(社説)財務省と森友 情報公開の理念 無視か
あるのかないのか。それすら明らかにしないまま、公文書の開示請求を拒む。その姿勢を改めるよう、国会が同意した専門家からなる審査会が意見を述べても、従わない。
財務省の対応には驚くばかりだ。森友学園問題で公文書の改ざんにまで手を染め、国民の知る権利を侵したことへの反省はないのだろうか。
開示は、改ざん作業を強いられたとして自死した元近畿財務局員赤木俊夫さんの妻、雅子さんが求めている。
請求の対象は、改ざんをめぐる捜査に関し、財務省が検察庁に任意提出した書類などだ。同省が存否を明らかにしないまま不開示としたため、同省に対し、その取り消しを国の制度に基づき求めた。
同省は手続きに従い、国会の同意を得て内閣が任命した大学教授や弁護士、元裁判官らからなる情報公開・個人情報保護審査会に諮問した。審査会は3月、存否を明らかにしないままの不開示決定を取り消すよう答申した。
しかし財務省は、その答申を受け取りながら、先月末、雅子さんの請求を退けた。
財務省は、存否を明らかにすると、何をどの範囲で提出したか推認され、将来、同種の刑事事件の捜査に支障が出かねないと主張した。行政機関情報公開法が、原則開示の例外として認める「犯罪の予防や捜査、裁判などの維持に支障を及ぼす恐れがある情報」にあたるというのだ。
一方、審査会は、存否を答えても文書名や作成者、内容がわかるわけではなく、捜査に支障が出る「手の内情報」にはあたらない、と答申で述べた。説得力のある判断だ。
そもそも、雅子さんが開示を求めているのは捜査当局がつくった供述調書などではなく、財務省の行政文書であり、広く公開されるべきものである。
財務省の今回の決定は答申の指摘に触れていない。雅子さんの弁護団は「答申がなかったかのような内容だ。無視してよいなら(制度は)無意味になる」と批判した。
答申内容と異なる決定が出るのは極めて珍しい。不服申し立てには、いったん判断した省庁自身に請求するという限界があり、審査会は第三者の立場からそれを補い正す役割を担う。森友問題で財務省が犯した罪の大きさを省みれば、答申に従うのが当然だ。
国民主権の理念にのっとり情報の一層の公開を図り、国民の的確な理解と批判のもとに公正で民主的な行政の推進に資する――行政機関情報公開法の精神だ。財務省が背を向け続けるなら、改めさせる責任は岸田首相にある。