ナポレオンの足跡、「物体」のマスコット…パリ五輪が映す歴史と理念

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構成・平賀拓史
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 熱戦が続くパリオリンピック(五輪)。開会式はパリの象徴・セーヌ川で行われ、ベルサイユ宮殿やエッフェル塔前など数々の史跡で競技が繰り広げられる。五輪の場から見えるフランスの歴史について、フランス政治や移民が専門の大嶋えり子・慶応大准教授に聞いた。

 〈開会式の演出には、クラシックや絵画などの伝統芸術から、アニメやヘビーメタルなどのポップカルチャーまで幅広く採り入れられた〉

 演出に協力した著名な歴史学者パトリック・ブシュロンは、北京五輪(2008年)のような「偉大な国民史」を誇示する式典はしたくないと述べ、権威的、壮大な演出からは距離を置こうとしていた。

 カウンターカルチャー出身で非白人の、マリ出身の歌手アヤ・ナカムラが、フランス国家の権威を象徴する共和国親衛隊の楽団と共演したり、モロッコ系コメディアンのジャメル・ドブーズが同じく北アフリカ系のジダンに聖火を渡したりするなど、各所にフランスの伝統と現代の新しい文化の融合を示す演出と、多様性を押し出す一貫した姿勢があった。

 他方で、女装した「ドラァグクイーン」らが「最後の晩餐(ばんさん)」を思わせる構図で踊りを披露するなどの演出は、宗教関係者や右派からの非難を招いた。式の芸術監督トマ・ジョリーは、あらゆる人々の目にとまる開会式でも、彼自身が主宰する舞台と同じ前衛的なスタイルを貫いたが、ここまでの厳しい批判は想定していなかったのかもしれない。

甥のイメージ戦略で神格化されたナポレオン

 〈選手団の船はセーヌ川をオステルリッツ(アウステルリッツ)橋からイエナ橋まで航行。ともにナポレオンが勝利した戦場にちなむ〉

 何かにつけて歴史上の出来事や人名にちなむ地名をつけるパリの中でも、ナポレオンゆかりの地名や史跡は多い。

 アーチェリーなどの会場になるアンバリッド(廃兵院)にはナポレオンの墓がある。シラク元大統領の棺が葬儀まで安置され、女性初の欧州議会議長シモーヌ・ベイユの葬儀が行われるなど、国家的な業績を挙げた人物にまつわる場所としても知られる。

 パリの大改造が行われ現市街の形ができたのは第二帝政(1852~70年)期。人気が低かった皇帝ナポレオン3世が伯父ナポレオンのイメージに頼り、ナポレオンが神格化されていったのもこの時期だ。

 現代ではナポレオンの業績に対して批判も多い。フランス革命で禁止された奴隷制を復活させたことや、ナポレオン民法典が女性の権利を後退させたことに対してだ。マクロン大統領も彼の没後200年の式典で、その負の側面に言及した。

後半ではコンコルド広場、そしてタヒチなど、各競技の会場が持つ歴史、そして記憶について話が広がります。大嶋さんは旧植民地の国の選手が開会式でとった行動に注目します。

 ただ、ナポレオンはフランス…

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この記事を書いた人
平賀拓史
文化部|論壇担当
専門・関心分野
歴史学、クラシック、ドイツ文化など