チェルノブイリ原発で放射線量が急上昇、危険性は「極めて低い」と ウクライナ侵攻

ヴィクトリア・ギルBBCニュース科学担当編集委員

Chernobyl Nuclear Power Plant
画像説明, チョルノービリ(チェルノブイリ)の原子力発電所

ロシア軍によるウクライナ侵攻で占拠されたチョルノービリ(チェルノブイリ)の原子力発電所で、放射線量の上昇が記録された。

チョルノービリ原発は1986年4月、ウクライナがソヴィエト連邦の一部だった当時、爆発事故を起こした。大量の放射性物質が大気中に放出され、現在のウクライナだけでなく、ロシアやベラルーシ、さらには欧州北部の広範囲に拡散した。半径32キロの範囲が立ち入り禁止区域となった。

ウクライナ政府は24日、ロシア軍がこの立ち入り禁止区域に入り、施設を掌握したと発表。その後、同原発の放射線量をモニタリングしている施設で、通常の20倍もの放射線が記録された。

一方で専門家らは、新たな惨事が起きる可能性は「極めて低い」としている。

ウクライナの原子力規制当局の報告では、放射線量上昇の原因は、大型の軍用車両が4000平方キロメートル以上にわたる立ち入り禁止区域の汚染された土壌をかき回したからだという。

また、最も上昇率が高かったのは倒壊した原子炉の周辺だった。

チョルノービリ原発では、1時間ごとに各観測点での放射線量がモニタリングされている。

原子炉周辺での放射線量は通常、毎時3マイクロシーベルト。しかし24日にはこれが毎時65マイクロシーベルトまで跳ね上がった。これは、大西洋を横断する旅客機に乗った際に浴びる放射線量の5倍に相当する。

Chart showing spike in radiation
画像説明, チョルノービリで定時観測されている放射線量の推移(2022年2月24日)

英シェフィールド大学の核物質専門家クレア・コールヒル教授はBBCの取材に対し、放射線量の上昇は「極めて限定的」に発生しており、原子炉周辺を行き来する主要ルートに沿って観測されたと説明した。

「チョルノービリ周辺で人間や車両の移動が増えたことで、地上に積もっていた放射性物質が舞い上がったとみられる」

「それ以上の動きがないことから、放射線量は数日かけて下がっていくはずだ」

しかし、この地域での軍事活動には懸念が生じている。

チョルノービリ原発はウクライナの首都キーウ(キエフ)の北方130キロのところにある。ウクライナ当局によると、原発制圧に際し、ロシア軍とウクライナ軍は激しい戦闘を行った。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、同国軍は「1986年の惨事を繰り返さない」ために戦ったと述べ、ロシア軍はチョルノービリを攻撃したことで「欧州全体に宣戦布告した」と批判した。

ロシア当局は、同地域での戦闘についてコメントを発表していない。

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Presentational white space

チョルノービリの原発施設には現在、複数の放射性廃棄物処理施設があるほか、2016年には、1986年に爆発した第4原子炉を丸ごと覆う「新安全閉じ込め構造物」が完成した。

コークヒル教授は、「これらの施設は放射性物質を封じ込めるために設計されているが、武装はされていない。戦地で運用するようにはできていない」と指摘する。

同原発の放射線量は事故以来、劇的に低下している。「しかも当時、放射線が放出されたのは、巨大な火災が原因だった」とコークヒル教授は言う。

それでも、原発事故のような惨事が繰り返される可能性は「非常に低い」と、教授は強調した。

それよりも、ウクライナで現在稼働中の原発近くで行われている戦闘の方が、懸念材料としては大きいという。

Nuclear plants in Ukraine
画像説明, ウクライナには現在、稼働停止したチョルノービリを含め5カ所の原子力発電所がある。紫色に囲まれた部分は2014年にロシアに併合されたクリミア半島、黄色い部分はロシアが承認した分離派が占領しているドネツク地方

国際平和カーネギー基金の原子力政策の専門家ジェイムズ・アクトン教授は24日、「チョルノービリ原発の内部には大きな無人の空間があるが、その他の原子炉は同じように隔離されていない。原発は紛争地帯向けに設計されていない」と指摘した。

国際原子力機関(IAEA)は、ウクライナ当局から25日、国内の原発は「安全に」稼働しているとの報告を受けたという。