新型コロナウイルスの感染が拡大し、7都府県に緊急事態宣言が出されて「不要不急の外出」の自粛が強く要請された。
しかし、こうした自粛要請を受けてもなお、外出を控えていない中学生・高校生らが一部にいる。
「コロナで死にたい」とさえ口走っているという10代に、何が起きているのか。
家庭環境などに悩む子どもたちを支援している認定NPO法人「3keys」代表の森山誉恵さんに話を聞いた。
「コロナにかかれば逃げられる」
「3keys」は、虐待や貧困などの家庭で育った子どもたちへの学習支援事業や、オンラインでの情報提供、相談・啓発事業などをしている。
もともと虐待に関する相談や検索は多かったが、小中高校が休校となり、外出自粛を要請されてからも、10代の相談内容の傾向には大きな変化はない、と森山さんは感じているという。
「妊娠したかもしれないという相談や、恋人関係の相談は、相変わらず多くあります。家にいたくない子は、友達や恋人と遊んだりしているようです」
「死にたいとずっと感じていて、別に死んだっていい、という子もいます。コロナにかかれば、抱えている問題から逃れられる。『コロナで死にたい』という声さえ聞こえてきます」
大人に大切にされた経験がないのに
若者は、感染しても重症化のリスクが低いうえ、行動範囲が広いため、感染を広げる可能性があるということは、国の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」でも指摘されている。
テレビの情報番組などでは、東京・渋谷の繁華街を出歩く若者たちが「不要不急の外出」の象徴としてたびたび取り上げられる。
外出を自粛していない同級生と密閉空間で過ごすことを恐れ、高校生が休校の延長を求める署名活動を始めるなど、生徒間での温度差も生まれている。
感染経路が特定できない感染者が増えている今、外出が大きなリスクを伴うのは事実だ。
だが、そうやって出歩いている子どもの一部が、深刻な暴力や貧困にさらされ、居場所がないという事情を抱えていることには目を向けられているだろうか。
森山さんは言う。
「『高齢者や周りの人の命を大切にしよう』という呼びかけがされていますが、大人に大切にされた経験がなく、さんざん傷つけられてきた子どもたちには響きにくいです」
「自己肯定感が非常に低い子たちにとっては、自分の命でさえ、ましてや他の人の命を大切にするという感覚をリアルにもつことが、とても難しいのです」
居場所がどこにもなくなった
全国の小中高校に一斉の臨時休校が要請された後、3keysはサイト上で、中高生が無料で過ごせる場所を紹介していた。
だが、公共施設や地域のNPOが運営する施設などが軒並み休館となり、紹介できる居場所がなくなってしまった。
「実際に利用は多くないとしても、大人はあなたたちの居場所をつくる努力をしているよ、というメッセージを伝えたい」と、東京・新宿の3keysの事務所の感染対策をしたうえで、3月9日から無料で臨時開放することにした。
ところが、Twitterで事務所の開放を伝える投稿をしたところ、一部のTwitterユーザーから「感染拡大を助長するのではないか」という指摘を受けてしまった。
背景まで想像してもらえない
「子どもに届けるための投稿なので、虐待や貧困という直接的な言葉は使っていなかったんです。事情を知らない人からは、空気を読めていない投稿に見えてしまったのかもしれません」
利用する子どもが、虐待や貧困のスティグマ(レッテル貼り)に抵抗を感じないように表現を工夫したら、本来の事情や目的を知らない人から「こんな状況なのに不謹慎だ」と批判されてしまったのだ。
結局、中高生に広く伝えることができないまま、感染拡大の状況を踏まえ、事務所の臨時開放は終了することにした。
両方から守りたい
家にいることで死ぬかもしれない子どもがいる。そうした事情にまで想像が及ぶ人はまだ少ない、と森山さんは言う。
「今は、感染拡大を防ぐことを最優先する時期ですから、外出してもいいとは思いません。ただ、問題を抱えた子どもたちが外出せざるを得ないのは、大人たちが居場所を整備してこなかったからで、そのツケがいま回ってきたともいえます」
「新型コロナウイルスからも、虐待や暴力からも、両方から子どもを守る方法を、大人は考えていかなければならないのではないでしょうか」
3keysでは、こうした問題を抱えている子どもたちに、インターネット上でのアプローチを続けている。
子ども向け啓発動画「ミーのなやみ」は、暴力、いじめ、性被害などを受けている子どもから「自分が悪いから我慢しなければ」「もっとひどい目にあっている人がいるのに」といった声があったため、制作したもの。
虐待や不適切養育(マルトリートメント)を扱った「家族・親戚編」と、デートDVを扱った「恋人・パートナー編」があり、子どもが我慢しなくてもいい行為を具体的に示してある。
「普段から中高生が知りたがっていることで多いのは、親にバレずに人工妊娠中絶をする方法や、性感染症で病院を受診する方法、うつや自殺願望などで精神科を受診する方法です。休校によって時間ができることで、デートDVや望まないセックス、望まない妊娠がこれまで以上に多くなる恐れがあります」
「特に性については学校で教わらないことも多く、どうしていいかわからなかったり、自分が悪いのだと感じてしまったりする傾向があります。虐待や暴力は、どんな理由であれしてはいけないものです。正しい知識を身につけて、自分を責めないようにしてほしいです」
スマホで相談できる
動画に取り上げられた事例と近い悩みがあると感じたら、10代の子ども向け悩み相談サイト「Mex(ミークス)」にワンクリックでアクセスできるようにもなっている。
2016年に東京版がスタートし、翌年に全国版になったMexは、2020年3月に利用者数が100万人を超えた。スマホを使って気軽に悩みを吐き出したり、支援団体の検索・相談ができるポータルサイトだ。
自分の悩みに近い項目を選び、「電話をしたい」「泊まりたい」などのこだわりも選んで検索すると、相談窓口や支援団体が一覧できるようになっている。
「新型コロナウイルスの影響で、学習支援など現場の支援が止まり、子ども食堂などの居場所も稼働していません。子どもの支援は事業者が少なく、地域のボランティアに頼っている面が多いため、外出自粛による打撃を受けやすい分野です」
東日本大震災の翌年の2012年、被災した福島、宮城、岩手3県の児童相談所の児童虐待相談対応件数は、いずれも前年より増えていた。森山さんは、新型コロナウイルスによるストレスや外出自粛によって、同じようなリスクがあることを危惧している。
「長期化すると、支援団体の不足も深刻になるうえに、虐待の事案が増える可能性もあります。児童相談所の受け入れ体制や、緊急避難的なシェルターの準備も進められない状況です」
「まずはインターネットで子どもと大人に啓発をして、少しでも虐待や暴力を防ぐことができればと思っています」
電話だとハードルが高い、ひとりになれる夜に連絡したいなど10代の相談ニーズに応えるため、Mexをより拡充するためのクラウドファンディングを実施している。
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