【大学トレンド】プロ野球場そばに医療大が新キャンパス 一体化のメリットは?

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2024/08/13

■特集:キャンパスと大学選び

大学のキャンパス移転が相次いでいます。とくに都市の中心部や駅から近い場所に移転することで、学生のアクセスや就活などの利便性が上がる例が多く見られます。それだけでなく、プロ野球の本拠地がある複合施設に移転予定の北海道医療大学のように、移転先の環境を生かして、学生の学びを深めることが期待される例もあるようです。(写真=北海道医療大学が移転予定の北海道ボールパークFビレッジの完成イメージ図、北海道医療大学提供)

日本ハムファイターズの本拠地に

プロ野球の北海道日本ハムファイターズが本拠地としている北海道北広島市のエスコンフィールドを中核とする複合施設「北海道ボールパークFビレッジ」。野球場がボールパークと呼ばれ、野球の試合だけでなく周辺施設を丸ごと楽しむ文化がある米国メジャーリーグにならって、エンタメからグルメまでを楽しめる施設で、2023年のオープン以来、北海道の新しい観光名所の一つになっています。

そのFビレッジへ28年4月に大学キャンパスを移転することを23年10月に発表したのが、北海道石狩郡当別町にある北海道医療大学です。薬学部、歯学部、看護福祉学部など医療技術に関わる6学部9学科および歯科衛生士専門学校があり、約3500人の学生と約800人の職員を擁する、北海道では最大級の医療系総合大学として知られています。

鈴木英二理事長は移転のいきさつをこう説明します。
「24年に創立50周年を迎え、初期の校舎は建て替えの時期が迫っていることが、移転の背景にありました。また、東京では一時期郊外へ移転していた大学の多くが都心に戻ってきているという話も聞くようになりました。私たちも、現在のキャンパスで校舎を建て替える場合、札幌市内やその近郊に移転する場合など、さまざまなケースでの建て替えシミュレーションを2年ほど前から行ってきました」

JRの新駅も設置

現在のキャンパスの最寄り駅は、札幌から電車で北に約42分の場所にあり、冬は吹雪で電車が止まることもあり、学生からは通学環境への不安の声が多く上がっていました。また学費をアルバイトで捻出する学生が多いことも、移転の理由の一つです。学生の中には、札幌まで往復2時間かけてバイトに行っていたものの、雪で行けなくなって、辞めざるを得なくなったという話も耳にしたと言います。

北海道医療大学の前身の東日本学園大学は1974年に設立され、当時は教養部を釧路近くの音別町に置いていました。札幌まで電車で4〜5時間かかる音別校舎を廃止して、1985年に全キャンパスを札幌に近い当別町に移転・統合したことで、「学生募集の面で効果が大きかった」という経験も、移転を後押ししたと言います。

「本学の移転構想と、地域社会の活性化や社会への貢献につながる『共同創造空間』を目指すというFビレッジの構想が合致しました」

Fビレッジのスタジアム近辺にはJRの新駅も設置され、新千歳空港から約20分、札幌市内からも20分程度という交通の便のいい大学に生まれ変わる予定です。

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北海道医療大学が移転予定の北海道ボールパークFビレッジの完成イメージ図(写真=北海道医療大学提供)

スポーツの街に、医療のさまざまな専門家

移転によって、Fビレッジのキャンパス内にすべての学部・学科と附属病院が集約され、医師や看護師、薬剤師、介護士などさまざまな専門家が協力して、一人の患者の医療や介護サービスを提供する「多職種連携」が行いやすくなることもメリットです。またFビレッジはスポーツ施設を中核とする施設であることから、学生にとっては学部学科を越えて学ぶチャンスも増えそうです。

「医療系の大学は上の学年になると、病院や福祉施設、薬局などの現場で学ぶことが常になっています。スポーツ施設があれば、薬学部ならドーピング問題、歯学部ならボクシングやアメフトの選手に必要なマウスピースの製作、看護福祉学部やリハビリテーション科学部なら障がい者スポーツや故障した選手の理学療法など、本学の学びを間近で見られる機会も多い。いろいろな面で、学生と専門家が一緒に研究したり、実践したりということができるようになればと期待しています」

Fビレッジは、球場とその周辺の施設だけでなく、北海道医療大学のほかにもホテルや老人福祉施設の建設が予定されているなど、もっと広い意味の「街」を作る計画が進んでいます。北海道医療大学にとっては、現在大学がある当別町の跡地の活用法などの課題が残っているものの、大学の関係者や学生は移転に大きな期待を寄せています。

街が完成すれば、将来必要になるアルバイトは5000人との試算もあります。学生がさまざまなアルバイトを経験しながら勉強もできる環境を実現できるのは、大変ありがたいことです」

街と一体化するキャンパス移転

近年、大学が地域や産業と連携して、新たな価値を生み出そうという例が相次いでいます。例えば立命館大学は、衣笠キャンパス(京都市)の映像学部・研究科と、びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)にあった情報理工学部・研究科を、24年4月に大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)に移転し、6学部7研究科の総合的な学びの場となりました。大阪いばらきキャンパスは、15年の開設時から「地域・社会連携」を教学コンセプトの一つに掲げてきましたが、2学部の移転に合わせて新しい教室棟や施設などをつくり、地域・社会に開かれたキャンパスとなっています。

地域・社会の人たちも気軽に利用できる立命館大学・大阪いばらきキャンパスの新棟(H棟)(写真=立命館大学提供)

25年11月には、近畿大学医学部・病院が現在の大阪狭山キャンパス(大阪府狭山市)から、大阪府堺市に新設されるキャンパスに移転する予定です。新キャンパスは大阪中心部からのアクセスが良く、関西国際空港からも近い好立地というだけでなく、大規模な医療の拠点ができることで、老朽化が進む泉北ニュータウン地域の再生につながることが期待されています。

27年4月には北九州市立大学が、小倉市街中心部にある旦過市場内に新キャンパスを開設し、新設の情報イノベーション学部(仮称)を置く予定です。1階部分が市場店舗、2~5階部分が大学という市場と一体化したユニークな構造で、企業などと連携して高度なデジタル人材を輩出・供給するだけでなく、北九州市内へのさらなる企業の集積や、街の発展に貢献すると発表しています。

キャンパス移転による地域や産業などとの連携から、大学の新たな価値が生まれていきそうです。

 

>>【特集】キャンパスと大学選び

(文=福光 恵)

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