エイリアンは「最近」来ていないだけかも…新研究で指摘

Morgan McFall-Johnsen

Sep 28, 2019, 3:00 PM

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太陽系がある天の川銀河は、1000億個以上の恒星とそれ以上の数の惑星などで構成されている。
太陽系がある天の川銀河は、1000億個以上の恒星とそれ以上の数の惑星などで構成されている。
NASA/JPL-Caltech
  • 人類が住む天の川銀河では、さまざまな恒星系を超えて地球以外の文明広がっている可能性があるとする新たな研究論文が発表された。
  • この研究は、地球外に住む知的生命体との接触の痕跡が見つかっていないことをめぐる「フェルミのパラドックス」に関して、新たな視点を提示するものだ。
  • 論文の著者たちは、「宇宙人は存在しているが、人類とコンタクトを取っていない」という可能性について、さまざまなシナリオを提示している。例えば、宇宙人はかつて地球を訪れたが、人類が気づくようになった「最近」は訪問していない可能性があるというのだ。
  • さらにこの研究では、恒星系を渡り歩こうとする宇宙人は居住可能な恒星系が距離を縮めるタイミングを伺っているのかもしれないという。

天の川銀河には、地球外生命体による多様な文明が満ちあふれている可能性がある。ここ1000万年ほどは宇宙人が地球を訪れていないため、我々がそれに気づいていないだけなのかもしれない。

地球外の知的生命体は、各恒星系の動きを利用した、より負担のかからない形で宇宙を航行しており、時間をかけて天の川銀河の探索を行っている可能性もあるという研究論文が、2019年8月に学術誌『アストロノミカル・ジャーナル』に発表された。

この研究は、「フェルミのパラドックス」という名で知られる疑問に対する、新たな回答と言える。このパラドックスは、地球外文明の存在の可能性が高いと考えられるのにもかかわらず、そのような文明との接触の証拠が存在しないように見えるという矛盾を指す。

このパラドックスはその名の通り、物理学者のエンリコ・フェルミ(Enrico Fermi)が1950年に最初に指摘したものだ。フェルミは「みんな、どこにいるのだろう?」と尋ねたと言われている。

天の川銀河の恒星の位置を測定する欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ガイア」
天の川銀河の恒星の位置を測定する欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ガイア」
ESA

フェルミのこの時の疑問の本題は、恒星間航行は実現可能かということだった。だがその後、地球外生命体の存在自体に対する疑問を突きつけるものへと、意味合いを変えていった。

宇宙物理学者のマイケル・ハート(Michael H. Hart)は1975年、この問題を考察する論文を発表した。ハートは、天の川銀河が形成されてから約136億年が経っており、この間に知的生命体が同銀河を植民地化する時間はふんだんにあったにもかかわらず、そうした働きかけは地球上の記録には残っていないと指摘した。この点からハートは、天の川銀河には人類以外に高度な文明を持つ生命体はいないはずだと結論づけた。

今回発表された研究成果は、この問題に新たな視点を提供するものだ。地球外生命体は、時間をかけ、戦略的に探索を行っているだけかもしれないと、論文の著者たちは考えている。

この研究論文の主著者で、コンピューター科学を専門とするジョナサン・キャロル=ネレンバック(Jonathan Carroll-Nellenback)はBusiness Insiderの取材に対し、以下のようにコメントした。

「恒星の動きを考えに入れないとすると、残された結論は、自らが生まれ育った惑星を離れた生命体はいない、あるいは、この銀河系で高度な技術を持つ文明は我々人類だけ、という2つだけだ」

天の川銀河に属する恒星(と、その周囲を回る惑星と衛星)は、銀河の真ん中を回転軸として、それぞれ異なる軌道と速度で周回している。そのため、時にはある恒星系が、別の恒星系のそばを行き過ぎることがあると、キャロル=ネレンバックは指摘する。そのため、地球外生命体は、探査目標が自分たちに近づくタイミングを待っている可能性があるという。

その場合、宇宙に高度な文明が広まるのに必要な時間は、1970年代にハートが推定したときよりも長くなるだろう。そうであれば、異星人はまだ地球を訪れていないか、あるいは、訪れたとしても人類が今のように進化するはるか以前であった可能性はある。

恒星間航行に関する新たな概念

地球外生命体からの信号を探査する電波望遠鏡施設「アレン・テレスコープ・アレイ」(Allen Telescope Array:ATA)のパラボラアンテナ。
地球外生命体からの信号を探査する電波望遠鏡施設「アレン・テレスコープ・アレイ」(Allen Telescope Array:ATA)のパラボラアンテナ。
SETI Institute

これまでも研究者は、フェルミのパラドックスに対して答えを出そうと、さまざまなアプローチを採用してきた。地球外生命体が、惑星の地表よりも低い海の中で育まれている可能性について調査した研究もあるし、恒星間航行が可能になる前に、文明が存続不可能になって崩壊したという仮説を立てた研究もある。

また、「動物園仮説」と呼ばれる考え方もある。こちらは、天の川銀河内の知的生命体からなる諸社会が、我々人類には干渉しないという取り決めを交わしている、という仮説だ。その理由は、ちょうど人類が、自然保護区を設けたり、外部とのコンタクトがない先住民への保護を実施したりするのと同じことだ。

一方、2018年にオックスフォード大学の研究チームが発表した論文では、天の川銀河内で人類が唯一の知的生命体である確率を40%、さらには、全宇宙で唯一の存在である確率を約33%と見積もっている。

だが、今回発表された研究論文の著者たちは、こうした過去の研究について、天の川銀河に関するある重要な事実を見逃していると指摘する。それは、銀河内で恒星が動いているということだ。恒星の周囲を惑星が回るのと同じように、各恒星系は、銀河の中心を回転軸として回っている。例えば、人類が住む太陽系も、2億3000万年周期で天の川銀河内を周回している。

仮に、知的生命体による文明が、他の文明から遠く離れたところで興隆した場合(銀河内の辺鄙な場所で発生した地球の文明もこれにあたる)、居住可能な恒星系が自分たちに近づいてくるまで待つことで、恒星間航行の距離を短くすることもできると新たな論文は指摘する。異星人は、新たな恒星系に辿り着いたのち、さらに別の恒星系までの航行距離が自分たちにとって最適になるまで待ってから、その恒星系に移るというわけだ。

太陽系に最も近い恒星として知られるプロキシマ・ケンタウリは、地球から約4.25光年の距離にある。
太陽系に最も近い恒星として知られるプロキシマ・ケンタウリは、地球から約4.25光年の距離にある。
ESA/Hubble/NASA

その筋書きでは、地球外生命体は、天の川銀河の中を高速で移動しているわけではない。自らが居住する恒星系が、居住可能な環境を持つ惑星を従えた別の恒星と近づくのを、長い期間かけて待っていることになる。

「この『長い期間』というのが10億年単位であれば、これはフェルミのパラドックスに対する1つの答えになる」と、キャロル=ネレンバックは指摘する。

「居住可能な条件を備えた天体は非常にまれなため、そうした天体が再び航行可能な距離にまで近接する前に、文明は滅びてしまうのかもしれない」

天の川銀河は地球外生命体が住む恒星系で満ちている可能性も

研究チームは、地球外生命体が存在するというシナリオをさらに探求するため、数理モデルを用いて、ある文明が銀河系内に広がる速度をシミュレーションした。その際には、架空の文明から新たな恒星系までの距離、恒星間航行に使われる探査機の種類や速度、さらには探査機の打ち上げ頻度といった様々な要素が勘案された。

宇宙空間を航行するNASAの探査機「ボイジャー」の想像図。「ボイジャー2号」は1977年8月に打ち上げられ、2018年、太陽圏を離脱して恒星間空間に入った。
宇宙空間を航行するNASAの探査機「ボイジャー」の想像図。「ボイジャー2号」は1977年8月に打ち上げられ、2018年、太陽圏を離脱して恒星間空間に入った。
NASA

今回の研究チームは、地球外生命体の動機や、その社会的背景を探ることはしなかった。これらは、フェルミのパラドックス解明の試みにおいて、研究者が陥りがちな罠として指摘されている。「我々はできる限り、(異星人の)社会に関する想定が少なくてすむモデルをつくるように努めた」と、キャロル=ネレンバック氏は述べている。

とはいえ、「地球外文明が銀河系内に伝播する速度」をモデリングする上での問題として、我々の手元にあるデータは1つだけ、すなわち人類のものしかない、という点が挙げられる。すべての推定は、人類の行動に準拠しているのだ。

しかし、こうした制約の下でも、今回の研究は、天の川銀河が、人類がまだ知らない、生命体の住む恒星系で満ちている可能性があることを明らかにした。地球外生命体が用いる恒星間航行の速度および頻度について、かなり悲観的な推計を用いても、この可能性には現実味があるという。

「すべての恒星系は、生命体が居住可能で、実際に住んでいる可能性もある。だが、彼らが地球を訪れないのは、距離が遠すぎるからかもしれない」と、キャロル=ネレンバック氏は指摘する。その上で同氏は、この仮説が現実である可能性はあるとはいえ、その確率が高いと言うわけではないと釘を刺した。

地球型惑星と一口に言っても、その大きさや組成はさまざまだ。
地球型惑星と一口に言っても、その大きさや組成はさまざまだ。
NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC-Caltech)

現時点で観測されている太陽系外惑星は約4000個にのぼるが、生命体の存在が確認されたものは1つもない。とはいえ、探索活動はまだまだ不十分だ。太陽系が属する天の川銀河だけでも、少なくとも1000億個の恒星が存在するとされており、惑星の数はさらに多いとみられる。最近の研究では、こうした惑星のうち、地球型である可能性があるものは、最大100億個に達すると推計しているものもある。

そのため、今回の研究論文の著者たちは、これらの惑星にまったく生命体が存在しないと結論づけるのは、海洋のほんの一部を探索して、イルカがなかったことを根拠に、海洋全体にイルカがいないと決めてかかるようなものだと書いている。

地球外生命体が、過去に地球を訪れているかも

地球外生命体に関する議論に関しては、もう1つ、重要な要素がある。これはマイケル・ハート氏が「事実A」(Fact A)と呼んだ問題で、現在、他の恒星から生命体が地球を訪れている形跡はなく、また、過去についても訪問の証拠がないという点だ。

しかし、だからと言って、地球外生命体が地球を一度も訪れたことがないとは言い切れないと、今回の研究論文の著者たちは主張している。

論文の著者たちは、文明を持つ地球外生命体が数百万年以上前に地球を訪れていたとすると、彼らの訪問の証拠は現時点ではもう何も残っていないだろうと指摘する(地球が誕生したのは45億年前)。そこで著者たちが目を向けたのが、過去の地球外生命体による地球訪問の証拠を見つけられないかもしれないとした、過去の研究成果だ。

さらに論文の著者たちは、地球外生命体には「すでに生命体が生息している惑星を訪れたくない」という意向があるのかもしれないと述べている。異星人が、生命のある惑星を訪れたいはずだという思い込みは「居住地拡大」を「征服」と同一視する人類の傾向を素朴に当てはめる試みだと、著者たちは述べている。

著者たちは、これらの要素をすべて考えに入れた上で数理モデルを作成し、文明を持つ地球外生命体は、自らが遭遇する居住可能な天体のうち、ごく一部にしか定住しないという前提に立って計算を行った。

それでも、居住可能な天体が十分な数存在すれば、地球外生命体は天の川銀河全体に広がっていてもおかしくないと、論文の著者たちは述べている。

さらなる調査研究が必要

現時点で地球外からの働きかけがまったく検知されていないからと言って、がっかりする必要はないというのが研究チームの見解だ。

「それは人類がひとりぼっちであるということを意味するわけではない」とキャロル=ネレンバック氏は述べる。

「生命体が居住できる条件を備えた惑星はおそらく稀なものであり、簡単にはたどり着けない、というだけだ」

地球以外の、生命が居住可能な惑星を検知・観測する能力は、今後数年のうちに飛躍的に向上するとみられている。現在、新しい望遠鏡が建設中であるし、すでに宇宙に打ち上げられている望遠鏡や探査衛星も複数あるからだ。

NASAが開発中のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡。六角形の鏡18枚で構成されている。
NASAが開発中のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡。六角形の鏡18枚で構成されている。
NASA/Chris Gunn

2009年に打ち上げられた系外惑星探査衛星ケプラーは、天の川銀河内の、生命体が居住している可能性がある系外惑星の探査に関して、飛躍的な進歩をもたらした。ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)トランジット系外惑星探索衛星(Transiting Exoplanet Survey Satellite:TESS)は現在も軌道上から、系外惑星の探査を続けている。

また、NASAが現在開発中で、2021年3月に打ち上げが予定されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)では、さらに探査可能な空間が広がり、ビッグバンのような時間の彼方まで観測できると期待されている。

人類がこの宇宙で唯一の知的生命体かどうかを推定しようとする研究者たちの能力を向上させるものは、「恒星間航行が可能な宇宙船」の速度や航行範囲に関する、より多くのデータだ。仮説上の「地球外生命体の文明」が、どのくらい存続しうるのかということに関するより良い理解も、役に立つことだろう。

「我々には、いくつかのデータポイントがまったく足りていない」と、キャロル=ネレンバック氏は述べている。

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[原文:Alien civilizations may have explored the galaxy and visited Earth already, new study says. We just haven’t seen them recently.

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)

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