【解説】 中国外交の新星が突然の解任 秦剛氏に何があったのか

スティーヴン・マクドネル中国特派員

Qin Gang

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画像説明, 秦剛氏は中国政府で最も顔を知られた政治家の一人で、習近平国家主席自らが外相に登用した

中国政府で最も顔を知られた政治家の一人で、習近平国家主席自らが外相に登用した期待の新星が、解任された。

中国では、秦剛外相の解任は大ニュースだ。しかしいつも通り簡素に、ほとんど詳細なしで報じられた。

国営・新華社通信はわずか数行で伝え、夕方のニュース速報で読み上げられた。それが、中国外交の「顔」だった秦氏の劇的な最後だった。外相に就任してたった半年だった。

秦氏は1カ月ほど前から通常業務で姿が見られなくなった。当局はこれについて、何らかの健康上の理由だと説明した。

しかしそれから数週間がたっても、秦氏の動静は不明だった。そのため、秦氏が政治的に規律を乱し、その罰を受けているのではないかとの憶測が流れた。

ソーシャルメディアにはその後、秦氏と女性テレビ司会者との不倫のうわさがあふれた。この司会者はいつもはソーシャルメディアを活発に使っていたが、やはり突然「消息不明」となった。

この二つの説明を合体できると考える中国ウォッチャーもいる。つまり、中国共産党内のライバルが、不倫騒動を利用して秦氏の失脚を図ったというものだ。

不倫は違法ではないが、党規律違反の可能性があると解釈されかねない。

一方で、重大な健康上の緊急事態が原因となった可能性も否定できない。

さらに、中国共産党の統治は極めて不透明であるため、こうした可能性はどれも確認も、また否定もできない。

だが、秦氏解任で最も驚くべき点は、同氏が中国の最高指導者から明らかな支持を得ていたと思われていたことだ。

習国家主席は、駐米大使だった秦氏をワシントンから呼び戻し、外相に任命した。

アナリストらは当時、秦氏が新しい役割でどれだけ 「戦狼(せんろう)」になれるのかと、その行動を観察していた。戦狼とは、中国の攻撃的な外交アプローチを指す言葉で、外交官はソーシャルメディアで声高に中国政府を支持し、時には国家の苦境から目をそらす手段として、他者を罵倒することもあった。

外務省の報道官時代には、厳しい態度で知られた秦氏だったが、愛想よく振る舞うこともできる人物でもあった。

英語が堪能で熱心なスポーツファンの秦氏は、米プロバスケットボールNBAの試合でフリースローシュートを決めたり、イギリス派遣時にはサッカーチームのアーセナルに声援を送ったりする姿が見られていた。

こうした人物を十分に「戦狼」ではないと思う共産党員もいるかもしれない。

私は過去に何度も秦氏に会ってきたが、秦氏は熱心に中国を擁護し、中国のよさを最大限アピールしていた。

秦氏はまさに共産党が必要としていた、現代的で洗練された官吏のようだった。できることなら瓶詰めにして、繰り返し何回もつくり出したいと思わせるような人物だろう。

しかしいま、秦氏の命運は分からない。外務省のウェブサイトからはすでに、秦氏に関する情報が削除されている。

いずれにせよ、これは良いことではないだろう。