日常的に「ホモネタ」が飛び交う教室。教師たちは見て見ぬふりどころか、自らも差別発言を繰り返す。学校でのLGBTに対する差別の実態を、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が調査し、報告書にまとめた。HRW調査員のカイル・ナイトさんは5月6日に都内で記者会見し、「LGBTについて学ぶことを義務にしなければ、何も変わらない」と話した。
HRWは2015年8月〜12月にかけて、LGBTの若者たち50人と、教師や専門家ら50人にインタビュー。その内容をまとめた。学校現場の現状をこう批判する。
「嫌悪に満ちた反LGBTの言葉が、日本の学校のほとんどどこにでも存在し、LGBTの生徒を沈黙、自己嫌悪、時には自傷に追い込んでいる」
日本の特徴は、LGBTの存在が「まるで見えないかのように世間で扱われている」ことだという。
当事者の発言を、報告書から引用する。
「中学校では周りの生徒からLGBTを馬鹿にする冗談をたくさん聞かされました」「周りの人はみな、LGBTの人びとは物笑いの種にしても構わないと思っているのだと考えていました」(キヨコ・Nさん、20歳)
たとえ発言が自分に直接向けられたものではなくても、当事者は傷つく。その思いを誰にも告げられず、人知れず苦しみながら学校生活を送っている。
ひとたび周囲の目にとまると、過酷な扱いを受けるケースもある。
高校生だったオサム・Iさんは、「LGBTが身近にいると知れば、ひどいことを言わなくなるんじゃないか」と考え、自分がゲイだとカミングアウトした。
しかし学校からは「風紀を乱した」と叱責された。
ある教師は「お前の隣にいるだけで俺までホモだと思われる」と言ってきた。
同級生にツイッターで罵られ、着替え時に出ていけと言われ、体育の授業では蹴られたり、ボールを投げつけられたという。
同調圧力
報告書のタイトルは「出る杭は打たれる」。このフレーズに日本の学校現場にある問題点の多くが表れていると、ナイトさんは言う。
「出る杭は打たれる」ということわざがあります。みんな同じでなければいけないという意味です。ありのままの僕では受け入れてもらえませんでした。すごく傷つきましたし、とても、とても辛かったです。(トシロウ・Yさん・17歳)
学校の教育方針に沿って、男らしく、女らしく、生きることを強いられる。そして、それに合わせられない人間は「わがまま」だとして、排除されてしまう。
「制服」というハードル
報告書は「トランスジェンダーとジェンダーに不一致な子どもへの対応が、日本では特に遅れている」と指摘する。
その象徴が、中学・高校の多くが「制服」の着用を義務付けていることだ。
「中3の頃には学校に行くのが毎日嫌でした。スカートをはかなければならなくなるからです」(タケシ・Oさん)
「高校生になると一日中スカートの制服を着なければならなくなり、結局退学してしまいました」(ナツオ・Zさん・18歳)
「学校は医療診断を求めることなく、生徒自らが宣言するジェンダー・アイデンティティのまま、生徒を受け入れるべきだ」と、報告書は提言する。
学ぼうとしない教師
HRWの調査に協力した大学1年生のA.Kさんに、BuzzFeed Newsは記者会見場で話を聞いた。
レズビアンのA.Kさんは高校時代、教師から「結婚して子どもを産むのが女性として自然な姿」「同性愛者は、人間として不自然」だと告げられた。A.Kさんは「人として欠陥品だ」と言われた気がして動揺し、泣いてしまった。
また、スピーチコンテストのために同性愛者の人権についての作文を書いたところ、教師から「書き直せ」と言われたこともある。「地域の人から気持ち悪い学校だと思われる」というのが、その理由だったそうだ。
「先生は『同性愛者は気持ち悪い』を大前提に、話をしていました」
後日、A.Kさんが同性愛者であることをそれとなく告げたところ、その教師は「悪かったな」と謝罪してきた。しかしその後も、LGBTについて学ぼうとする様子はなかったという。
「運しだい」
報告書でも、現場の先生が柔軟な対応をしてくれたというケースは紹介されている。しかし、それはあくまでその場合にそうだった、ということにとどまる。
LGBTの児童生徒が、自分のセクシュアリティについてうち明けようと思っても、現状では「自分の運にかけるしかない」。たまたま教師に理解があれば、個別的な対応をしてくれることもある。しかし、そうでなければ……。
報告書は、問題解決のためには、場当たり的な対応ではなく、構造的な対処が必要だとする。そのためには国がいじめ防止対策推進法を見直し、「LGBTなど弱い立場にある生徒のカテゴリーを特定し、それを明記することが必要だ」と指摘する。
カイルさんは記者会見の質疑応答で、LGBTへの差別を解消するために一番大事なのは、教師に正確な情報を与えること。さらに、教育カリキュラムにLGBTの話題を加えることで、生徒が科学的・中立的な情報を得られるようにすることだと強調していた。