新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、「日本の健康保険が外国人に悪用される原因」として、民主党政権による医療ツーリズムの強化を指摘する声が広がっている。
この情報は、誤りだ。民主党が「外国人の加入要件を引き下げた」という情報も合わさって広がっているが、これも同様に誤りだ。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。
拡散しているのは、「日本の健康保険が外国人に悪用される原因を作ったのは、これ」というツイートだ。
添付されているテレビのキャプチャには、当時の前原誠司外務相の顔とともに、「医療観光を強化する方針を閣議決定」とのテロップが確認できる。
1月25日のツイートは1万8000件以上リツイート、2万以上いいねされるなど拡散。
「また民主党ですか。一体どれ程の悪行を働いたのか」「そのままにしてる現政権にも責任がある」などのリプライが寄せられている。
この情報は、誤りだ。日本で医療ツーリズムの強化が本格化したきっかけは、2010年6月の鳩山由紀夫政権が閣議決定した「新成長戦略」にあることには間違いはない。
これを受け翌2011年1月に導入された「医療滞在ビザ」による治療は、国民健康保険制度の対象外で、全額自己負担だ。「健康保険を悪用する原因」になるということは、誤りであるといえる。
観光庁観光資源課はBuzzFeed Newsの取材に対し、「医療ツーリズムは、医療滞在ビザなど正規の手続きで日本で訪れていただき、人間ドックや高度な検診を受けていただくことを念頭に置いているものです。健康保険との悪用と関係するものではありません」と語る。
民主党が「加入要件を引き下げた」も誤り
この情報と同様に、「民主党政権が国民健康保険の外国人加入要件を引き下げた」という情報も拡散しているが、これも誤りだ。
そもそも、日本の国民健康保険制度を、外国籍の人が利用できるようになったのは、1986年以降のこと。中曽根政権時代に、国民健康保険法の施行規則で「国籍要件」が廃止されてからだ。これで、日本に一定の資格で入国し、生活したり働いたりしている外国人の国保加入が可能になった。
その後、麻生政権時代の2009年7月に改正住民基本台帳法が成立し、3カ月以上滞在している外国人も住民登録が必要になった。この直後の9月に政権交代があったため、改正法の施行は、2012年7月の民主党の野田政権下になっている。
国民健康保険法は「住所を有するものは、国民健康保険の被保険者とする」と定めているため、これに合わせ、外国人の国保加入要件における滞在期間が「1年以上」から、住民登録が必要となる「3カ月以上」に変更された。
以上のことから、民主党政権が要件を引き下げたとは言えないことがわかるだろう。
なお、厚労省の資料によると、国民健康保険の全被保険者2945万人のうち、外国人は99万人で、全体の3.4%だった。また、総医療費9兆6478億円(2017年3月~2018年2月診療分)のうち、外国人は961億円で、全体の1%にも満たなかった。
留学ビザなどの「悪用」の実態は?
観光客による不正を心配する声もあるが、そもそも現行の制度において、外国籍の人に対して国民健康保険の加入と保険料の支払いが義務付けられるのは原則、適切な在留資格を持ち、日本に3カ月以上滞在する場合となる。
在留期間が3カ月以下の人、在留資格が「短期滞在」の人などは、国民健康保険に加入することができず、医療費は全額自己負担になる。
では、留学ビザなどの「悪用」はどうか。外国人による国民健康保険の不正利用に関しては、厚労省が2017年に全国で実態調査を実施。
「身分や活動目的を偽って、あたかも在留資格のいずれかに該当するかのごとく偽装して不正に日本に在留し、国民健康保険に加入して高額な医療サービスを受け」たと言い切れる事例は「ほぼ確認されなかった」と発表している。
NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」が、その内訳を厚労省に聞き取ったところ、「不正な在留資格による給付である可能性が残るもの」が2人、ほかに出国により確認できなかったものが5人だったといい、不正が相次いでいるとは言いがたい状況だ。
さらに2018年1月には、厚労省と法務省が連携して、在留資格の滞在目的とは違う活動をしている可能性がある場合に、市町村が地方入国管理局へ通知する体制を運用し始めた。しかし、同年1~5月までの間に地方入管へ通知があった事例は2件にとどまり、いずれも調査の結果、在留資格の取り消しには至らなかった。
移住連は、厚労省の全国調査に対して、「この調査は、省庁という公的機関による、外国人に対する差別や偏見の助長というだけでなく、国保資格をもつ外国人がその制度の利用を控えるといった萎縮効果を生む恐れがあります」と抗議している。
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