「工学系女子」を増やす…女子大のねらい 「力」ではなく「知のエンジニア」の育成を

2023/12/08

■大学トレンド

女性エンジニアの育成が求められていますが、理工系の分野に進む女子学生はまだまだ少ないのが現状です。こうした状況を打開しようと、大学側も女性エンジニア育成のためにさまざまな取り組みを行っています。

女子大初の工学部が誕生

大きな注目を集めたのが、2022年4月に誕生した奈良女子大学の工学部です。女子大初となる工学部の設置へと踏み切った背景を、⻑谷圭城・工学部教授は次のように話します。

「奈良女子大学には『女性が活躍する場を広げる』という、女子大としての使命があります。その点で、工学分野における女性比率の低さは大きな課題です。エンジニアの世界は、これまで日本を支えてきた機械や電気などの『力のエンジニア』から、ITやAIなどの『知のエンジニア』へと変わっています。そうした分野で女性エンジニアが増えて男女差がなくなれば、日本社会が変わっていくことにつながるだろうという考えがありました」

奈良女子大学工学部「造形基礎演習Ⅰ」の授業の様子。

工学部新設にあたり、全国の女子高生にアンケート調査を実施し、「工学に興味はありますか」と質問したところ、4分の1が「興味がある」と回答しました。その中には文系クラスの生徒もいたそうです。それなのに、なぜ工学部の女子学生が少ないのでしょうか。

「調査の中で『なぜ工学部に進学しないのか』と理由について聞いたところ、『女子が少ないので工学部に進学するイメージがわかない』『工学部は学科やコースが細かく分かれていて本当に自分に向いているのかもわからないし、将来のイメージがわかない』『高校に工学部出身の教員がいないので、工学部での学びをイメージできない』といった声がありました。高校の文理選択の段階で工学に対する理解が深まれば、工学部に進む女子やエンジニアを目指す女子が増えるのではないか。もっといえば、中高生の段階から工学に興味を持ってもらうことが非常に重要ではないかと考えました」(長谷教授)

女子中高生にエンジニア体験が人気

そこで奈良女子大学では、23年7月から女性エンジニア養成プログラム「Women Engineers Program」をスタートしました。多くの企業の協力のもと、大学の枠を超え、中3、高校生と大学生を対象にさまざまなワークショップを参加費無料(交通費・宿泊費支給)で実施しています。金属加工の体験ができる講座や、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントのロボットトイ「toio™(トイオ)」を使って最新ロボットの仕組みや魅力に触れられるものなど、7つのワークショップを用意したところ、110人程度の定員に33都道府県から190人近い申し込みがありました。

「工学部設置に伴い、多くの企業から教育研究に支援をというお声がけがある中で、中高生にも工学に触れる機会を提供していこうと始めました。同じ興味を持つ仲間と集まって活動することでコミュニティーの拠点が形成できないかとも考えています。このワークショップで出会った生徒同士で大学受験などの情報交換をしたり、将来一緒に仕事をしたりする関係を育んでもらえるといいですね」(長谷教授)

「見て触って作って、リアルな工学がわかる」(ワークショップ提供=DMG森精機株式会社)

参加した中高生からは、「初めて会う仲間たちと、レベルの高い目標に挑戦してクリアするのはとてもやりがいがあった」「みんなで役割分担してやっていくことが面白かった」といった声が寄せられ、好評だったといいます。

大学としても手応えを感じていると長谷教授は言います。

「中高生向けのワークショップの参加者は、中学3年から高校3年まで学年はバラバラですが、同じ興味関心のもと集まっているので、本当に楽しみながら学習しています。出会って半日ぐらいで昔からの友達のようにワイワイとものづくりを進めています」

「ロボットトイ『toio』で最新ロボット体験!」(ワークショップ提供:株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

「Women Engineers Program」は、来春も開催される予定です。

全国で広がる工学系女子を増やす試み

奈良女子大学に続き、お茶の水女子大学も24年度に共創工学部を新設します。工学と人文、社会科学を掛け合わせた文理融合型の工学部です。また、学部新設に先駆け、理工系女性人材の育成を促進しようと、22年に理系女性育成啓発研究所を設立しました。女子中高生向けに理系女性のロールモデルを紹介する講演会や、理系分野に興味を持ってもらえるようなワークショップなどのイベントを開催しています。

一方、すでに理工系学部がある大学では女子枠を新たに設置する動きが目立っています。

芝浦工業大学では、18年度入試から特に女子学生が少ない工学部機械電気系4学科で公募制推薦に女子枠を設置。その後、少しずつ拡大していき、23年度入試では、工学部9学科、システム理工学部6学科、デザイン工学部2学科、建築学部3学科に拡大。さらに、22年度からは入試で優秀な成績を収めた女子入学者100人以上に入学金相当(28万円)の奨学金を給付し、女子学生の入学を後押ししています。

東京工業大学は、24年度入試から4学院(他大学の学部にあたるもの)の総合型・学校推薦型選抜で女子枠を導入。25年度入試では全学院に女子枠を設置し、募集人員の約14%相当の計143人にまで枠を広げていく予定です。

東京理科大学は、24年度入試から工学系分野の3学部16学科の総合型選抜に女子枠を設けます。募集人数は各学科3人、計48人となっています。

他にも、北見工業大学金沢大学琉球大学など、24年度入試から女子枠を導入する大学が増えています。

女子学生にとって、こうした動きは大きなチャンスでもあります。これまでの工学のイメージにとらわれず、少しでも興味があれば講演会やワークショップなどに参加してみるのがおすすめです。

(文=岩本恵美、写真=奈良女子大学提供)

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