「学歴フィルター」の抜け道を探せ 就職に強い大学、見極めるポイントは?【後編】

2024/04/11

■特集:令和のキャリア教育・シューカツ事情

就職活動の際、偏差値が高い大学、名前の知られた大学のほうが有利なのでしょうか。「学歴フィルター」の存在に、おびえてしまう学生も多いです。『「就活」と日本社会 平等幻想を超えて』(NHK出版)などの著書がある千葉商科大学の常見陽平准教授は、「大学選びはもっと包括的に考えるべき」と話します。どういうことなのでしょうか。(写真=Getty Images)

>>【前編】「学歴フィルター」は都市伝説なのか? 大学の偏差値と就職の関係

「偏差値が高い」は本当に安心?

大学進学を考えるとき、親はどうしても「その先」にある卒業後の就職のことまでイメージします。そのため、偏差値の高い大学、ブランド力のある大学に入ったほうが安心、と考えがちですが、常見准教授は「それはあまりに雑な考えです」と言います。

「そもそも『旧帝大』とか『早慶上理』『GMARCH』『関関同立』『日東駒専』などのくくり方は、もう何十年も変わっていないじゃないですか。保護者の方が高校生のときにも聞いたと思います。その間に世の中は大きく変わり、大学も変革を求められてきました。入試の偏差値が低めでも、学びのレベルが非常に高い大学がたくさんあり、そういう大学は受験者数も伸びています。一方で、ブランド力に甘えて、学びの質を高めることに無頓着な大学もあります」

多くの企業は、そこに気づき始めていると、常見准教授は言います。

「企業の採用担当の間で『いろんな大学の学生を採れ』『伸びている大学の学生を採用しよう』という動きが広がっています。実際に、面白い教育をしている大学はたくさんあります。たとえば、私が所属する千葉商科大学だと、サービス創造学部が多彩な企業と連携して学生の学びを深め、イベントを開催したり、新商品の提案をしたりと、アクティブラーニングを活発に行っています。その結果、これまで採用実績のなかった大手企業に就職する学生が出てきました。要は、『レベル』をとるか『ラベル』をとるかということではないでしょうか」

大学受験の犠牲とリターン

親は、ブランド力のある大学に入れば安心と思いがちですが、そうとは言えないということでしょうか。

「その通りです。もし『何が何でも東大、京大、一橋』『そうでないなら早慶上理』みたいな思い込みが保護者の方にあるとすれば、まずは深呼吸しましょう。少し冷静になって社会を見て、わが子を見て、考えてみてください。有名大学に入れるメリット、デメリットはどこにあるのか、と」

入試偏差値の高い有名大学に入学することは、確かに意義がある、と常見准教授は言います。ただ、そのために犠牲にするものもあります。

高校3年間をすべて受験勉強に捧げなくてはその大学に合格できないような場合、その犠牲に見合うだけのリターンがその大学で本当に得られるのでしょうか。有名大学に入ったものの、大学生活が楽しくなく、授業にも興味が持てないのであれば、得たものは『ラベル』だけです。一方で、高校時代に興味のおもむくままにやりたいことをやり、本格的な受験勉強は高校3年の夏ごろに始めて、納得感のある大学に入学する、という選択もできるのです。わが子にとってどちらがいいのかを、冷静に考えてみてください」

「サイドドア」から入る方法も

それでも子どもの就活を心配する親に向けて、常見准教授は「就活は大学受験とは違います。大真面目に考えて正面突破する以外に、いくつものサイドドアがあるのです」とアドバイスします。

「大学のホームページで公開されている就職実績を見ると、この大学からこんな大企業に就職しているんだと驚くことがけっこうあります。偏差値は低くても、伝統的に地元の銀行に毎年採用があったり、大学と企業の間に採用面のつながりがあったりする場合もあります。もちろん、4年間の学びの中で実力をつけた結果、これまで採用実績のなかった大企業に採用されるケースも多いです。キャリアセンターで聞けば、そういう企業に就職した人はどういう学生だったのかの情報を教えてもらうこともできるでしょう」

新卒一括採用とともに、中途採用に力を入れる企業も増えています。新卒採用で噂される学歴フィルターは、中途採用でも使われることがあるのでしょうか。

中途採用の場合、大学名よりも経験が重視されます。ですから20代は修業の時期と覚悟を決めて、新卒で入社した会社で専門性を身につけ、そこから次に進む方法もあります。そう考えると、大学名はささいなことと言えるかもしれません」

就職に強い大学を見極める

偏差値は低めだけれど就職に強い大学――そのような大学を選ぶ場合、見極めるコツはあるのでしょうか。「実はそれが難しい」と常見准教授は言いつつ、いくつかのポイントをあげます。

① 全体の就職率より、業種別の割合を見る
「就職率99%」という数字は、あくまで就職したかどうかを表すものなので気にする必要はありません。「流通は30%だが、IT系は10%しかない」など、もう少し細かく見てみましょう。その傾向を大学ごとに比較すれば、自分の希望に合う大学が見えてきます。

② 就職先の振れ幅は広いか
多くの大学では、ホームページや大学案内で具体的な就職先が紹介されています。「こういう企業に就職したい」と思える企業が入っているかを見てみましょう。業種など振れ幅の広さを感じさせる大学がおすすめです。

③ 魅力的なキャリア教育があるか
就職に役立つ授業がどの程度用意されているかをホームページやオープンキャンパスなどで確認しましょう。就職対策のプログラムだけでなく、通常の授業でアクティブラーニングを徹底的に取り入れていることも、プレゼン力を鍛えるうえで大切です。

④ キャリアセンターの支援体制を確認
エントリーシートの推敲や面接練習などを、丁寧にサポートしてくれるかどうかもチェックしておきましょう。大学によっては、4年間担当するキャリアカウンセラーがつくケースもあります。

そのうえで、常見准教授は高校生に次のようなメッセージを送ります。

「高校生と話していると、『〇〇大学に入れないと自分は認められない』『本当は文学が学びたいけれど、就職するためには経済や法律を学ぶほうがいい』などと自己暗示にかかっている人が少なくありません。でも、それは自分で自分を学歴フィルターに押し込んでいるようなものです。大学名や学部名よりも、『ここで4年間過ごせたら面白そうだ』と感じる大学を選んでください。たとえば東京都内の大学にも、緑豊かな多摩地区の大学もあれば、都心にある大学もあります。キャンパスが広くて学食がいくつもある大学もあれば、キャンパスは狭くてもすぐ近くに安い食堂やカフェや飲み屋がある大学もあります。あなたは大学時代の4年間をどこでどのように過ごしたいですか? それをきちんと考えて、魅力を感じる大学で自分を磨いてほしいです。その先にこそ、将来自分が進む道があると思います」

>>【前編】「学歴フィルター」は都市伝説なのか? 大学の偏差値と就職の関係

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常見陽平(つねみ・ようへい)/千葉商科大学国際教養学部准教授、働き方評論家。1974年生まれ、北海道札幌市出身。一橋大学卒業後、リクルートに入社。バンダイに転職後、2010年に『くたばれ!就職氷河期 就活格差を乗り越えろ』で注目を集める。38歳で一橋大学大学院社会学研究科修士課程に入学し、14年に修了。フリーランスなどを経て現職。

(文=神 素子、写真=高野楓菜)

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