コンテンツにスキップする

日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に

  • 米店舗でボーリングやたこ焼き、カラオケ、人気ゲームを提供
  • ゲーマーや「ウィアブー」をターゲットに米国で事業拡大
Round One’s arcade at the Danbury Fair mall in Connecticut.

Photographer: Dina Litovsky for Bloomberg Businessweek

Round One’s arcade at the Danbury Fair mall in Connecticut.

Photographer: Dina Litovsky for Bloomberg Businessweek

2021年11月、エリック・バニヤン氏は、かつて「フォーエバー21」の店舗があったショッピングモール「ダンベリーフェア」の空きスペースに日本人ビジネスマンのグループを案内した。フォーエバー21は19年の運営会社の経営破綻後、2つのフロアから成る6万平方フィートのスペースを明け渡した。米コネティカット州にある同モールからは百貨店のシアーズロード・アンド・テイラーも撤退し、厳しい状況にあった。

  同モールを所有するメイスリッチでリースを担当していたバニヤン氏は、百貨店が栄光を取り戻すわけではないことを認識していた。下着やTシャツを買うにはインターネットのほうが「より良い、より速い、より安い選択肢がある」と言う同氏は、屋内型複合レジャー施設を運営するラウンドワン(大阪市)の担当者らが、巨大なスペースを人々が訪れようとするものに変える方法を提供してくれるかもしれないと考えた。

relates to 日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に
「Fast & Furious」を父親と一緒に楽しむエマニュエル・バルガスさん(カリフォルニア州バーバンク)
Photographer: Maggie Shannon for Bloomberg Businessweek

  ラウンドワンの従業員らがダンベリーフェアの見学に訪れた当時、同社は経営難のモールのオーナーとの取引で既に10年超の実績があった。LED照明に照らされた日本のビデオゲームやサッポロビールを備えた同社の店舗は、米国内で既に数十ものモールに入居していた。ラウンドワンは、高齢化でゲームセンターの利用層が縮小する日本への依存を減らす方法として、米国で事業を拡大する取り組みを加速させている。ゲームセンターの誘致は、米国のショッピングモールにとって不可逆的な死のスパイラルと長い間考えられていた衰退から抜け出す方法のように見える。

relates to 日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に
ラウンドワンのメニューは、米国の定番と共にたこ焼きや日本のフライドチキンも提供
 

  ラウンドワンは3月にダンベリーフェアに店舗をオープンした。米国で54番目となる店舗で、他の53店舗と同様、異文化間のエンターテインメントに賭けている。このゲームセンターでは、ボーリングやチキンフィンガーといった米国人の楽しみに加え、たこ焼き、カラオケ、クレーンゲーム、そしておそらく最も特筆すべきは、大ヒットの音楽ゲーム「ダンスダンスレボリューション」といった日本の娯楽も提供されている。日本のアーケードゲーム機の輸出は著作権の関係で驚くほど複雑だが、これを設置することでラウンドワンは何時間も離れた遠方から貪欲なゲーマーを引き寄せることができ、ニューカマーの関心も集めるお祭りムードをつくり出せる。

  「日本に行けない人たちに見てもらうのが狙いだ」。同社のシニアディレクター、ピーター・ユー氏が開店直前にずらりと並んだクレーンゲームの間を縫うように歩きながら話した。各クレーンゲームには、ぬいぐるみの種類ごとにラベルが貼られている。

relates to 日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に
クレーンゲーム用ぬいぐるみを運ぶダンベリーの従業員
 

ローラースケート場からスタート

  ラウンドワンは1980年、まだ大学生だった杉野公彦社長が父親から引き継いだ大阪のローラースケート場からスタートした。そのスケート場は赤字続きで、杉野氏の父親が閉鎖を望んだのに対し、同氏は他の形のエンターテインメントに進出することを提案した。この基本的なアイデアが、LED照明の空間がうなるゲーマーやベビーボイスのアニメゲームで埋め尽くされた現代日本のゲームセンターへと発展し、ラウンドワンを10億ドル規模の企業へと成長させた。最も有名なのは大阪にある11階建ての複合施設で、ゲーム機やボーリング、バッティングケージ、バスケットボールコート、カラオケ、ゴーカートなどがあり、日本のゲーマーだけでなく米国の観光客も大勢訪れる。

  2010年頃、ラウンドワンの幹部らは停滞への懸念が高まる中で行動を起こすことを決断。国内には105の拠点があったが、日本の少子化は深刻な脅威だと考えたのだ。次の約20年間について考える必要があると話すラウンドワンの米国社長兼最高経営責任者(CEO)、高橋博利氏は、日本で事業を拡大し続けるだけではだめだと指摘する。

relates to 日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に
バーバンク店舗の高橋氏
 

  その年、ラウンドワンは初の米国店舗をオープンした。同社が選んだ場所は、ロサンゼルス郊外の「プエンテヒルズ・モール」。このショッピングセンターは、1985年の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロケ地として知られるが、不振に陥っていた。それ以来、同社は米国で着実に事業を拡大し、24年3月期には米国の店舗が全体の売上高の37%を占め、5年前の16%から拡大した。

Department Stores in the US

Number of establishments

Source: IBISWorld

高い収益性

  ラウンドワンの米国店舗は、日本国内の店舗よりも収益性がかなり高い。より多くの人を呼び込めることが主因だ。同社は、17年時点で計画していた総店舗数の2倍に相当する200店舗近くに達するまで、年に約10店舗をオープンする計画だ。同社に最も近い競合相手は、テキサス州に本社を置くデイブ&バスターズ・エンターテインメントで、米国とカナダで220店舗を運営している。

relates to 日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に
ダンベリーのクレーンゲーム
Photographer: Dina Litovsky for Bloomberg Businessweek

  ラウンドワンの幹部は、スポーツバーや子供の誕生日パーティーのスポットなどを提供するデイブ&バスターズとは直接競合しないと話す。ラウンドワンも子供を引き付けようとしているが、ゲーマーやウィアブー(weeaboo=日本のアニメやビデオゲームに夢中になっている欧米人を指すスラング)を喜ばせることを目指している。ストリーミング時代に人気が急上昇した日本文化の輸出に対する米国人の愛着に大きく依存している。ウィアブーと呼ばれる人たちは、ラウンドワンが日本のアーケードゲーム機の数少ないライセンス輸入業者の一つであることをよく知っている。

  スカイラー・ダミアーノさん(33)は、コナミグループの「ダンスラッシュスターダム」(「ダンスダンスレボリューション」の後継機)に毎月60ドルほど支出しているという。フットパッドで日本のポップソングに合わせてリズムを刻むゲームで、イリノイ州オーロラにある地元ショッピングモールを週に一度訪れる合間に、ラウンドワンのどの店舗でどのタイトルが提供されているかゲーマーらが議論する「ディスコード」のチャットルームをチェックしている。

  4月には、ダラス・フォートワース空港近くのラウンドワン店舗で開催された「ダンスラッシュスターダム」トーナメントに出場するためテキサスに飛んだ。「世界中のどのロケーションでもオンラインの友達と会ったり、新しい友達をつくったりすることができる」とダミアーノさんは語る。

relates to 日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に
バーバンク店舗で「ダンスダンスレボリューション」を楽しむ人
Photographer: Maggie Shannon for Bloomberg Businessweek

クレーンゲーム

  ラウンドワンの最も熱心な顧客はおそらくゲーマーだろうが、同社にとって最も利潤が大きいのはクレーンゲームだ。顧客は1回約2ドルを使って人気アニメのキャラクターにちなんだおもちゃを手に入れようとする。同社は「プロジェクト・メガ・クレーン 」と名づけた取り組みで、ビデオゲーム専用だったスペースを再利用してクレーンゲームを増やしている。

  ラウンドワンの成功は、必ずしも入居先モールの成功につながるわけではない。プエンテヒルズにあるラウンドワンの店舗は、モールの稼働率が60%前後であるにもかかわらず、日本の店舗を含め同社の中で最も売り上げの多い店舗だ。経営難のショッピングセンターであることは必ずしも問題ではない、と杉野氏は言う。「その地域の人達に真っ先に思い浮かべてもらえるような存在になれば、決してモールが沢山の人で溢れている必要性というのはあまり感じない」と話す。

relates to 日本のラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に
ダンベリーフェアのゼネラルマネジャー、モーラ・ルビー氏
Photographer: Dina Litovsky for Bloomberg Businessweek

  しかし他の場所では、斬新なエンターテインメント体験がモールを回復させる鍵となっている。モールの運営会社は、大人向けの遊び場や、テレビ番組「アメリカン・ニンジャ・ウォリアー」をベースとした障害物コースなど、他のサービスを試みている。

  不動産データ分析会社グリーン・ストリートのデータによると、高級モールの売り上げは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の水準から7%増加している。ダンベリーフェアにラウンドワンの店舗がオープンしてからおよそ2カ月で、同モール全体の客足は18%増加したとバニヤン氏は言う。ラウンドワンの売店ブースの一角でにこやかに話すのは、ダンベリーフェアのゼネラルマネジャー、モーラ・ルビー氏だ。モールに足を運んでもらうようにする上で鍵を握る社会的要素を探し当てたと自信を示す同氏は、「インターネットのプラットフォームでは捉えられないものを提供したい。人生経験だ」と述べた。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:US Malls Avoid Death Spiral With Help of Japanese Video Arcades(抜粋)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE