日本会議 「改憲」への高揚感
参院選の与党圧勝をうけて、安倍政権に近い保守団体「日本会議」は、見解を発表した。
国民の間の憲法改正への理解が表れた結果であると受け止めている。
安倍首相は選挙戦の最初から、最後まで街頭で憲法改正にはほぼ触れずに争点化を避け、選挙の争点を「アベノミクス」に絞っていたのだが……。それでも、彼らの悲願である、改憲に向けて条件は整った。
日本会議のトップは何を語るのか?
この選挙を日本会議はどうみているのか。7月13日、東京・有楽町、外国特派員協会で日本会議会長、田久保忠衛さんが語った。田久保さんは時事通信記者を経て、杏林大学教授などを務めた保守派の論客だ。
日本会議のトップが何を語るのか。特派員を中心に国内外のメディアが駆けつけ、会場は埋まった。
田久保さんは、こんな見方を披露して、会見を始めた。
安倍晋三首相は「真ん中」
「これまで日本は国家としてエクストリームレフト(極左)だった。それを普通の国、真ん中に持っていこうとしている。『普通の国』実現に着手し、次々と手を打ってきたのはたった1人… 」
「安倍晋三です」。
2015年9月時点、安倍首相は「日本会議国会議員懇談会」特別顧問に名を連ねている(朝日新聞)。田久保さんは安倍首相の立脚点に理解を求める。
「安倍は真ん中から右にシフトしたナショナリストではない。真ん中に持ってこようとした唯一の政治家だ」と繰り返す。改憲には当然ながら賛成で、護憲派の言い分は「中国に似ている」と切り捨てた。
「改憲に向けて運動を」
ブルームバーグの記者を皮切りに質問が始まった。先日の選挙で3分の2をとり、憲法改正はどの方向で進むのか。
「私個人は、改憲は絶好のチャンスを迎えたと思っている。私が安倍さんなら、絶対に憲法改正をしたい。日本会議としては、歓迎の声明をだした。いろいろな運動に乗り出していくと思う」
次々と手が上がり、外国人記者の質問が続く。
日本の戦争は間違っていたのか。「間違っている部分もあるし、正しい部分もある。アメリカも間違っている部分があった。どっちもどっちだ」
天皇陛下の平和主義に関する発言をどう思うか。「天皇陛下のご発言は、私はすべて正しいと思っています」
日本の「普通の国」にすべきだということだが、自民党の改憲草案は他の民主主義国家と違う国になるのではないか。
「基本的人権を尊重しないという人は日本ではいない。どこが他の国と違うのか」
トップが答えられなかった「女性」と「子供」
テンポよく、答えていた田久保さんだが、最後の質問だけは答えに窮した。
日本会議の会員のなかで体罰を肯定する人もいる。子供の権利、そして女性の権利についてもどう考えるか教えてほしい。
「いやぁこれは……。お恥ずかしながら、把握しておりません。日本会議は体罰をどうしろと言っているのですか?」と記者に逆質問をする。
記者は、「子供に体罰を受ける権利がある」と主張する「体罰の会」会長の加瀬英明さんの名前をあげる。ちなみに田久保さんは「体罰の会」の顧問だ。
「加瀬くんは日本会議のメンバーですが、体罰については日本会議の見解ではない。個人的な見解を申し上げれば、子供のお尻を叩くくらいの体罰は、やって当然だ」と述べた。
最後の質問であり、時間が迫っていたこともあり、女性の権利についての質問は、答えなかった。
「日本会議の研究」著者はこう見た
ベストセラー「日本会議の研究」の著者、菅野完さんはこの会見をみて、「田久保さんは名前は会長だけど、肝心なことを知らない。日本会議の月刊誌などで重視されている女性や子供の問題について、なぜ知らないのか」と話す。
肝心なこととは何か。菅野さんは日本会議の運動は「子供と女性」の問題が中心にあるとみる。つまり、家族の問題が中心にある。夫婦別姓反対であり、彼らの指摘するところの「急進的なフェミニスト」への反対も、そこが源泉だという。
日本会議の憲法議論をリードする百地章・日本大教授は私のインタビューにこう話している。
「家族を、憲法の中に位置付ける必要があると考えています。家族を保護するのは世界の傾向です。いま憲法には、家族を保護する条項がない」
「祖先以来の家族、歴史、伝統を大切にするというのが、日本人の倫理・道徳観の支えにもなっていると思います。戦前の家族制度には、マイナス面もあったけど、相互扶助や家族同士の助けあいなどいいところもあったんですよ。いまの憲法には伝統的、大切な家族がどこにもない」
9条改正も重視はされているが、すべてではない。彼らの改憲論のうち、田久保さんは9条を中心に語ったが、本当にそれが本命なのか。トップが語ることと、中心部が大事にしていることに、乖離があるようにみえるのだが……。
いずれにせよ、今後、改憲問題が中心に浮上するのは間違いない。
日本会議は、こんな期待も表明している。
各党はこの民意を厳粛に受け止め、速やかに国会の憲法審査会の審議を再開し、改正を前提とした具体的な論議を加速させるべきである。