未成年を狙うSNS被害“年間2000件”の脅威も…インスタ「見守り機能」の“抜け穴”探る子どもたち 保護者の対策は?

インスタグラムやフェイスブックを運営するMeta社は、今年1月21日から日本国内の10代の利用者にも「ティーンアカウント」の導入を開始した。
ティーンアカウントとは、保護者の見守り機能が付いた13〜17歳の利用者向けのアカウントだ。暴力的、性的な画像の表示が制限され、長時間利用を防ぐための通知機能が自動的に組み込まれる。
SNSへの依存や、有害な情報から未成年を守るための機能だが、実際に中高生の子どもを持つ保護者を取材すると、その実効性に疑問の声も聞かれた。ティーンアカウント導入の背景や、中高生のSNS利用の実態、そしてSNSのトラブル防止のために保護者に何ができるのか取材した。
欧米諸国に続いて導入
日本では今年1月から導入されたティーンアカウントだが、アメリカやイギリス、オーストラリア、カナダでは昨年9月から、EU域内では昨年末に導入されている。
ティーンアカウントの主な機能として、16歳未満の全ユーザーと18歳未満の新規ユーザーについては、初期設定が「非公開」となることが挙げられる。つまり、フォロワー以外が未成年の投稿を見たり、メッセージのやり取りをすることができなくなる。さらに、13〜17歳のユーザーについては、知らない相手からのメッセージは受信拒否される。
ほかにも、暴力的な表現や性的な画像、整形や過度なダイエットを促す投稿の表示が制限され、コメントやDMでの攻撃的な言葉もフィルタリングされる。また、SNSの長時間利用を軽減するため、1日の利用時間が60分を越えるとアプリを閉じるよう通知が届く。

これらの制限は、保護者による管理機能「ペアレンタルコントロール」によって緩めることも、厳しくすることも可能だ。より厳しい制限を設定すれば、保護者は子どもが過去7日間、誰にメッセージを送ったか確認でき(ただし、メッセージの内容は閲覧できない)、さらに保護者が決めた1日の利用時間を過ぎると、子どもがアプリにアクセスできなくなるよう設定することもできる。
未成年を狙うSNS被害「年間2000件前後で推移」
今や大人だけでなく、子どもにとっても生活の一部となっているSNSだが、2023年に東京都が行った調査によると、小中高生の子どもにスマートフォン等を持たせている保護者のうち19%が「子どもがSNS等を通じて知らない人とやり取りしたことがある」と回答した。さらにそのうち、20.3%の保護者が「顔や身体の写真・動画の送受信をした」と答えている。

また、子どもが「SNSを通じて知り合った人と直接会った」と回答した保護者は、14.2%と前年(2022年)度調査から6%近く増えていることも気がかりだ。おそらく、子どものSNS上のやり取りを把握できていない保護者もいるので、この数字は氷山の一角と言えるだろう。
同調査では、SNSを通じて知らない人とのやり取りが始まったきっかけとして、「ゲーム」(40.9%)、「芸能人やYouTuberの話」(40.4%)など、身近な話題が挙げられている。しかし、警察庁の調べによると、SNS上で未成年を狙った犯罪は年間2000件前後で推移しているという。

実際に起こった事件としては、当時27歳の男がSNSを利用して被害児童(当時13歳)を脅迫し、SNSを介して裸の画像を送信させた事案や、当時59歳の男が、SNSを通じて知り合った被害児童(当時16歳)を児童買春した事案が挙げられている。
手口としては、女子になりすました男性がメッセージや画像などのやり取りをし、「画像をばらまかれたくなければ裸の画像を送れ」と脅迫するケースや、「悩み相談に乗る」と装って実際に会い、そのまま監禁するケースもあるという。
本来、SNSは友達との交流や、興味・関心を発見するためのものだが、簡単に見知らぬ人とつながりを持ててしまう側面もある。そして、SNSの向こう側にいる相手が、年齢や性別などを偽ることは容易だ。ティーンアカウントが導入された背景には、SNS上の事件で心や体に傷を負う子どもたちが後を絶たない現状がある。
「規制を強めるのは親子げんかの種に…」保護者の本音
今回、中高生の保護者にティーンアカウントへの期待を取材したが、「60分の利用で通知が来ても、無視すれば利用できてしまう。あまり効果はないのでは」など、実効性に疑問を持つ声があがった。
ほかにも、中高生のスマートフォンやSNSの利用について、「スマートフォン本体のスクリーンタイムや、さまざまなアプリにも未成年の利用制限機能はあるが、パスワードなどを突破する方法が子どもたちのSNSで拡散されている」「ティーンアカウントの対象外になるよう、生年月日を偽って成人としてアカウントを作っている」といった現状もあるようだ。
とはいえ、子どものSNSへの依存や安全を危惧している保護者は多く、「うまくティーンアカウントを家庭で活用したい」と考えるものの、「ただでさえ思春期の難しい時期に、急に規制を強めるのは親子げんかの種になり、現実的ではない」という声も聞かれた。
SNSのルールで必要なのは「納得感」と「譲歩」
親子のあつれきを生まずにティーンアカウントを活用するには、どうすればよいのだろうか。子どものネット問題やいじめについて研究している、兵庫県立大学の竹内和雄教授に話を聞いた。
「これからSNSを使い始める子どもと、すでにSNSを使いこなしている子どもとで、保護者の対応は変わります。まず前者の場合、ティーンアカウントの機能をもとに、SNSの利用について親子でしっかりと話し合ってルールを決めましょう」(竹内教授)
竹内教授によると、ルールを決める際には「睡眠時間が減ると、体が心配だから」など「ルールが必要な理由」を子どもに説明することが大切だという。
また、お互いの「納得感」もポイントとなる。
たとえば「スマホやSNSは20時まで」というルールを作りたい場合、まずは「19時まで」と子どもに交渉してみるのも手だ。子どもは「せめて21時まで」などと反発してくるが、親が譲歩する姿勢を見せて「19時半」とすれば、子どもは納得がいかないものの「じゃあ、20時半」などと譲歩しやすくなる。
「ルール決めは、お互いに譲歩するとうまくいきやすい。『最初、親からは19時までと言われたが、20時まで使う権利を勝ち取った』と子どもに思ってもらえたら、納得してルールを守ってくれるケースが多い」(竹内教授)
しかし、すでにSNSを使っている子どもについては、「SNSの向こうには、友達や部活の仲間といった相手がいるため、SNSを介した交流が習慣化されると修正は難しい」(竹内教授)と話す。たとえば、急に「21時まで」などの時間規制をかけられると、「いつもなら夜遅くまでSNSで返事があったのに、急に付き合いが悪くなった」などと、友達から後ろ指を指されかねないからだ。
「子どもにも社会があることを、親は理解しなければならない」(竹内教授)
SNSが習慣化されている子どもは「進学・受験」のタイミングでルール見直しを
では、すでにSNSの利用が習慣化されている子どもには、保護者はどのようにコミュニケーションを図ればよいのだろうか。
「『明日から21時まで』などと急な制限を課しても、まずうまくいきません。受験や進学などのタイミングで、ルールを見直すとよいでしょう」(竹内教授)
具体的には、「春から受験生だし、スマホを触る時間を見直してみない?」などと切り出し、何時までなら勉強や部活との両立ができそうか、まず親子で話し合う。その際、進級・進学のギリギリのタイミングでルールを決めるのではなく、無理のないルールかどうか確かめる「お試し期間」を作ることも大切だ。
「お試し期間中に、『塾の後、部活の連絡を返さなければいけないから、塾の日はルールを守れない』とわかることもあります。そんなときは、親子で話し合いながら柔軟に変更しましょう。また、お試し期間は『春から受験生だから、SNSを使える時間を制限されちゃうんだ』など、子どもも友達に事前周知する期間に充てることができる」(竹内教授)
一番やってはいけないのは「親の暴走」
トラブル防止について竹内教授は、「子どもが困ったときに、相談できる親子関係を築いておくことが一番大切」と話す。
「子どもは何かしら失敗するもの。そんなとき、親がパニックにならずに子どもの話をしっかり聞き、子どもがどうしてほしいのか、親としてどう対応したいのか、話し合うことがとても重要です。双方が納得できる対応を取れる親なら、子どもも信頼できる」(竹内教授)
一番やってはいけないのが、親の暴走だ。子どもがトラブルに巻き込まれた際に、子どもの話も聞かず、たとえば一方的に相手の家に文句を言いに行くなどすれば、たちまち子どもの信頼を失ってしまう。
「ルール決めも困ったときの対応も、大切なのは親子の『納得感』。お互いに考えを出し合い、時には譲歩しながら子どもの意見を尊重し、双方の納得のもとに物事を進める姿勢が、親子の信頼関係にもつながる。
SNSトラブルは、早期に対処できれば子どもの傷も浅く済む。何かあったときに相談できる存在が、子どもの近くにいることが大切だ」(竹内教授)
子どもを守るためのティーンアカウント。対象となるのは思春期の難しい時期の子どもたちだが、保護者がうまくコミュニケーションを図りながら活用し、トラブルから子どもの心身を守っていきたい。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
関連ニュース
-
伊藤詩織氏監督映画『Black Box Diaries』をめぐる問題 弁護士が“被害者軽視”を「許しがたい」と言う理由
2025年03月09日 09:28
-
在日クルド人への「ヘイトスピーチ」の“震源”…“出稼ぎ偽装難民問題”が叫ばれる「背景」とは【弁護士解説】
2025年03月01日 08:55
-
赤いきつねCM炎上“企業側の沈黙”は問題なし!?「内部検討だけでも十分」な理由とは…【弁護士解説】
2025年02月28日 10:25