撮影:Business Insider Japan
メルカリが創業以来、初めて男女の賃金格差を公表した。平均賃金に男女で37.5%の格差があったのに加え、同じ職種・等級(グレード)の男女でも7%の差が生じていたことがわかった。
男女で賃金格差が生じるのは、女性管理職の少なさなど役職の違いによるものだと主張する企業が多い。一方で、同じ職種やグレードにもかかわらず生じる格差は「unexplained gender pay gap」、つまり「説明できない男女格差」と呼ばれ、近年、諸外国で大きく問題視されている。
メルカリの場合、この説明できない格差は、入社後の人事での高評価や昇給機会が男性に偏っていたからではなく、「中途採用時のオファー金額」が原因だったという。一体どういうことなのか? CHROの木下達夫さんと、賃金格差の分析と是正を担当した品川瑶子さん(評価報酬制度企画担当)に聞いた。
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職種や地域に見合った報酬水準を
メルカリCHROの木下達夫さん(左)と、賃金格差の分析と解消を担当した品川瑶子さん(右)。
撮影:竹下郁子
平均賃金に男女で37.5%の差があるということは、女性社員の収入は男性の約6割ということだ。
その要因の「一例」としてメルカリCHROの木下達夫氏は、給与水準が高いエンジニア職に男性が多いこと、また、女性が多い職種であるカスタマーサービスは福岡県など地方に拠点があり、東京基準ではなく現地で競争力がある報酬水準に設定しているためだと説明した。
メルカリの女性管理職比率は20.4%だが、管理職手当を出していないため女性管理職の少なさは平均賃金の差には関係ないとする一方で、「高いグレード(等級)に女性が少なく、課題に思っている」(木下さん)と話す。
国が定める男女の賃金格差の開示義務は、「男性労働者の平均賃金に対する、女性労働者の平均賃金を割合(パーセント)で示す」こと、「全労働者・正規雇用労働者・非正規雇用労働者の区分で公表すること」の2点だが、
「この算出法(平均値)では職種や等級による報酬水準の違いが考慮されず、ミスリードになってしまいます。なのでメルカリではグローバルスタンダードな『重回帰分析』という手法をとりました」(木下さん)
加えて、非正規労働者は数が少ないため、正規雇用者のみを対象に分析したという。
転職前の男女格差を再生産してしまった
提供:メルカリ
この重回帰分析の結果分かったのが、同じ職種・等級にもかかわらず、男女で7%の賃金格差が生じていたことだ。
人事評価で高評価が男性に偏っていたり、男性のほうが昇給率が高いなど、評価報酬制度の運用に問題があったわけではない。
入社時の年収にすでに9%の男女差があり、それが入社後も続いていたのだ。
「メルカリは約95%が中途採用です。面接などで個人の能力を判断して報酬オファーを出していますが、やはりどうしても前職の給与を考慮した金額になります。
女性のほうが賃金が低いという社会的な構造があり、そこを断ち切ることができていなかった。
女性のオファーをわざと低く出そうとする人はいませんが、一般的な転職のプラクティスを取り入れた結果、社会の性差を再生産してしまっていたんです」(品川さん)
一方で、入社時年収にほとんど男女差がない部署もあった。エンジニアだ。
「エンジニアには外国籍の方も多いのですが、インドやシンガポール、アメリカ・シリコンバレーと日本では報酬水準も物価も異なるので、前職給与との比較がそもそもできません。
純粋に技術試験と面接で報酬オファーを出して、『この金額が日本の水準で、我々が採用競合だと考えている日系・外資企業と比べても競合優位性があります』と説明しています。
この方法だと、男女差も生じていなかったことが分かりました」(木下さん)
前職給与を知らないまま報酬オファー作成も
提供:メルカリ
この「説明できない格差」を解消するため、女性社員に対して報酬調整を実施し、7%から2.5%まで差を縮めた。
「統計的に見て男女差が発生しているのなら、女性に対してポジティブアクションを取るべきです。
もともと高い報酬水準で入社された女性もいるので、全女性社員を一律7%賃上げするわけでなく、良い評価を継続して取っている女性を対象に、ベースアップしました」(木下さん)
今後は入社時の男女の賃金格差を解消するため、採用担当者にアンコンシャスバイアス研修を徹底するほか、前職の給与を知らないまま面接して報酬オファーをつくってもらうことなども考えているという。