【大学トレンド】「家政学部」が消えて「フードビジネス学科」へ ラテアートから料理撮影まで

2024/07/17

■現役大学生による 学部・学科紹介

食を学ぶといえば、栄養学や食物学、農学が中心でしたが、最近はビジネスの観点から食を学べる「フードビジネス学科」「食マネジメント学部」といった学部・学科、コースが増えています。伝統的な家政学部が、ビジネスに役立つ「食」を学ぶ学科に生まれ変わり、世界で人気の和食文化を広めることにもつながっています。こうした学部・学科に進んだ学生は、どのように学び、どんな力をつけているのでしょうか。(写真=名古屋文理大学提供)

海外と日本を結ぶ食ビジネス

大学での食に関する研究や教育というと、栄養学や食物学があり、家政学部の一つとして女子大などに設置されているのが一般的でした。また、農学部でも食を学びますが、主に生産者の視点で食料生産などの農学を学びます。

こうした伝統的な学部・学科に対して、近年急増しているのが食をビジネスの視点から学ぶ学部・学科・コースです。特に話題となったのが、立命館大学が2018年に食マネジメント学部を設置したことです。これは、食についての文化的・歴史的背景、自然科学的な知識など食が持つ多様な側面を、経済学や経営学を基盤に、総合的に学ぶ日本初の学部です。重視していることのつがグローバルな人材の育成で、海外の教育機関と連携し、世界の多様な食文化を学ぶほか、語学教育や海外実習プログラムにも力を入れています。

九州産業大学は23年に文理芸融合の「グローバル・フードビジネス・プログラム(GFBP)」を設置しました。所属学部の知識を基礎としながら、フードビジネスに関する知見を深め、世界を視野にフードビジネスをリードする人材を育てることを目的としています。「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことなどを背景に、フードビジネス分野のグローバルな人材育成は必要性が高まっています。食の文化や、海外と日本を結ぶグローバルなフードビジネスなどについて学び、食への理解を深めていきます。

23年には、甲子園大学でも食創造学科を設置しました。「食べる」を仕事にするという目的を掲げ、食品ビジネスや研究開発、食料生産から店舗経営など食に関する多様な領域から学びたいことを選択します。企業との連携授業や地域活動の場を体験するなど、実践的に学びます。

「在学中に商品開発したい」

日本で初めて、フードビジネスについて独立した学科を設置したのは、名古屋文理大学です。05年に健康生活学部フードビジネス学科を開設。栄養や食品についての知識から、店舗の運営や経営、起業のノウハウや商品開発マーケティング、パッケージデザインなどの専門知識やスキルを身につけることができます。

同学科4年の小澤すずなさんは、食の商品開発に関わりたいという目標があり、同大学に進学しました。食に関して学べる大学は、管理栄養士になることを目的としているところが多いなかで、同大学の説明会に足を運んだところ、栄養や健康よりも、おいしさを追究してそれを多くの人々に伝えることに自分の興味があることに気づきました。

「例えばスターバックスで季節ごとの期間限定商品が出るのが楽しみだったり、テレビ番組でコンビニの商品開発の裏側を見るのが好きだったりして、自分も商品開発をしたいと思いました。名古屋文理大学は在学中に商品開発ができるところに魅力を感じました」

入学後に驚いたのは、実習の多さです。調理実習や製菓実習から、ラテアート、テーブルコーディネート、料理の撮影方法まで、幅広く実習の経験を積みました。

料理やテーブルセッティングの撮影を学ぶためのスタジオ(写真=名古屋文理大学提供)

考えたレシピがグランプリ受賞

3年次には商品開発のゼミに所属。地域の食品商社やメーカーとの産学連携で、フードビジネス学科のほとんどの学生が商品開発に関わります。

考案した新商品を菓子メーカーにプレゼンする小澤すずなさん(写真=名古屋文理大学提供)

私はダイナゴンという老舗の菓子メーカーの商品開発プロジェクトに参加しました。メーカーからのオーダーは、看板商品であるカステラをアレンジした、若い世代にも買ってもらえるような新商品。駅のお土産コーナーを観察することから始めて、アンケートの分析や流行などを踏まえて新商品を考え、自宅で試作を繰り返し、プレゼンしました」

学生とメーカーで開発した新商品のお披露目会。一番右が小澤さん(写真=名古屋文理大学提供)

ゼミでの商品開発と並行して、愛知県安城市産の農畜産物を使用したPR丼「ANJO-DON(安城丼)」のレシピコンテストにも応募しました。同大学は安城市と連携していて、このコンテストはフードビジネス学科の全学生を対象に毎年実施されています。小澤さんは23年度に「やみつき間違い“梨”‼韓国風プルコギ丼」でグランプリを受賞しました。

この安城丼は、市の特産物である梨を風味づけやお肉を柔らかくするために活用し、具の野菜は規格外のものを細かく刻んで使用しました。商品化して産直販売店で販売されることが決まっています。

「実習のほかに食と環境、SDGs、マーケティングなど3年間の学びを作品に生かせたことが、受賞につながったのだと思います。商品開発の経験を通して、リサーチのためにお店に足を運んだり、試作をしたり、メーカーへのヒアリングをしたりといった実行力や、商品をアピールする提案力が身についたと思います

安城丼レシピコンテストでグランプリを受賞、商品化のための試食会に参加(写真=名古屋文理大学提供)

商品開発の経験は、就活の武器に

小澤さんは、中食企業の商品開発職での採用が内定しています。

「ほかの大学の学生にはない実習や商品開発の経験があるので、面接には自信をもって臨めましたし、面接担当者の言葉もすぐに理解することができました。就職したら、まずは自分が開発した商品がSNSで話題になることを目指します」

フードビジネスを大学で学ぶ意義について、小澤さんが所属しているゼミの担当教員、渡邉正樹准教授はこう話します。

「食に関する体系化された知識を学ぶことは、マネジメントする立場になったときに役立ちますし、食品衛生法や食品表示法など専門的な知識があることによって、商品開発などの視点も変わってきます。企業の採用担当の方からは、本学の卒業生は業界についてよく理解しており、ミスマッチがないといった言葉をいただいています」

名古屋文理大学健康生活学部フードビジネス学科の渡邉正樹准教授(写真=名古屋文理大学提供)

卒業生は、約7割が食品流通、食品メーカー、フードサービスなど食関連の企業に就職します。商品開発の経験は就活にも大いに役に立ちます。

 

>>【連載】現役大学生による 学部・学科紹介

(文=中寺暁子)

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