脱炭素の切り札とも期待され、いま世界中で研究開発が加速している「核融合」。
3月には、イギリスのベンチャーが、民間企業として初めて核融合炉の実現における重要なマイルストーンを達成。4月には米バイデン政権が、今後10年間で商業核融合の研究開発をさらに加速させるとの方針も示した。
そんな中、7月6日、京都大学ベンチャーで、核融合炉の基盤技術の研究開発を進める京都フュージョニアリングが、世界初となる発電試験プラントの建設を進める計画を発表した。
順調に進めば2年後の2024年までに、このプラントを用いて「発電試験」を実施する計画だ。
「世界で研究加速」の中で欠けていたピースを埋める
京都フュージョニアリングが建設する試験プラント「UNITY」のイメージ。
画像:京都フュージョニアリング
核融合炉の研究開発は、フランスで日本も含めた国際的な枠組みである「ITER計画」の実験炉の建設が進められているほか、ここ数年、欧米のベンチャー企業による研究開発が急伸している。民間への投資金額は、世界で数千億円規模にものぼっている。
核融合炉を使って発電するには、「核融合反応を起こすプロセス」と「核融合反応によって生じた熱を発電に生かすプロセス」の2段階が必要だ。
ただ、現状で多くの企業は「核融合反応を起こすプロセス」の実現に注力しており、今回、京都フュージョニアリングが目指す「発電試験」のように、核融合反応を起こしたあとにエネルギーを取り出す「発電プロセス」を実証しようとしている取り組みはほとんどない。
京都フュージョニアリング、事業・マーケティング本部長の世古圭氏も
「核融合の『発電システム』の試験施設はこれまで世界に存在していませんでした。実現しようとしているのも、今のところ我々だけという認識です」
と話す。
つまり、今回発表した「発電試験」は、核融合発電を実現する上で、いままで欠けていたピースを埋める役割を担う。
「今回、『UNITY』(発電を試験するプラント)の建設を発表したことで、ようやくピースが揃いつつあります。世界中から、期待が集まっている状況です」
と、世古氏は今回の計画が核融合業界全体に及ぼす意味の大きさを語る。
「2024年12月に発電の実証を開始」
2021年10月に公開されたFIAとUKAEAの共同レポート内の資料。世界の核融合ベンチャー23社の所在地(注:アメリカは正しくは12社)。日本含め、この他にも世界には核融合ベンチャーがいくつか存在する。
出典:FIA/UKAEA The Global Fusion Industry in 2021
注意して欲しいのは、今回京都フュージョニアリングが建設しようとしているのは、あくまでも「発電プロセス」の試験用プラントであるという点だ。
核融合発電では、「核融合反応」で発生した高エネルギーの中性子が、炉の内側の壁面(ブランケット)に当たることで生じる大量の熱を発電に利用する。ブランケットの内部に冷却用の管(熱交換器)を張り巡らせておき、発生した熱を吸収。タービンを回転させるシステムに熱を移動させることで、発電を実現する。
「(核融合で生じる)1000度近くの熱をハンドリングしながら、核融合の燃料である三重水素※(トリチウム)を取り扱うサイクルはどこもやってきませんでした。この一連のサイクルをすべてやる予定です」(世古氏)
※試験プラントでは、三重水素ではなく、重水素で模擬試験をする計画。
今回の京都フュージョニアリングの計画では、「核融合反応を起点に熱が発生するプロセス」は、模擬的に再現するにとどまる。つまり、実際に核融合反応を起こすわけではない。また、放射性物質なども生じない。
京都フュージョニアリングの計画では、2022年夏ごろにプラント建設を開始し、2023年3月までに液体金属を利用した冷却用のシステム(熱交換器)の構築を目指す。その後、ブランケット内にその熱交換器を組み込んだ形での実証を進め、2024年12月に発電の実証を開始したい考えだ。
世古氏も、「そこは(技術的に)おそらく問題なく実現できると思っています」と自信を見せた。
核融合炉の設備の概要(イメージ)。
画像:京都フュージョニアリング
計画では、発電の実証の後にも、核融合炉の燃料となる三重水素を制御するための「ダイバータ」と呼ばれる装置や、炉内で生じるプラズマを加熱する装置である「ジャイロトロン」といった重要なパーツを取り入れ、統合試験プラントとしてのシステムの構築を目指すとしている。
日本に核融合産業は興るか
今回のプロジェクトは、京都フュージョニアリングはもちろん、重工業系のメーカーをはじめとした10社程度の国内企業と連携して進めていくことになる。
世古氏は、
「日本の有する高度なものづくり力を結集し、日本が世界に先駆けた核融合炉における発電技術を実証することで、国内産業の発展にも貢献できると思っています。これは日本ならではのもので、アメリカでも、イギリスでもできません」
と、世界が注目している核融合産業の中で日本が一定の存在感を示すためにも、非常に重要だと語る。
核融合のように最先端の研究現場で必要とされる技術水準は非常に高い。今回のプロジェクトは、そういった高い技術を持ちながら、これまで(スペックが高すぎて)なかなか製品として販売できなかった国内のものづくりメーカー内で技術を継承するという観点からも意義深い。
「30年前に1度作ったけれども、いままでほとんど作ってこなかったような高度な装置を改めて作ってもらい、それを世界に向けて販売していくようなプロジェクトなんです」(世古氏)
ただ、忘れてはならないのは、核融合発電を実現するには、冒頭で説明した通り「核融合反応を起こすプロセス」と「発生した熱を発電に生かすプロセス」の両輪が揃っている必要があるということだ。
実際に発電に活用できるようなレベルの核融合反応を維持できる核融合炉は、まだ実現に至っていない。そういった意味で、たとえ京都フュージョニアリングの発電実証がうまくいったとしても、核融合炉が本当に世界を救う技術になり得るのかどうかは、まだ実証されたとは言えない。
しかしそれでも、長らく「50年後に実現する技術」と言われ続けていた核融合の研究開発ペースは、ここに来て大きく加速していることは間違いない。
海外の企業の中には、「2020年代後半」に実証炉の稼働を目指しているところもある。
夢の技術と言われてきた核融合発電は、本当に結実するのか。この先数年の間に、大きな山場を迎えそうだ。
(文・三ツ村崇志)