社会が変化する中で、大学も大きく変化しています。30年以上にわたって大学の姿を見つめてきた教育ジャーナリスト・小林哲夫さんが、大学の変容を切り取り、「令和の大学」について考えます。いま、「女子大」はどのような状況になっているのでしょうか。(写真=Getty Images)
■令和の大学を考える
「いま、女子大は……」で始まる記事をよく見かける。
残念ながら、その多くは女子大の行く末を案じる内容である。大学受験の最新ニュースで「女子大離れ」というフレーズがしばしば登場する。志願者の減少といった定量的なデータをもとに報じられており、間違ってはいない。だからといって、女子大の中身が共学よりも見劣りする、というわけでは決してない。教育内容や進路支援では充実しているところはいくらでもある。教職員の面倒見が良い。企業などからの社会的な評価は高い。だが、悲しいかな、女子大にアゲインストの風が吹いているのは確かだ。
共学化して方向転換する大学も
女子大そのものの役割を見直そうとする大学もある。定員割れを起こし方向転換せざるを得なくなった。男子学生の受け入れである。
2020年以降、共学化したのは東北女子大→柴田学園大、神戸親和女子大→神戸親和大、鹿児島純心女子大→鹿児島純心大である。これらは女子大時代より志願者が増えた。
2026年に学習院女子大は学習院大と統合を予定している。これによって現行の学習院女子大は学習院大国際文化交流学部に生まれ変わる。学習院女子大としての募集は2025年までとなり、同校の学生は2026年に学習院大へ転学する形がとられる。つまり、今年(2023年)の学習院女子大の新入生は2026年に学習院大4年となり、翌年学習院大卒となるわけだ。
学習院女子大は最近の5年間は、ほぼ定員割れを起こしていない。2023年は定員355人、入学者数は412人だった。それでも少子化が進む将来への危機感を抱き、先を見越して早めに手を打ったといえよう。
学習院女子大は統合についてこう説明する。
「より一層の男女共同参画が求められるなか、学校教育を取り巻く社会環境も速いスピードで変化しています。こうした変化は様々な制限や負の作用をもたらす一方、多くの機会を生み出す時機ととらえることができます」(同校ウェブサイト)
そのため、「伝統に革新を加え未来へ向けてより深化し発展するための第一歩」であると。以上についてはまだ計画の構想中であり、確定していないことが多い。統合で大学はどう進化するか、注目したい。
女子大の変化
こうしたなか女子大は大きく変わろうとしている。これまで人文系(文学部など)、生活科学系(家政、人間科学部など)、保健医療・福祉系(看護、福祉学部など)が多かったが、社会科学系(法、経営学部など)、理工系(工学部など)に進出するようになった。京都女子大法学部、共立女子大ビジネス学部、昭和女子大グローバルビジネス学部、武庫川女子大経営学部、そして奈良女子大工学部、日本女子大建築デザイン学部(仮称、2024年設置予定)などだ。
女性の社会進出が進んだことによって、ビジネス、工学分野を目指す女子が増えた。だが、女子大にこのような学部は数少ない。これまで女子大へ進んでいた層が自分の夢をかなえるため、共学の経営系や工学系学部を目指すようになる。そこで、女子大は女性が将来活躍できる学びの場=経営系や工学系などの学部をつくった。そんな背景がある。
女子教育の自負と自信
女子大は共学との違いを示すため、女子教育の意義をアピールする。たとえば、こんな感じだ。キャンパスは女子だけなので、あらゆる場面で「男性にまかせる」という発想は起こらない。集団をまとめる。組織を運営する。外部と交渉する。そして力仕事もだ。こうして自立心が育まれリーダーシップが身につき、社会に出てからさまざまな分野で活躍する。それは結果的に性別による役割分担がなくなる社会を築きあげていく。ジェンダー平等社会の実現である。
また、女子大にはこれまでの蓄積がある。就職活動において、各分野へ卒業生がはばたいている姿は在校生にとってロールモデルとなる。大きな励みだ。卒業生を乗り越えようとする意欲的な後輩も現れる。頼もしい。女子大にはこうした自負、自信があり、女子教育に誇りを持っている。
女子大は女子大であり続けるために新しいテーマに取り組み、女性の社会進出をサポートする教育改革、学部づくりに力を入れている。一方、いくつかの女子大は共学化、他大学との統合によって新たな展開を考えている。いずれもより良い教育を行うための改革だ。それはチャレンジでもある。女子大の変化をチェックしよう。女子大のチャレンジは、女子学生のチャレンジにつながっていくのだから。
プロフィール
小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。

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