「主食はどん兵衛」「母の医療費と弟の学費…」 ファッション誌の着回しコーデが貧乏すぎ? 狙いを聞いた

    支出を切り詰めた生活を送る。

    光文社が刊行している女性ファッション誌「CLASSY.(クラッシィ)」

    同誌4月号の特集「GUでトレンドお試しの3月着回しDiary」がネット上で話題になっている。

    「主食はどん兵衛」「母の治療費、弟の学費」…設定が貧乏すぎる?

    1カ月着回しコーディネイトは、上下数着の洋服と数点の小物の組み合わせの工夫を提案する、女性ファッション誌の名物企画。モデルが演じる架空の人物は高価なディナーを楽しむなど「リア充」の設定がほとんどだ。

    そこに登場するモデルの設定が「貧乏すぎる」と話題を呼んでいるのだ。

    今回登場するのはデザイン事務所に勤めるグラフィックデザイナーの陣野薫子(29)。プロフィール欄にはこうある。

    「一見オシャレではあるが、入院中の母の治療費や弟の学費を負担しているため、支出を切り詰めた生活を送る。6畳一間のアパート暮らしで主食はどん兵衛。玉の輿に乗るという密かな願いを胸に秘める29歳」

    これに対し、「生々しい…」「コーデどころの話じゃない!」という声が上がった。

    なぜここまでリアリティがある設定なのか? BuzzFeed Newsは意図を聞くために、CLASSY.編集部を訪れた。

    貧乏設定の狙いを聞く

    今泉祐二編集長が答える。

    「まず、今月はどのようなコーディネイト特集を組むか、ベースとなるお題を決めるんです。それで『今回はGUでいこう』と決まりました」

    ※GU=UNIQLOなどを展開するファーストリテイリング社のブランドのひとつ

    「GUは低価格ながらもクオリティの高い服。それをどのような人が求めて買うのだろうかを考えた上で、『緊急でお金を貯めないといけない人』という設定にしたんです」

    また、そこにはファッション業界の変化も反映されているという。

    「服にお金をかける人は確実に少なくなっています。他誌では『GUでよくない?』という特集も組まれるくらい。そういう、いまの女性たちのファッションに対する感覚は意識していますね。数年前だったら絶対にやらない特集ですね」

    あのドラマのオマージュ?

    今回の着回しコーデのストーリーはドラマ「やまとなでしこ」がヒントになっているという。

    2000年に松嶋菜々子さん、堤真一さん主演で放送された同作。

    客室乗務員の神野桜子(松嶋菜々子)は、類まれな美貌を持つが、貧しい漁師の家に生まれた過去から、玉の輿に乗るべく、合コンに情熱を燃やす。

    そんな彼女に目の前に、金持ちの医者である中原欧介(堤真一)が登場する。しかし、欧介はウソをついていた。本当の彼は、小さな魚屋だったのだ。

    今回の着回しコーデに登場する薫子も、お金に困っており、玉の輿を狙っている。そこに登場した洋介は医者と自称していたが、実は売れない画家だったのだ。

    これだけじゃない! 斜め上の1カ月コーデ

    さて、今回のような“斜め上”の設定の着回しコーデは初めてではない。しかし、どれも狙いがあるものなのだ。

    役作りのために10キロ太る下北沢の劇団員

    昨年6月号では、劇団「のぞみ」に所属する31歳の女優の卵が主人公だった。初主演作の役作りのために体重10キロ増やさなくてはいけないという設定だ。

    このときの特集のテーマは「スタイルアップ」。太らないといけない劇団員を主人公にして、ロングジレなどで“太っても体型をカバーできる”着回しテクニックを紹介した。

    え、刑事がモデル!?

    2011年3月号では「美人系パンツ8で3月の着回しDiary」とし、パンツスタイルのコーデを紹介した。モデルの設定は刑事だ。

    「毎日パンツを履く人って誰だろうって考えたとき、営業職など外回りの人たちが思い浮かんだんですけど、それじゃ普通でつまらないなって。それで女性刑事にしました」と今泉さん。

    埠頭に劇用車のパトカーを用意して撮影する徹底ぶりをみせた。牛乳とあんぱんを片手に張り込みをする刑事でパンツコーデを紹介。

    「妊娠しているかも…」から始まる1カ月コーデ

    2016年9月号はモデルが「妊娠しているかも…」というところから始まるコーデだった。

    「このときの特集のお題は『ぺたんこ靴』。妊婦さんは負担がかかってヒール靴を避けがち。だから、妊娠した女性をモデルにしようと思ったんです。結果、想像妊娠だったんですけれどね」

    着回しコーデの担当編集は毎号持ち回りで変わる。その編集者によって、得意なジャンルがあるので、多岐に渡ったストーリーが出てくるのだ。

    普通のOLの場合もあるが、どこまで凝るかも担当編集次第になってくる。

    今泉さんはこう話す。

    「決して登場人物ありきで構成は考えていません。この特集だったら、このような人物がいいんじゃないかと“お題”があった上で登場人物は考えています」

    「『現実じゃこんなのありえない』とツッコミどころを作っています。なので、とにかくストーリーを読んでもらって、紹介した商品については後からふと思い出す程度でいいかなと」

    ネット上の反応については、「大変うれしいです。みなさん細かいところまでしっかり読んでくれているんだなって」と話す。

    今後はどのような着回しコーデが?

    最後に今後はどのような着回しコーデを考えているのかを聞いた。

    「そうですね。『1年間着回しコーデ』とか大河ドラマみたいに長尺のものを作ってみてもおもしろいかもしれないですね。あとは人気があった回の設定はそのままに、続編を作ってみたりとか」

    デジタル版での展開はないのか? という問いには「分量が多いのでスマホで読むことを考えると向かないんですよね。あと、大きく見せたいキメのカットもあるのでレイアウトのことなどを考えると雑誌ならではのコンテンツなのです」と話す。


    “こだわりすぎる”着回しコーデには、作り手の「思い」と「戦略」があったのだ。