わっていない有機合成化学者はいないんじゃないでしょうか。ご冥福をお祈りします。ぜひ記事をご覧ください。
パラジウム–ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒を用いるインドールのC3位選択的アリール化と含窒素多環式化合物合成への展開
「配位子で反応位置を制御する」
配向基に頼らず,触媒によって反応位置を制御する手法は,新しい触媒反応開発において現在最も重要な課題のひとつです。筆者らは,基質捕捉能を有する独自のリン配位子を有するPd触媒を用いて,インドールのアリール化における反応位置制御に成功し,生理活性化合物の合成に有用な分子変換を報告しています。
元素多様化を基盤とした生物活性化合物の創製研究 -創薬化学における新しい多元素ケミカルスペースの開拓-
本論文は創薬でこれまであまり着目されていなかったケイ素、ゲルマニウム、リン、ホウ素クラスター、フェロセンなどで既存の官能基を変換し性質や活性を解析することで、新たな分子設計に示唆を与えるものである。発展途上の分野ではあるものの、だからこそ今後医薬品開発(特に低分子創薬)の大きなブレイクスルーになる可能性を秘めている。
縮環型天然物の全合成
筆者らの行った縮環式天然物アプリシアセコステロール類及びネモロソノール類の全合成研究がまとめられています。合成研究で直面した環構造の歪み等に起因した望む構造変換に対する問題と、著者らの工夫が丁寧に記述されています。
有機ホウ素化合物のルイス酸性を活用する求電子的シアノ化
形式的に「CN+」として機能する求電子的シアノ化剤とホウ素系ルイス酸触媒,あるいは有機ホウ素反応剤との作用に着目した清川先生の独創的な研究成果です。従来の「CN–」では達成困難なシアノ化反応群が,そのデザインとともに明快にまとめられています。
基質支配に基づく新規ペプチド結合形成反応および無保護アミノ酸を使用したオリゴペプチド合成
本総合論文は無保護アミノ酸を用いたオリゴペプチド合成法の開発について紹介されています。本合成法の重要中間体である「シラサイクリックジペプチド」の合成法と反応性について、着想点と工夫された経緯が詳細に論述されており、大変興味深い内容です。保護と脱保護を繰り返す従来のペプチド合成法からの大転換に繋がる技術ですので、是非ご一読下さい。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。
・三置換ヒドロキシルアミン合成の最近の進展 (神戸薬科大学薬品化学研究室)山田孝博
感動の瞬間:一筆書きの化学とタイムエコノミー
今月号の感動の瞬間は、東北大学大学院理学研究科化学専攻の 林 雄二郎 教授による寄稿記事です。新たな概念を言葉として提案できることの凄さ、また素晴らしさが伝わってきます。必読です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。