第15回「なんで置いていくの」学習帳ちぎった手紙、30年後の母の「返信」

有料記事想いをつづって

西晃奈
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 ガサッ。

 関西地方にある古びた木造アパートのドアノブに、ポリ袋が引っかけられた音が聞こえる。

 お母さんが週に1度、帰ってきた合図だ。

 周りの大人に聞くと、仕事以外の時間は男性の家にいるらしい。

 袋の中にはわずかな食料。食べ盛りの子ども3人にとって、おなかがいっぱいになる量じゃない。

 だから、小学3年の長女は小学1年の弟と一緒に、部屋に落ちている小銭を何度も探し集めた。

 15円を握りしめて、近くのパン屋さんへ。パンの耳を買い、4歳の妹と3人で分け合った。

 薄暗い6畳2間には、似つかわしくないほど立派な仏壇があった。

 本当におなかがすいた時、引き出しにあるお布施用の現金にも手を付けた。お母さんに気付かれると、ひどく叱られた。

 少し前に離婚したお父さんにお金をもらいに行ったり、公園でベンチに座るおっちゃんたちの話し相手になって、飲み物を買ってもらったりもした。

 こんなにひもじいのに、お母さんはなんで帰ってこないんだろう。

 国語の授業で書いた詩を、お母さんが褒めてくれた時は、うれしかったな。

 字なら気持ちが伝わるかも。

 学習帳をちぎった切れ端をたたんで、手紙を書いた。

 『なんでお母さんは私らを置いていっても平気なの?』

 『(宗教の)教えとはちがうことをしているんじゃないの?』

 20通以上、お母さんが必ず確認する仏壇の引き出しに入れた。

 手紙は毎回なくなっていた。でも、返事は一度もなかった。

 そんな暮らしが1年近く続いたあるとき、妹が「パンの耳、あきた」と泣き出した。

たたかれたドア、その先にいた人は

 パン屋に並ぶ色とりどりのジ…

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この記事を書いた人
西晃奈
ネットワーク報道本部|大阪府庁
専門・関心分野
子育て、教育、働き方、防災、平和

連載想いをつづって(全30回)

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