■話題・トレンド
2024年、大学業界にはさまざまな出来事がありました。大学進学を考えるウェブメディア「朝日新聞Thinkキャンパス」中村正史・総合監修者が、前編に引き続き、24年の大学10大ニュースを選びました。大きく変化しつつある、大学の姿に注目です。(写真=正門に設置された「東京科学大学」の看板、2024年10月1日、朝日新聞社撮影)
>>「【2024年大学10大ニュース】年内入試の拡大、私大の定員割れ… 保護者世代とは大きく変化(1~5位)
6.「デジタル」「グリーン」学部が急増
データサイエンス学部や情報学部の新設が、依然として続いています。25年度以降の主な新設予定を挙げると——。
25年度 関西大学(ビジネスデータサイエンス学部)
26年度 青山学院大学(統計・データサイエンス学部)、昭和女子大学(総合情報学部)、文京学院大学(ヒューマン・データサイエンス学部)、東京理科大学(創域情報学部)、関東学院大学(情報学部)
28年度 東京工科大学(デジタルエンターテインメント学部)
この背景にあるのが、文部科学省が進めている「大学・高専機能強化支援事業」です。デジタル・グリーンなどの成長分野の人材育成のために、これらの学部を設置する大学に助成金を交付します。
グリーン分野は、再生可能エネルギーやカーボンニュートラル、食料などを扱うもので、以下のような学部・学科の新設がこの事業に採択されています。
26年度 創価大学(理工学部グリーンテクノロジー学科)、立教大学(環境学部)、関西大学(システム理工学部グリーンエレクトロニクス工学科)
27年度 中央大学(農業情報学部)、東洋大学(環境イノベーション学部)
もっとも、デジタル系学部はこの数年で設置した大学が相次ぎ、「すでに飽和状態」という指摘もあります。「これから新設して、どう特徴を出していけばいいのかわからない」「受験生が来てくれるか不安」という大学関係者の声も出ています。また、支援事業に採択された新設予定の中には「デジタル・グリーン子ども学科」「グリーン・デジタル学科」など、名称だけでは教育内容がわかりにくいものもあります。こうした分野への進学を考えるなら、コースやカリキュラム、教授陣などを調べて判断するのがいいでしょう。
>>「デジタル」「グリーン」学部を新設する大学が増加 その背景や理由とは?
7.授業時間が100分以上に延長
大学教育は今の受験生の保護者世代とは大きく変わっています。その一つが、授業時間です。 大学の授業は1コマ90分が一般的でしたが、100分以上に延ばす大学が増えています。
15年度に東京大学が1コマ105分に延ばしたのを皮切りに、17年度に明治大学と芝浦工業大学が100分に、一橋大学が105分に変更しました。その後も18 年度に法政大学、19年度に上智大学と立教大学がそれぞれ100分に変更し、23年度には早稲田大学も100分に延ばしました。
授業時間を延ばす大学側の狙いは、夏休みなどを長くすることで学生が海外留学やインターンシップなどに参加しやすくなることと、授業内容の改善につながることがあります。
21年度から授業時間を100分に変更した関東学院大学の担当者は、「従来は90分×15週で1つの授業を行っていたが、授業時間を100分にすると、1週少ない14週で終えることができる。前期と後期を合わせると授業期間が2週間短縮されて、夏休みと春休みが1週間ずつ長くなり、学生は海外留学や課外活動、インターンシップなどに使うことができる。また延びた10分間を使って、授業の振り返りをすることで、学習内容の定着を図れるなどのメリットがある」と話します。
同じく21年度から授業時間を延ばして105分にした追手門学院大学は、「今までの座学中心の授業とは違う、主体的な学びを実現させたいと考えた。そのために授業でディスカッションやプレゼンテーションを取り入れようとすると、90分では足りない」と話します。
>>東大、早稲田に明治、関東学院などで授業時間が「1コマ100分以上」に なぜ長くなったの?
8.様変わりする図書館
大学の変化でいえば、図書館が保護者世代の大学時代とは驚くほど変わっています。建物だけでなく、図書館の役割や機能、貸し出しのしやすさ、蔵書の内容、デジタル化などが、学びの環境の変化に対応しているのが大きな特徴です。
近年の大学図書館の特徴の一つは、グループワークなど学生の主体的な学びを支援するラーニングコモンズを併設していることです。青山学院大学が24年4月に開館した「マクレイ記念館」は、図書館機能だけでなく、ラーニングコモンズのスペースや、各階に学習スペースを設置するなど、さまざまな工夫がされています。
学習院大学は、23年4月に図書館をリニューアルオープンしました。学生が利用する2階から7階までのフロアは、2階に英語の多読コーナー、4階はワークショップなどのアクティブラーニングのためのフロア、6階には書架と閲覧スペースを配置するなど、各フロアの性格付けがなされています。
関東学院大学は、23年4月に開設した横浜・関内キャンパスの地上17階建ての校舎棟5階に「デジタル図書室」を設けました。スマホアプリからアクセスできる蔵書検索システムでは、紙の本も電子書籍も検索でき、電子書籍はURLをクリックするだけで閲覧できます。室内にはタッチパネル式の電子掲示板も設置され、新着本や教職員のおすすめ本などが表示され、タッチすればその詳細を確認できるようになっており、本との出会いを演出しています。
近畿大学の図書館「ビブリオシアター」の2階の「DONDEN(ドンデン)」には、2万冊以上のマンガと、それに関連する新書や文庫を合わせて約4万冊をそろえています。マンガを「知的好奇心を刺激するきっかけ」と位置付け、そばに置かれた関連の新書や文庫を読むことで、興味や関心をさらに深めるという読書体験「DONDEN読み」を提案しています。「DONDEN」という名は、「マンガを起点に知の奥へ向かう『知のどんでん返し』を起こす」という狙いからです。
9.相次ぐ女子大や短大の募集停止
女子大や短大が学生募集を停止したり、女子大を共学化して生き残りを図ったりする動きが相次いでいます。
恵泉女学園大学(東京都多摩市)、神戸海星女子学院大学(神戸市)は、24年度からの学生募集を停止しました。
短大では、上智大学短期大学部(神奈川県秦野市)のほか、名古屋女子大学短期大学部(名古屋市)、園田学園女子大学短期大学部(兵庫県尼崎市)、武庫川女子大学短期大学部(兵庫県西宮市)、福岡女学院大学短期大学部(福岡市)などが25年度以降の学生募集を停止します。
相模女子大学短期大学部(神奈川県相模原市)、創価女子短期大学(東京都八王子市)などは、26年度以降の学生募集を停止します。
上智大学短期大学部は募集停止の理由について、「18歳人口の減少、女子の共学・四年制大学志向など、近年の社会状況の変化による影響は大きく、またコロナ禍以降ここ3年は急激に志願者が減少し、大幅な入学定員割れが続いていた」と説明しています。
共学化によって生き残りを図ろうとする女子大も増えています。
東京家政学院大学は、25年度に町田キャンパスに生活共創学部を設置して共学化し、千代田三番町キャンパスは26年度から共学化します。大学側は「家政学を新たな時代や文脈で発展させるには共学化しかないと考えた。これがラストチャンスだという気持ちで取り組んでいる」と説明しています。
このほか、名古屋女子大学(名古屋市)と園田学園女子大学(兵庫県尼崎市)が25年度から共学化し、女子栄養大学(埼玉県坂戸市)は26年度から共学化します。
10.東京科学大学の誕生
24年10月、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して、東京科学大学が誕生しました。2つの大学は、国内では理工系、医療系のトップクラスの研究力を持つ国立大学で、こうした有力大学が統合するのは過去にあまり例がありません。国立大学が置かれた厳しい環境を象徴していると言えるでしょう。
今回の統合は、単独で外部資金を増やすのは難しいと危機感を持った東京医科歯科大学の田中雄二郎学長が持ちかけ、東京工業大学の益一哉学長との間で構想が進みました。「医工連携」によって異分野領域を融合し、研究力を高めるのが大きな目的です。益学長には「失われた30年と言われる製造業の停滞の一因は東工大にあるのではないか」という強い危機感がありました。
もう一つの狙いは、政府が大学の研究力向上のために、10兆円規模の大学ファンドを創設して支援する「国際卓越研究大学」の認定を目指すことでした。結局、初年度は大学改革の取り組みなどが評価された東北大学が国際卓越研究大学に認定され、東京大学や京都大学が選ばれなかったことで大学関係者に衝撃が走りました。選ばれなかった東京大学は、27年秋に新たに文理融合型の5年制の教育課程(定員100人)を創設することを表明し、2回目の公募申請のアピール材料にしようとしています。
欧米の大学に比べて財政力に乏しい日本の大学は、トップクラスの国立大学でも世界で競争するには厳しい環境にあります。
(文=中村正史)
プロフィル
中村正史(なかむら・まさし)/長年にわたって教育・大学問題に携わり、1994年、偏差値と大学神話に代わる新たな大学評価を求めて「大学ランキング」を企画し創刊。2008~15年に編集長。20年4月から朝日新聞社教育コーディネーター、教育情報紙「EduA」アドバイザー。23年4月から「朝日新聞Thinkキャンパス」総合監修者。
【写真】女子大の募集停止に、新しい学部が急増 東京科学大の誕生(6~10位)
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